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【ネタばれ?注意】君が人生の時 観劇

Date:2017/6/16 新国立劇場

君が人生の時の感想をとりとめなく。

アジアの一国がテロリストに占拠されても報道されないような不穏な時代。
夕闇に包まれつつあるような今を写したようなお芝居でした。

第2次世界大戦直前。アメリカが参戦する少し前。世界中が貧しさから戦禍に手を伸ばした時代。手の中に涌き出る汚ない金と、自身を嫌悪する男が、市井のその日を懸命に生きる人びとに、束の間の光を当てる事にしか人生の意味を見出だせずにいる。

観客に解釈を委ねられた脚本。まさにドキュメント72時間(NHK)。
定点でカメラに映り込んだ人々を、ほんのちょっとだけ掘り下げる。
限定された場に集う人々の多様性。
過去に観た「地方のショッピングモールのフードコート」「深夜までやってる保育園」が面白かった。
どちらも〈家族と生活〉を観た気がした。
特にフードコートは安価で長時間入り浸れる飲食店というところが作品と重なる。(ジモティーなので思い入れもある)
…脱線しました。

ドキュメンタリーを戯曲化して、毎回同じ日をなぞる不思議な感触の舞台。
時代背景が最大の演出で、やがて来る不穏な時代を前に「それぞれの日常」を生きる人々。

主役であるジョーという男が、一番謎めいている。台詞で度々「あんた、なんなの?」と訊かれるが、答えは語られない。
裕福な出自でアイルランド系、海外も周り、婚約者に裏切られ、子供の頃に寂しい思いをした。これまで銃に触れた事がなく、足が不自由。他者の人生は明るくあって欲しいと願いながら、自身の人生には捨て鉢。

ジョーのプロファイルをするまでが観賞と、自分なりのジョーを考えてみました。

新聞で世界情勢(戦況)をチェック、貧しい世界なのに、自分の手元に沸いて出る金を嫌悪する。→軍事産業の経営者家系のボンボン。
富裕層なのに銃に疎いのは、嫌って敢えて避けていたから?
足を悪くするまでは、社交界でダンスをするなど、富を享受していたのでは。
足を悪くするのと、婚約者に裏切られるの、どちらが先かは解らないが、その頃が人生のどん底。
自暴自棄で安酒場を渡り歩いている内に、お気に入りの店(マスターの人柄)に定着。
困っている人をほっとけないマスターの店で、だんだんやって来る人間が求めてる言葉が判るようになり、純粋に喜ぶ彼らが自身の生き甲斐になる。
戦況が進み、真っ先に前線に送られるであろう酒場の人々を案じて苛立ちを募らせる。
…人の言葉を「疑わない」とわざわざ口にする男の言葉は、そもそも真実なのかは解らない。ペテン師かもしれない。ただ彼の苦悩だけは切迫感を持った真実味がある。

ドキュメント君が人生の時。明日生きる心の糧を得て、パッと一瞬の光を放つ人々を、嬉しくも寂しく眺めていたジョーが遂に酒場を去る時、その姿に光が見えただろうか。
わたしは、見えた気がする。たぶん。

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