ステーションワールド


ステーションワールド

僕は裸足だ、靴は駅前に置いて来た。
駅の近くの美術館ではガラス細工の芸術作品が破壊されたと大騒ぎだ。
しかも外側のショーケースは無傷だというのだから、
まあこの世界では不思議な事であるのかも知れない。
まあ駅前でもブラブラ散歩でもしてみるか。
駅前通りの歩行者専用道路では面白い催し物をやっている。
展示道ってやつなのか、今日は『物事の起源展』という事らしい。
どれどれ、ちと観てみるか。
蛙の背中にバッタが乗っている像、タイトルは『共存の悲しみの起源』
次は板の上に卵が立っている、タイトルは『重力の起源』
まあ色々観ていくと、ボロ傘が捨ててあるだけの作品、タイトルは『孤独の起源』
そして説明書きが添えてある。
『唄にもなっています可哀想な少女が持っていた傘とされています。
赤い靴、履いてた、女の子~~~』という説明書きだった。
おっと、では駅前に戻るとしよう、靴が盗まれては大変だ、あの靴の位置からでしか僕は移動できないのだから。
戻って靴を履く、すると足下に光の穴が現れて吸い込まれて行く。
ここからは今までの記憶が全くなくなるのだから、そして記憶が無くなると時間を超えられるのだから。

色々な世界を観てきたが到着した様だ、
僕は長閑な田園地帯を歩いていた。
やがて大きなお屋敷が見えて来た、どうやらそこに行かなくてはならないのかも知れない。
ドアベルを押すと「入れ」という怖そうな声が聞こえた、
僕は恐る恐る屋敷に入った、
老人が僕を待っていた様だ、老人は著名な芸術家らしい、
「良く来てくれた、君を待っていたのだよ、君はムーバー(移動者)だろう?」
「はい、まあそんなところです、」
「実は君に頼みがあるのだ、意外な事かも知れんがな」
「まあ私にできる事でしたら、、」
「この作品のタイトルを君に付けてもらいらいたいのだ。」
「でも、御自分では付けないのですか?」
「いやいや、昔はそうしていたし、そうするのが普通だったのだが、
それにそうしてきてその通りの作品を作ったという事での人様からの評価だったからのお、
私の作品で人々は癒されたり涙を流したり、まあ感動してくれたという事だ。」
「では今回の作品も何かあるのでしょうね?」
「この歳になると何も考えずに勝手に作ってしまうのだ、何の脈略もなくだ、そしてこれは何を表しているのかで悩むという事が多くなって来たのよ。」
「分かりました、では早速作品を拝見させて頂きましょう。」
凄い作品だった、はっきり言ってショックだった、
ガラス細工のその作品は腸の様にうねりそれらが様々な色を織りなし更に大きく一周し、
無数のメビウスの輪を構成しつつ全方向に光を放っていた。
これは作品というか装置なのか?装置なのかアートなのか?
両者を超えたものなのか?
僕は二つ返事でオッケーを出した。
「ムーバーとしての私にはこれはたまらない魅力です、是非この中に入ってみたいです。」
「おお。やってくれるか、、ありがたい」
僕は作品の前に立って体は不動状態で別な僕がそこに入って行った。
観た事も無い世界がある、例えば音が光より早い世界とか巨大な首無し胴体が立っていてその周りに沢山の頭が宙を舞っている世界等、、
そして人形が人間を飼っている世界もあった、人形の周りに人間が群がっている、人形は動かない、しかし動く人間を飼っている、
そこで声がした、「おじさん、待って、ねえおじさんったらあ。」
声の主はボロボロの服を着た少女の人形だった、沢山の人間を飼っているみたいだった。
僕は何かを思い出しそうになったが出てこない、
「僕を呼んだのかい?」
「そうよ、私の傘知らない?」
そう、思い出しそうになったが出てこない、
「んー、探してみようか?僕で良ければね。」
「お願い、おじさんムーバーでしょ、きっと何処かにあるはずなの、これでも私結構有名なのよ。」
「傘が見つかったらどうするんだい?」
「私ここから出るわ、動く人間になってみるわ、」
「分かった、僕も何か思い出しそうなんだ、いつの時代、何処の場所とかね、」
「じゃあお願いね、」
もう一人の僕は作品から出る事にした。
「おお、どうだ、何かタイトル思いついたかね、」
「いいえ何も、今から私が適当な詩を読みますので、そこから拾ってみて下さい。」
「分かった。。」
僕は目を瞑り、
「可哀想な飽きっぽい少女、君の為になにができよう、
失くした傘ももうボロボロだよ、でも君はボロボロが似合う人気者、
失くした傘を僕が拾うのかい?それとも君が世界をぶち破って奪いにくるのかい?
どちらでも良いさ、大きく変化する時にもう一つのムーバーステーションが完成するのだからね。」
僕は詩を読み終えた、
老人は「これだ、ムーバーステーションにしよう」と叫んだ。
僕は一応役目を果たしたので屋敷を後にした。
さあ移動だ、そして今日の事も今までの事も全て忘れてしまうのだ、
僕は靴を履いて光の穴に吸い込まれて行った。

今僕は展示道の中の『孤独の起源』という作品の前にいる。
作品は唯ボロ傘が置かれているだけだ、
駅周辺はガラス工芸の巨匠の作品が破壊されたと大騒ぎだ。
「見つけたのね、お・じ・さ・ん・」
後ろで声がした、、
「君とは以前あった様な気がするのだが?」
「そう、私は人形アイランドから来たのよ、と言うか出て来たのよ、
これが私の傘、ほら私って唄にもなってるでしょ?」
「ほんとだね、でも思い出せないんだが、」
「いいのよ、意識が無い方が目的地に着きやすいのよ、まるで招かれているみたいにね。」
「そうなのかも知れんな、これから君はどうするんだ?」
「私もおじさんと同じムーバーになろうかな、その前にこの展示道もうちょっと観てかない?」
そうすることにした、裸足でも周りに僕らは見えないのだし、
靴も見えないのだろう、
「おじさん、、この作品面白いわよみてみて、、」
作品名『宴の起源』と書いてあった、蛇が蛙を後ろから飲み込み飲み込まれた蛙は小さい蛇をしっぽから飲み込み小さい蛇が更に小さい蛙を飲み込み更に小さい蛙が小さい、、、、、、やがてそれが放物線を描きながらテーブルに到着、
到着した頃には既に小さい両者は卵となっている、
そこで普通の大きさの蛇と蛙がテーブルの上でお互いの卵で目玉焼きを食べている、という像、
「気に入ったのかい?」と少女に訊ねた。
「いいえ、気になったのよ、目玉焼きを作ったコックさんがいないわ。」
「では、そのコックとやらに合いに行こうか?そもそも蛙の卵を料理するのが面白いね。」
僕達は靴の置いてある駅前に向かった。
道すがら僕は駅について考えていた、
『そもそも駅前に靴を置いているがその本体の駅は存在するのか?
そして壊されたガラス細工の芸術作品と、
奇妙な作品が展示されている展示道と、
そして駅前に置いてある靴を履くと現れる光の穴と、、
僕達は単にこの三つを永遠と回っている(ループ)しているだけなのではないのか?
そしてその光の穴に入り込むと全ての記憶が無くなるのだから、
もしかしたら僕も少女もあの壊れたガラス細工作品からやって来たのかも知れない、
そして次に少女が探そうとしているコックも実はあのガラス細工作品の中にいるのかも知れない。
そう、ムーバーステーションという名のその作品自体が駅となっているのかも知れない。』
しかし、これはあくまでも推理でしかない。
まあ良い、僕達はお互いの靴を履いて光の穴を待っていた。
やはり少女の靴は赤い長靴だった。
光の穴に入ると記憶が無くなる、産道みたいなものなのか?
少女は傘を持っていなかったみたいだ、

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