『大怪獣のあとしまつ』を見た感想

 この作品を一言で言い表すことのできる人がいるとしたら、僕は純粋にその人を尊敬する。それくらい一言で言い表すことができない映画だった。

 怪獣映画だと思って観に行ったら、人間ドラマを見せられた挙句中途半端に途中途中に挟まれる特撮シーンとコメディシーン。これでは人間ドラマに集中することもできないし、かといって特撮シーンをメインに据えることもコメディをメインに据えることもできない。挙句の果てに結末の伏線の張り方はあまりにも雑で、衝撃の結末かと言えば中途半端に伏線が張られているせいで驚くこともできない。そして観客はそんな状態で映画の世界から突如解放されるのだ。頭を抱えざるを得なかった。どうしようもない。

 もしこの映画の脚本が良ければこの映画は立派なA級作品だっただろう。それ程までに演者の方々の演技は良かったと素人目に見えたし、特撮シーンも数こそ多くないものの、特段悪いようには見えなかった。しかし、逆に言えば演者の方々の演技が良すぎたとも言える。演者の方々の演技がもっと酷ければ単純なB級作品、B級コメディとして僕は笑えたと思う。-に+をかければ-にしかならないが、-に-をかければ+になるのと同じ原理だ。脚本と演技がちぐはぐで演技が良かった分、脚本の酷さが際立ち負の印象が大きくなったと感じた。

 そして、この作品の根底にあるのは恐らく大量のアンチテーゼなのだろうと思った。庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』や現代日本の政治家(特に総理や各省庁の大臣といった人々)、更には中国の尖閣諸島を巡る主張といった幾つもの作品や事象に対する反感。そういったものを寄せ集めてこの作品は作られていると強く感じた。出発点が「怪獣が現れ、ヒーローや人々の手によって倒されて終わる」というお決まり、お約束に対する反感なのであれば、その出発点自体を否定する必要はないと思う。しかし、脚本を務めた人物のもつ様々なものに対する反感を寄せ集めた結果がこのちぐはぐな映画なのだとすれば、その反感を作品として表現する技量がなかったのだろうと言わざるを得ない。出発点から横に逸れて逸れた挙句のあの結末は、文字数を稼ぐために様々な不必要なことを書いた挙句、文字数ギリギリになったので結論に通ずる十分な論拠もなく結論を告げて終わる大学生のレポートのようなものである。ご無体にも程がある。

 更にいえば、その結末に至るまでの道筋が本当に酷い。伏線は確かに張られている。しかし、あまりにも雑なのは何度も本noteで述べてきた。衝撃の結末なのだから伏線が少ないのは仕方がない、と思う方もいるかもしれない。しかし、それならばもっと伏線を緻密に、もう一度見ないとわからない程に綿密に張るべきだろう。あんな伏線を張るくらいならば、むしろ伏線など張ってほしくなかった。本当に伏線も何もない仰天の結末を迎えてほしかったと強く思う。それ程までに結末に関する伏線などをひっくるめた事象が酷い。あれほどまでに特撮要素を少なくし、人間ドラマに目を向けていた作品が最後の最後で特撮作品の一つの王道に立ち返るなど、ちぐはぐにも程がある。それならば、もっとしっかり結末に対する伏線を張ることに人間ドラマを割くべきだったのではないか。

 ただ、批判ばかりというのも良くないので称賛すべきポイントについても記しておこうと思う。登場人物のキャラが立っており、それを演じる方々の演技も素晴らしかったと感じた。特にSUMIRE氏の演じる椚山猫のキャラが好きだと個人的には思った。以上である。

 一応、特撮シーン自体は怪獣の造形に少し不満は残るものの、概ね悪くないものだった。ただ、特撮映画として見るのであれば不満しかない量だったことは言うまでもない。まあ、この映画は特撮映画ではないのだから仕方ないのだが。例え自分が特撮好きの人間だとしても、人間ドラマの間に挟まれるおまけの特撮シーンに文句を言うのは全く以ておかしな話なのだから。

 この映画に点数をつけることはできない。何故なら何を基準にどう点数をつければいいのかわからないからだ。特撮映画としてはお粗末な特撮シーンに人間ドラマ映画にしては人間ドラマに集中させてくれない構成。コメディ映画としてはコメディシーンは政治家の悪い所を凝縮したようなシーンか下種なネタでしか笑いが取れない。この作品には芯が見えない。芯が見えないために基準がない。故に点数をつけることはできない。ただただそれだけの話である。もし自分がB級映画などに多く触れた経験があればそれなりにまともな評価ができたのだろうが、様々な要素が組み込まれてそれがローテーションのように繰り返された挙句、観客を完全に置いてきぼりにする結末。好き放題に場を引っ搔き回した挙句、収拾がつかなくなったからと無理やりに広げた風呂敷を閉じる。舞台の幕を降ろす。脚本家こそが作品におけるdeus ex māchināデウス・エクス・マキナであると思い知らされた作品だった。

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