絶対に忘れてはいけない決済24時 〜中野編〜

お昼休み。

午前に疲弊した頭と体をしっかり休ませ、午後に向けて英気を養う時間。

普段通り、少し早めに食事を済ませ、職場の同僚と二言・三言他愛もない会話を交わす。いや、厳密に言えば、普段通りではなかったように思う。自覚はあった。その日の私はマスク越しでも分かるくらい、ずっとニヤニヤしていた。




2022年12月15日。SKE48超世代コンサートまであと、3日。

まるで三日後に迫った遠足を待つ小学生かのように、私はウキウキ、ドキドキしていた。というのも、3日後に中野サンプラザホールで開催される超世代コンサートは、私、時田にとってまさに悲願だった。


去年、同時期に行われた新世代コンサートは、体調不良ならびに流行病の陽性疑いでやむなく参加を自粛。それから一年、ライブ中のパフォーマンスを撮影することが出来る『カメラ席』のチャンスは何度かあったが、運も愛も足りず、落選。そう、一年ぶりのカメラ席チャンスで、有り難いことに当選を果たした。


カメラ席は良い。いや、一度も経験したことないのだど。多分良い。いや、かなり良いはず。メイビー。プロパブリー。

好きなメンバーの光も影も、自分のファインダーにおさめることができる。私のような編集をかじったようなヲタクからすれば、極上の素材が、それも既成の素材ではなく、オーダーメイドの素材が手に入るのである。


故に、とてもソワソワしていた。


来る日のために、新しいレンズとカメラをレンタルした。これでもう、オートフォーカスに10秒くらいかかる十年も前の愛機とは(一旦)おさらばだ。



来る日のために、練習試合を組んだ。暗所、スポットライトへの対応など、そもそもそんなに無い絞りカスのような経験則を思い出すために撮影OKな現場を探し、感覚を取り戻そうとした。



来る日のために、動画編集をした。10期・11期などのより若い世代が台頭してくる中で、9期という存在はとても難しい立ち位置だと思う。そんな中で一番お姉さんになった9期が魅せる新しい顔。そこを捉えて動画に落とし込むために、当日撮った写真素材を当て込むだけの状態まで仕上げた。



来る日のために、被写体を研究した。さあやはやっぱり可愛いなぁ。え?毎日のルーティーンだって?流石にそこまでじゃないですよ。2日に1回の服用だよ、馬鹿。



準備に準備を重ね、健やかに生活を送り、あとは当日を迎えるだけ。17日に撮影可の現場を入れていたので、ライブ当日を想定して撮影箇所(上手 or 下手)をそろそろ決めとこうかなぁなんて考えた矢先だった。


あぁ、そうだ。当日の発券してなかったわ、と。

そういえば、発券案内のメール見たっけなぁ、と。


変わらず自分のデスクでニヤニヤ顔を浮かべながら、いそいそとメールを確認する。

このメールに記載されている『当選』の二文字は、人を最高にハイな気分にさせる。

『当選』の二文字に心躍らせながら、メール下部までスクロール。ふと、違和感に気づく。


『発券』の二文字が無い。そうか、これ、当選確認メールだね。


今一度、検索をかけ直す。発券、該当無し。最新のメールは当選確認メール。


もう、そこに先程までのニヤニヤは無い。

長年のヲタク的経験則が、警鐘を鳴らす。最終ベルは鳴らない(=当選しない、縁がない)くせして、なんでこういう鐘だけ爆速で鳴るのよ。


早鐘を打つ心臓、震える手のまま、チケットサイトのマイページに飛ぶ。もう、胃がぶっ飛びそう。





『未決済により申込取消』





飛び込んでくる現実。

そんなまさか、なんて言葉は出てこない。過去のアレなことが走馬灯のようによみがえる。

そういえば、引き落としの形跡無かったな。

そういえば、コンビニで大金払った記憶無いな。



大変申し訳ありません、竹内ななみさん。

大変申し訳ありません、入内嶋涼さん。

大変申し訳ありません、赤堀君江さん。

大変申し訳ありません、中坂美祐さん。



呆然とした。自分に呆れて、何も浮かばなかった。どうして。何をしているの、時田。


ふと思い浮かんだのは、調子乗って中坂美祐さんのSHOWROOMで「最高の写真撮るよ!」って豪語しなくて良かった、と心底どうでもいい安堵だった。



さて。

時間はあるが、券がない。

助けて、Night tempo先生。


選択肢は二択。

それでなくともカメラ席は、激戦区。このタイミングで、券が見つかる可能性は絶望的。


選択肢は二択。

当券含む一般席の券を探すか、諦めるか。


勿論、超世代公演自体が楽しみなことに嘘偽りは無い。

ただ、心の弱い私はどうしても前者を選べなかった。


「もしかしたら、今、目の当たりにしている素晴らしい光景を撮れたのかもしれない」


「しかも、一定数それを撮れている人が存在する」


と。

どうしても、こんな想いがグルグル頭を回り、自分の心が耐えられなかった。

9期生だけは、観測者になりたくない。

9期生だけは、まだプレイヤーとしていたい。


近年稀に見る大馬鹿者で、ほかに類を見ない驕りだが、プレイヤーとしての楽しさを知ってしまった自分にとって、そこだけは曲げられない信念だった。



まぁ、そこまで言うなら決済しとけよ、という話なんですけどね。



さて。

職を失った。


また、今年も在宅か。暇だから、多分、Twitterとか見ちゃうんだろうな。で、勝手に病むんだろうな。

家帰ったら、行き場の失ったレンズが鎮座してるんだよな。知ってる、去年もそうだった。在宅、400m望遠で、何を撮ればいいんだよ。オートフォーカスそんなに早くなくても大丈夫だよ、ごめんね、私の愛機。



本当に、これで良いのだろうか、否。

これではただの、大馬鹿者の愚痴である。


ここからは、私の悪い癖で。

こういう時、私は大抵、脳筋パワープレイに走る。

辛いことを忘れたいなら、それ以上の衝撃で、心を麻痺させればいい。ワクワクすることなら、尚良い。




そうだ。






そうだ、広島へ行こう。






なぜ、広島なのか。

発端は、1ヶ月以上前に遡る。


当時のLINEのやりとり

超選抜の座席当落が出る前に、時田は友達とラインでこんなやりとりをしている。


中野どうします?という時田の問に、別の現場があるから、と答える友達。

この時の私は「当たらなかったらヤケクソ……」と書いているが、まぁ、何故か当たる気満々でいて、広島まで遠征とは大変だなぁ、なんて完全に他人事だった。



脳と精神が既にバグりつつあった私は、なぜかこれしかないと思った。


当たらなかったじゃない、当たったけど、結果券は無い。なんだ、伏線回収できるじゃないか。正真正銘のヤケクソだ。ガハハ。


ここで改めて、当時の時田の言葉を借りよう。


「広島まで遠征とはw」




ということで、もう少しだけ続きます。

次回、「絶対に忘れてはいけない決済24時 〜広島編〜 」広島への弾丸旅行を目論む時田に、栄方面から衝撃のニュースが……時田の心、死す デュエルスタンバイ!!


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