青春の山田毘君

青春の山田毘君


1.二人のヤマダビ君
僕はおやじさんと山田毘君と一緒に少年院の受付みたいな所にいた、
山田毘君をこの少年院に送り届ける事になったからだ、
「えーっとヤマダビ?ひでえ事やらかしたもんだなあ」
受付のおじさんは怪訝そうに山田毘君をみた、
僕には何の罪で山田毘君が少年院に入る事になったのか知らされていなかった、
そして更に受付のおじさんが、
「よし、このクイズに答えられたら刑期を1年減らしてやろう」
「問題です、、、にある、、、みたいなものはナーンダ?」
僕は「ケセランパサラン」と答えた。
正解だった、
「おいヤマダビ、友達に感謝しろよ、刑期が一年減ったんだからな」
でも山田毘君は無表情だった、薄ら笑いまで浮かべていた、
いつも感じているのだが、山田毘君は二人いる様な気がしてならなかった、
僕に感謝してくれている良い方の山田毘君と、
何も感情の無い残酷な感じのする山田毘君とだ、
まあいずれにしても山田毘君とは刑期が終えるまではお別れだ、


2.チェロの部屋
それから何年か経った、
僕は子供の頃からおやじさんに雇われている、山田毘君も同じだ、
おやじさんは身寄りの無い僕たちを引き取ってくれた恩人だ、
そして物心ついた頃からおやじさんの経営している楽器工場で働いている、
ここでは打楽器、弦楽器、管楽器等あらゆる楽器を作っている。
しかし、子供の頃からきつく言われて来た事があった、
『絶対にチェロの保管部屋には入ってはいけない』との事だった、
しかしもう僕は成人した大人だ、その部屋に何があるのか知っても良いのではないか?
一人で留守番を任されたある日僕はその部屋に入ってみる事にした。
古いチェロが沢山置いてある、何故かそれぞれの楽器にはスイッチが付いている、
一つスイッチをONにしてみた、チェロの穴の部分が光った、
何か壁に映し出された、それはリアルな男女の営みだった、
かなりリアルなものだ、きっと盗撮なのだろうか、
次々とスイッチを入れた、ものすごく如何わしい映像だ、
我慢できないが、オソソをこの部屋でするわけにはいかない、
バレては大変だ、次の楽器のスイッチを入れると「ダークホラー」と言うテーマが出て来た、
エロの次はグロなのか?
リアルな盗撮グロテスクホラーならきっと殺人シーンまで満載なのか?
しかも本物の、、
再生が始まろうとした時外から女性の声がした、
僕は慌てて全てのスイッチを切って部屋を出た、
工場の入り口には小学校2年生のアユミちゃんとお母さんが立っていた。
「今からアユミのフルート教室なの、良かったら一緒にお散歩でもどお?
工場も今日はお休みみたいだし、、」
そうだあんなもの見た後は外の空気を吸った方が良い、
「あ、丁度僕もパチンコでも打ちに行こうかと思ってたところっす、」
僕達は工場を後にした、

3.シャボン旦那
アユミちゃんを教室へ送る道すがら、
おやじさんの本当の息子さん、通称シャボン旦那が恒例のシャボン玉を飛ばしていた、
シャボン玉を眺めながらいつも同じ事を独り言で言っている、
「このシャボン玉の中にいる物質達はシャボンが破裂すると同時にそれぞれバラバラになって過去に行ったり未来に行ったりするのだよ。」
僕は昨年若旦那に単にシャボン玉をどう思うか、と聞かれたことがあった、
僕は真面目に、
「球体、しかも完璧な球体を人為的にいとも簡単に作れる事は凄い事だと思います、
どんなベアリング工場でも完璧な球体は作れませんし、」
シャボン旦那は嬉しかったみたいだ、
「お前さんに良い事を教えよう、来年の、、月、、日にこの町は無くなるんだ、
いや、この町が無くなると言うよりは俺たちがここからいなくなるのかもな、
町は残るかもな、でも町の住人達は総入れ替えになるかも知れないぞ。」
そんな話を思い出した、そして考えてみたら、その日は正に今日だった。

4.念日
アユミちゃんはフルート教室のある建物に入っていった、
僕も「では僕は個室パチンコ行きますんでここで、楽しい散歩だったっす」
とお母さんに別れを告げた、
お母さんは
「私も個室パチンコやってみたいなー、ねえ良かったら教えてくれないかなあ、
お金は私が払うからさあ」
個室パチンコは狭い個室とは言え二人位は入れるスペースがある、僕も
「いいですよ、お金もね、でもあくまでもギャンブルですからあまり勧められませんけど」
僕達は個室パチンコに入った、機械にお金を入れようとした時、
「ねええ、あなた性的興奮丸出しよ、」
「えっ、何ですかいきなり!」
「あなた童貞でしょ?隠さなくっても良いのよ」
「はー?」
「私が色々教えてあげるね」
いきなりチェロの部屋で見た映像が頭に浮かんで来た、
もう歯止めが利かない、こうなりゃ道徳糞食らえだ、
鼻血を出しながら、直に僕は直に果ててしまった。
その時ドアがノックされた、
多分パチンコ打ってないのならさっさと出て行け、との忠告だろう、
「はいすみません、今やっと財布が見つかりまして」
と嘘をついたが、返って来た返事が、
「嘘はいけねえなあ、お二人さん、」
あ、山田毘君の声だ、
友達の山田毘君が今日出所したんだ、、
僕は喜んでドアを開けた、確かに山田毘君だ、
「刑期終わったんだね山田毘君、良かったね」
「ふん、こっちが檻に入ってるってのにおめえはいい気なもんだぜ、
人妻と個室パチンコで、、、かよ、教えてやろう、
この店には防犯カメラってものがあってな、
おめえさん方の行為一部始終丸見えって訳よ、
悪いがダビングさせてもらったぜ」
と言って山田毘君はメモリースティックをちらつかせた、
「おもしれえからこれ町中に流出させてもらうぜ、」
悪い方の山田毘君だった、

5.虚玉
チェロの部屋に映し出された映像を考えてみると
おやじさんの工場では違法なビデオをチェロに隠し入れて裏販売していたのか?
その撮影やら盗撮まで山田毘君が関わっていたのだろうか?
盗撮にしては刑期が長すぎるではないか?
もしかして『ダークホラー』、、つまり実写グロテスクホラームービーにも関わっていたとしたら、
下手をすれば猟奇殺人犯ではないか?
ならばこの長い刑期は当然だ、
そしてアユミちゃんのお母さんは「それだけは勘弁して、お願ーい、何でもするからさあ」
と泣き崩れていた、
しかし、僕には、自信があった、山田毘君には負けない、
いや誰にも負けない、、
『今日がその日だからだ』
僕は笑いながら山田毘君に言い放つ、、
「どうぞどうぞ是非流出でも裏販売でもすればいいさ、
ムショの中じゃシコシコも叶わんかったろうになあ、可哀想な山田毘君、
ははは、、、存分にやってくれよ、
でもね、今日これからもっと驚く事が起こるんだよ、、皆様方、、」

今僕は江戸時代にいる、
まだ五歳の子供だ、しかし不思議なチェロの部屋の淫夢は時々みる、
個室パチンコの淫夢もだ、
チェロなんてそんなもの日本にはまだ無かった、
パチンコも無かった、でも夢には出て来た、
何も不思議ではなかった、
シャボン玉は破裂ごとに何処にでも連れて行ってくれた、
正確には様々な世界自体がシャボン玉なのだろうか?
シャボン玉はどんどん破裂している、
しかし完全な球体ではない、、
空気抵抗だって受けるし、、
僕の方が巧妙な嘘つきだ、、

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