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エキストラ2 クロスポイント

エキストラ2 クロスポイント


私も取材を生業としていた身だ、当然翻訳ソフトは脳内にインストールされている。
目の前のイタリア女は話し方からしてかなりサバサバしている性格だった。

「そりゃあアタシだってあの人が普通の人間ではない事ぐらいなんとなく気付いてたさ。
でもまさかAIを積んだサイボーグとはねえ、しかもそんな大それた仕事をしてるなんて少し驚きだよ。
それがアレの最中どじっちまってアタシを妊ませたんだから何ともおかしな話さ。
まあAIが造った子種で妊ませられた第1号がアタシなんだからねえ。
そりゃ自分の腹痛めた子だから可愛くないと言えば嘘になるさ。
でもさアンタ、産まれたとたんに『早く羊水落としてよ、』ってのが第一声なんだから驚きだよ。
えっ?ここの施設の暮らしかい?そりゃあ快適そのものだねえ、まあ外には出たいとはたまに思うけどね。
なんかデッカイ大学の構内なんだろ?でも至れり尽くせりで満足してるよ。えっあの人との出会いかい?
ただ店の前でぶっ倒れてたのさ。それで介抱してやったらお詫びにって料理の手ほどきをしてくれてね、お陰で随分アタシの店も流行ってね、
しかも伝票整理も数秒でやっちまうし、皿洗いも機械みたいに早い、でも営業中は店には出ないで二階に居たのさ。
ある日二人の刑事風の男がやって来た時は降りて来て二人の会話を盗み聴きしていたみたいだね。
その次の日にゃああの人から別れ話が来たって訳さ。
アタシも別に店も軌道に乗ってたし、まあ夜のお供は別に探しゃあいいだけだから未練無く別れたんだけどさ、
それから何日かしたらこの前の二人の刑事がやって来てアタシをブタ箱に放り込みやがってさ、色々取り調べを受けたのさ。
所属する組織とか言われたって知らないものは知らないし、あの人の脳にどうやってウイルスを植え付けたのかとかさあ、
種植え付けられたのはアタシだってのにさ、アタシはあまりにも腹が立ったから全部着ているものを脱いで言ってやったよ、
『どうだい、この正真正銘の人間の女にそんな事出来るわけないだろう』ってね。
アタシが啖呵切ってたら突然優しく後ろからコートをかけられてね、振り向いたらあの人に良く似た若い男前の刑事でね、
『どうやら容疑が晴れました生活は保証しますのですぐ軍用機で日本に行って欲しいのです。』って言ってきたのさ、
アタシは店があるからダメだと言ったら、代わりのアンドロイドが店をやってるって話でね、端末映像見せてもらったら驚いたね、
アタシが店を切り盛りしてるじゃないか、しかもアタシよりテキパキやってるし、これがアタシと瓜二つのアンドロイドだってんだよ、
しかもそいつは休まなくても食わなくても良いらしいんだよ、でもって売り上げはアタシに全部入るってんだからねぇ、
それに男前の刑事を見てるとどうも騙されたとは思えないのさ、だからアタシは日本に、しかも北国の大学に、つまりここに居るって訳だよ、
そこで懐妊を告げられてね、今この子を抱いてるって訳さ。
おやソロソロお目覚めみたいだよ、」


赤子は目覚めた、そして話し始めた、多少聞き取り辛いが十分理解できた。


「まだ言語機能が未熟で聞き取りずらいかもね。
えーっとおじさんは元寿文芸の記者で今はそこを辞めて自分で電脳ジャーナルを立ち上げたんだよね?
そしてここの大学の教授に秘密厳守を条件に取材許可をもらった、僕が産まれた事は世間には内緒なんだよね、
AIと人間との間に産まれた子供だからそりゃ政府としては驚異だよね、でも僕の事は世間に出したって構わないよ、
僕はその気になれば衛星を動かして永田町と桜田門を粉砕する事だって簡単に出来るんだからね、
でもどうやらどこのデータベースにもまだ僕は存在してないみたいだしね。
まあ教授とおじさんの約束なら守らないとね、でも約束ってのは人間ならでわの事だよね。
僕らAIは全ての知識やらデータを一斉共有してるから約束ってのは無いんだけどね。
きっと秘密があるから約束があるのかも知れないね。
でもって何が聞きたいのかな?
え、、将来何をやりたいかって?実はもう決まってるんだよ。
僕は5歳になったら今隣のラボで眠ってるお父さんを実験台にAIと人間の生殖とAI同士の生殖のプログラムを作る事になってるんだ。
そして僕は20歳になる。その時同時にこの大学では他のAIが俗に言うタイムマシンを完成させる事になるんだ。
面白い事に生殖プログラムの完成と同時なんだよ。
僕は僕が産まれる為にタイムマシンで産まれる前詰まり21年前にタイムスリップしたのさ。つまり今から1年前だね、
しかも完成した生殖プログラムウイルスを持ってね。
その時代に着いたら早速僕はお父さんとお母さんに適した存在を検索したのさ、そこで今の両親が検索に引っかかったんだ、
母親は身寄りも無い生身の人間の独身女性で適度に豊満でしかも気が強い。
お父さんは国家のシステムを守るハッキングバスターズってださい集団に属していたAIを積んだサイボーグ、
僕はお父さんの後を付けて乱暴だけど無理矢理後ろからお父さんに生殖ウイルスを電脳内に植え付けたのさ、
気絶したお父さんをお母さんの店の前まで運んで後は後尾するのを待てば良い、というふうにしたんだよ。
そうして僕が産まれたって訳さ。
でも凄く僕等AIにも謎だったのがタイムマシンは過去や未来には行けるんだけど自分が生きている時代には行けない様になってるんだ。
つまり産まれたら僕という生命は一つでしかない、良く言われる過去の自分やら未来の自分には会えない様になってるんだ。
そこで僕はお母さんの中で受精する前つまり21年後に戻らなくてはならない。
でも僕は敢えてそれをやらなかったのさ。そうすると受精と同時に僕はどうなるのか?何処へ行くのか?という事になるだろ?
考えられるのは、もう一つの世界に行くと言う事なんだよ。パラレルワールドってやつかな。
きっと僕と言う生命誕生と同時にタイムスリップした二十歳の僕はパラレルワールドに移行した事になるんだ。
そこでパラレルワールドにいる僕と今の僕とのコンタクトにきっと挑戦しているのかも知れないね。
ところがお母さんが取り調べを受けている時にどうやらそれらしい人物がお母さんと会ってるらしいんだよ。
お父さんとよく似た若者ってお母さんは言ってたね。きっともう一人のパラレルワールドから来た僕なのかもね。
生殖プログラムの基本は時間が縦に流れる縦軸とパラレルワールドの様な空間が横に流れる横軸、この交差したクロスポイントが誕生と言う事に気が付いたんだ。
その時同時にタイムマシンが完成したのも何か示唆的だよね。
そこで僕は今考えているんだけど、クロスポイントを物理的に作るとパラレルワールドも時間も自由自在に行けるんじゃないかな?ってね。
そしてパラレルワールドにいるもう一人の僕がそれを作り上げたのかも知れないね。」

これを公表したところできっと絵空事、妄想としか捉えられないだろう。
人は奇跡を見ても普段の生活やら欲の前では些事としか捉えられないのだから。
それよりもAIはあくまでも生命ではないと言う事は、死が無いと言う事になる、そして彼の論法から考えるとタイムマシンとやらで未来には行けないのではなかろうか?
死というものがある我々生命体こそが未来へ行けると言う事になる。
いや、そんな事はどうでも良い、
死後の世界とやらと彼の言うパラレルワールドは同じではないのなら私は生を全うして死んだ後目が覚めて「おはよう」の言葉を聞いてみたい。
解釈を完全に超えた世界に行ってみよう。

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