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僕が見た夜空。

※閲覧注意
過激な表現(死に関する)があります。

今日、僕はこの暗闇に足を踏み入れる。

君のことが好きだった。

君も僕のことが好きだった。

そうだろう?

出会いは突然で。

それと同じく別れも突然で。

楽しい日々がずっと続くわけがなくて。

どこか油断をしていた。

久しぶりのデート。

張り切っていた君は、気付かなかった。

信号無視で猛スピードで走ってくる車に。

信じられないような大きい音が鳴った。

一瞬何が起こったのか分からなかった。

ふと我に返る。大破した車と血だらけの君。

僕は無我夢中で君を抱きしめた。

「死んじゃだめだ。」そう何度も言った。

結局君は、目を覚ますことは無かった。

抱きしめる手の中で、冷たくなっていく君。

この世から君が消えてしまう気がした。

映画やドラマのように。

救急車が着いても彼女の事を離さなかった。

離せるわけがなかった。

無理やり引き剥がされ、彼女は運ばれた。

運ばれた病院で、死亡が確認された。

死因は車との衝突による外傷性ショック。

どうしようもなかった。

強く地面に叩きつけられていたから。

僕のせいで君が死んだ。

そう思った。

君の家族はそんなことないと言ってくれた。

でも、僕が1番分かっている。

僕が君を殺した。

僕が君よりも前を歩いていれば。

僕が君を追いかけていれば。

僕が君の手を繋いでいれば。

君が死んだ少し後、君の葬式があった。

君の家族に「最期を見届けて欲しい。」

そう言われた。

でも僕は行けなかった。

君と、お別れをしたくなかった。

きっとまだどこかで生きていると信じて。

それからまた暫く経ったある日。

君のお父さんにお墓参りに誘われた。

「1度でいいから来て欲しい。」と。

僕はその願いを了承した。

君のお墓に着いた。

小さなお墓だった。

ここに君が眠っているのか。

そう考えると、自然と涙が止まらなかった。

君の死を受け入れてしまうような気がして。

そうなるくらいなら、次は僕が死のうと思った。

今、僕は高校の屋上にいる。

午後22時。月が光り輝く夜。

君が亡くなったのと同じ時間、同じ日に、

僕は君のもとへ行く。

見下ろす先は暗闇。

あと1歩踏み出せば楽になれる。

「だめだよ。」

誰かの声がした。

振り返ると、そこには君がいた。

そんなわけない、疲れているだけだ。

そう思った。

でもそこに居たのは、間違いない。

僕が愛した君だった。

「どうして。」

「あなたを止めなきゃと思って」

「なんで、、、。」

「〇〇には、私の分も生きて欲しいの。」

「君がいない人生なんて、意味が無いよ。」

「君、かぁ。名前、呼んで欲しいなぁ。」

「、、、和。」

「〇〇、、、。」

「和が居ない人生なんて、嫌だよ。」

「私も辛いよ。」

「だから僕もそっちに、、、」

「それはだめ。」

「どうして。」

「〇〇に私の思いを、人生を託したいの。」

「どういうこと?」

「私の分も精一杯生きて。幸せになって。」

そう言う君の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

「、、、分かった。」

「ありがとう、〇〇。」

「もう少し、頑張ってみるよ。」

「うん。」

「和、ありがとう。」

「〇〇。」

「ん?」

「おいで?」

「え?」

「おいで?」

「う、うん。」

そう言いながら腕を広げる君に、僕は身体を預ける。確かに、確かに和の感触があった。

「〇〇。」

「ん?」

「最後のお願い、してもいい?」

「うん。」

「私が消えちゃう前に、キスして欲しい」

「で、出来るの?」

「今、私の感触あるでしょ?」

「うん。」

「あともう少しで、私は行かなきゃなの。」

「わかった。」

「和、大好き。」

「私も、〇〇のことが大好きだよ。」

そう言って僕達は唇を重ねる。
足元の影もひとつに繋がる。
目を開けると、君はもう居なかった。
足元の影も僕のものしか無かった。

僕は崩れ落ちた。
泣いて、泣いて、泣いた。

何かが頬に触れた。
長い髪の毛だった。
僕のでは無い、長い髪の毛。

和のものだ。
和が最後に、僕に残してくれたんだ。

その1本の髪の毛を握りしめ、
僕は屋上を後にする。

誰もいなくなった屋上に、
涙がひとつ零れ落ちた。

fin.

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