人生一おいしくないドリアを食べた

日曜日に夫と2人で、街の洋食屋さんへランチを食べに行くことにした。

事前に口コミなどもチェックして、とてもワクワクした気持ちだった。

「古民家を改装したという店内の様子を見てみたい」
というのが、そこに行くと決めた理由だけど、もちろん料理もとても楽しみにしていた。

色々あるメニューのなか何を食べるか迷ったけれど、好物のエビとブロッコリーが入った、これまた好物のドリアに決定。

チーズの香ばしい香りがしてきて、出てくる唾を飲み込んだ。
なぜか別添えの温泉卵は、
「こちら乗せて食べる温泉卵です」
との店員さんの言葉の通り、後から乗せて食べる事にした。

焼いて固くなったチーズをスプーンで割ると、牛乳が出てきた。
いや、正確にいうなら牛乳っぽいものが出てきて、器からこぼれそうになった。
ドリアを食べて中から牛乳が出てきたことなど、今までの経験上なかったものだから、「ん?」と思ったのだけど、

「ここのホワイトソースはシャバシャバのタイプか…」

シャバシャバのタイプのホワイトソースなんて知らない。あったとしたらそれは別のソースだと思う。
少し嫌な予感がしている自分に気づいてはいるものの、一口目の段階でそれを認めてしまったら、ここに辿り着くまでのワクワクした気持ちが台無しになる気がして、なんとか前向きにとらえようとしている私がいた。

中のご飯はケチャップライスだった。
ケチャップライスという名前であっても、それなりの味付けがされていることがほとんどだと思うのだけど、『それ』はその名の通りケチャップライスだった。
ご飯とケチャップを混ぜた味。

「薄い」

口の中と頭の中では、もうすでに「薄い」が存在感を発揮していて止めようがなくなっている。

  • 一応ギリギリ表面を覆った焼けたチーズ

  • 気持ち程度の塩胡椒を入れたようなシャバシャバのホワイトソースのふりをした牛乳

  • ご飯とケチャップを混ぜた文字通りのケチャップライス

  • 素材そのままの味のエビと大きいブロッコリー

  • 歯ごたえのある刻まれたなにかの豆

そして出番待ちのメンバー別添え温泉卵

チーズをのぞいて、これだけの薄味のメンバー達が揃っているのに、横にちょこんと鎮座している別添えの温泉卵を入れてしまえば、どうなるかは私もわかっている。

それでも私は覚悟を決めたんだ。
「温泉卵を乗せて食べて欲しい」と言う店主の気持ちを無視したくない。

すでにシャバシャバなドリアに、温かくもない、味付けもしていない、水っぽい温泉卵を乗せてしまえば、それは唯一の良心であるチーズの存在さえ無かった事になってしまう。

それでも私は覚悟を決めて乗せた。
理由は、店主の気持ちを全部汲み取ってこそ、後で思い切り“文句を言える”と思ったから。
いや間違えた、“感想を言える”と思ったから。

…うん、予想通りの味になった!

その店の売りである、有機栽培のブロッコリーの旨みが引き立つくらいの味だ。
その味の中にもはやドリアの要素はゼロに等しい。

『ブロッコリー美味しい』

終盤に差し掛かると、私の感想はこれだった。

すでに食べ終わった夫にも、なん口か協力してもらい食べ終えた。


美味しいドリアを食べたかったけれど、食べられなかった。

だけど、嫌な気持ちにはならなかった。
なんだか面白かったから。

これが経験にお金を使うということか。

考え方によっては、1300円を無駄にしたと思うかもしれない。
けれど、“美味しくないドリアを食べた”という人生初めての経験をしたと考えれば、なんだか面白くなってくるのだからこれまた面白いな。

人生で一番美味しくないドリアを食べたけれど面白かった

人生は考え方次第ということを再認識した出来事だった。



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