WH40Kと3Dプリンターの現状について
この記事は3Dプリンターを利用したコピー商品等を推奨・幇助するものではありません
私事、というか私事から発した私信もどきです。あくまで「ワシは現状をこう見ているので、コミュニティ内においてはこう立ち回ります」ということです。悪しからず。
1:はじめに
私の属するコミュニティにおいてウォーハンマーが流行り始めてかれこれ1年くらいになります。秋葉原のショップで買ったキルチーム・スターターキットから始まった旅は気が付けば1000ポイント2000ポイントのユニット・兵力を擁する軍拡競争になってしまい、まさしく軍拡とは「終わりのないマラソン」のようであるという言葉を思い出す今日この頃です。
ウォーハンマー(今回は40kを扱う。以下WH、WH40kと表記)はゲームズワークショップ(以下GWと略)の売るミニチュアとルールブックに沿って、架空世界の戦争を机の上で遊ぼうという代物で、丁度ウォーゲームとTRPG、ミニチュア・プラモ趣味の中間にある格好です。ミニチュアの種類には戦車や歩兵を始めとする地球の軍隊っぽいもの、でかい異星の化け物、人類ではない異種族、があり、陣営ごとに詳しく攻撃力や防御力などの数値が決められています。これらをゲームシートの上でメジャーに沿って動かし、レーザーを打ち合い、サイキック能力を駆使し、白兵戦をして我の意志を彼に強要するわけです。これ以上説明するのめんどくさいので、とりあえずWH40kというのを遊ぶにはプラモ(ミニチュア)の戦車や歩兵やドラゴンがいるんだなという理解でお願いしますね。
さて、WHのミニチュアで遊ぶうち、私はyoutubeなどで光造形3Dプリンターの存在を知りました。巷では、WHのみならずキット化されてない模型や、絶版モノの造形物、はたまた自分のアイデアやイラストの具現化する手段として3Dプリンターが一つの選択肢として挙がっております。私は思いました。”もしかして3Dプリンターを使えばこのゲームもっと面白くなるのでは”と。同時にこうも思ったのです”これ上手くいけば純正キットよりもユニークで面白いユニット手に入れられるんじゃね”。具体的な問題点と諸々の点は後で出しますが、GWのキットは時代によってディテールの甘いところ、丸ごとすっぽ抜けているところ、流通が少なく輸入品で高いところなど、厳しい点が多々あるのです(そんな事は些末なくらいに楽しいと言われればそれはそうです。話もぶっ飛んだSFらしく楽しいし)。なので、身の回りでは純正キットの戦車(レマンラス)の絶壁(リベットのモールドすらない)にタミヤのアクセサリーを足したり、ハチャメチャな勢いで予算をぶち込んだり、身内ルールで代用品を投入したりと諸々の努力がなされました。3Dプリンターはこうした努力の抜け道、あるいは一環として我が家に迎えられました。
ただ、これには様々の問題がありました。一つ目は動画ほど3Dプリンターが上手くいかねえというやつで、まあこれは新しい試みに付き物の出来事です。二つ目はプリンター本体も含めて時間や金などのコストが思っていたよりかかるというもので、これもありがちな事です。そして最後の問題が版権と公平さ・公正さの問題です。長い前置きになりましたが本稿はこの最後の問題について主に海外の動画を中心に述べるものです。
2:3Dプリンターで兵力を印刷してみた件
さる12月、私は3Dプリンターを買いました。機種はELEGOO.Mars4MAXです。購入当初液晶モニターが組み立て不良で動かず、サポートセンターの指示のもと自分でばらして直すなどのハプニングがありましたが些細なことです。この型の(というか大抵の)3Dプリンターはそれ単体でゴウンゴウンと動くのでなく、必ず外からUSBで造形物のデータを入れてやらなくてはなりません。調べるとそういうデータを販売したり配布するサイトは意外に多く、Blenderとかで自作するのでないならここからダウンロードしてUSB経由でプリンターに入れます。金かけて無謀なデータを買って印刷できませんでしたなどというアホなことにならんように無料で配布されてる印刷データをダウンロードし、プリンターのステージをセットしてレジンをぶち込んでゴウンゴウンやらせます。40kの人類フィギュアだとだいたい1-2時間程度放置すればできます。
さて、出来上がりました。レジンを洗い落とし、諸々片づけてといった事は慣れれば30分くらいでやれます。そうして出来たのがコレです
40kと遜色ないフィギュアが3時間くらいで印刷できるわけです。すっげー便利だぜ!
ただし
ただ印刷するだけでも結構大変なのは覚悟してください。私はSKの水洗いレジンを使っていますが、低アレルゲン・安全であっても換気と手袋、こまめな手洗いは必須です。また臭いもキツクナイと言われていますが、正直ニンニク料理を換気扇回さずにやるぐらいでないと打ち消せません。換気しましょう。とにかくこのレジンの後処理、洗い流した後の廃液処理は絶望的です。めちゃくちゃヌルヌルするし、いつまでも臭うので零したらキッチンペーパーとかでササっと拭うのが吉です。完成品の洗い場からプリンターまではちゃんと交通線を取らないと零します。金属トレイも4枚ないと処理に手間取ります。また、印刷に失敗するのはザラというか、体感3割を超えない印象があり、ステージの場所にどうモデルを指定するか、サポートをどう配置するか、レジンの温度管理は大丈夫かなど気を遣う事は多いです。また、機械の初期の微妙な誤差で印刷が失敗することもありますね。見た目に反して3Dプリンターの中身とシステムは結構原始的なつくりをしており、それを演算部分で補っている印象があります。なので機械がセンサーで把握している部分と現実の部分をすり合わせて上手く機械が動くようにしてやらないと2時間と手間をかけて虚無を印刷するとかしょうもない体験をすることになるでしょう。
とはいえ3Dプリンターの力は素晴らしいです。絵を描けたり3D造形が出来たら表現の幅はより広がるでしょう。作業エリアと時間も要りますけど。問題は何もねえ私みたいなプラモ坊やがモデルを引っ張ってくる場合です。WHはGW公認のレジンキットとGWのキットでない限りはユニットデータも運用も公的には適用されません。また、各ユニットの属する陣営にはちゃんと独自の物語と出来ること・できない事が設定されています。故に、3Dモデルの配布サイトで落ちているものには純正キットに似通っているもの、クソ高いモデルのイメチェンになるもの、キットそのものなんじゃねえか、というか、純粋に割れ(違法ダウンロード)なんじゃねえのこれ・・・?となるような代物が転がっているわけです。一方で差し替え可能なフィギュアの首(特に帝国防衛軍は廃盤状態のキットやオリジナル部隊の首とかがある)や、独自の情景キットデータ、海外で支持を集めているオリジナルデザインの有料キットデータ、かっこいいアクセサリーなど、これを違法とするのはどうにも気が進まねえ・・・という代物もあります。
では、こうした版権ギリギリの代物についてGWは、またWHを遊ぶ海外のプレイヤーはどう思っておるのか、何処までが許されて(または公式陛下の慈悲を頂いて)、何処までが許されないのか、またそれを踏まえたうえでプリンターはどういう立ち位置になるのか、海外の議論を軸に見ていきましょう。私は法の専門家じゃありやせんので、この件について法律の問題がどう適応されるかは他のNoteか議論を探してください。自分で書くのもアリです。
3;WHにおける3Dプリンターの基本的議論と動向について
この問題に関してそのものズバリの議論をしているのは3D printed tabletopというチャンネルが出している”illegal? The Current State of 3D Printing Warhammer” https://www.youtube.com/watch?v=djumZlYSJjE という動画です。この動画は、2022年に公開され、この記事を執筆中の段階(2024年3月5日)では90万回再生を超えています。動画全体はリンクと英語字幕で観れますが、とりあえずここでは要点を箇条書き書きだしてみましょう。
・GWの株価はむしろ上がってる(02:36)
3DプリントがGWの利益を損ない、持続的なWHのルール作りや活動を損なうと考えられていたが、どうやら3Dプリンター以降のGWの株価は過去10年で17倍になっていること(02:40)を見るにそれは真ではないようです。
・意図したほど3dプリント・ウォーハンマーの人口は伸びてもいないし、無法地帯にもなっていない(03:30)
Napstar(Mp3交換サイト。違法DLが横行した)のように、GWの純正キットが違法に取引されることが横行するのではという懸念があるようです。しかし、3Dプリンターの実用化が成ってから8年がたった現在でもFBのWH・3Dプリンターコミュニティは1万人前後であり、このことにおいても当初懸念されていた人口に至らなかったようです。
・3Dプリンターの性能と価格向上(05:30)
今やGW製キットを上回るクオリティの製品を、より安い価格で光造形プリンターが生産可能だという紹介を通して、劣悪な代用品だった3Dプリント商品が価格面でも優等生になりつつあるという事が示されます。
・キットバッシュの素材、模倣品、情景(テライン)が"3Dプリンター・ウォーハンマー"として一緒くたになっており、ここの線引きは自明ではない(08:00~12:19)
イミテーションに対しては、もし必要であればGWが訴訟に出ることができますし、過去にはそうした事例もありましたが、イミテーションとインスピレーションを区別するのは難しく、また現状としてGWは介入していません。
・GW事態は3Dプリントモデルを閉鎖するどころか冷静に視ており、受け入れる可能性すらある(12:55~13:23)
特にキットバッシュ(模型の一部を改編する事。首を挿げ替えるとか)については、公式大会のレギュレーションでも許容されてます。ここに関しては3Dプリンタ製品の活躍の余地があるでしょうね。
→ただ、金銭のやり取りを介して得たモデルで(つまり通販で購入するなど)これを行う事については禁止という措置が出されています。
・むしろ大半のプレイヤーにとっては公式大会とかよりもプレイ環境のコミュニティでの受け入れを考えた方がよい(14:24)
公式大会よりも地元のコミュニティやより小さい大会などでの試合が多いプレイヤーにとっては、介入してこず、条件付き禁止を公示するだけのGWよりも、コミュニティ内での受け入れと、3D製品の活用の意図が重要なのでは?
→最終的には代用をプレイヤー同士がどこまで許すのか?という問題となります。
→端に安くアーミーを揃えて煽ったりするような態度や、平素から時間や労力をかけている周囲のプレイヤーに対して失礼な態度をとっていないか?という事が、3Dプリンター使用者には常に自省として求められるでしょう。
・古いGWの廃盤になったゲームにとって3Dプリンターは救世主(18:09~)
ドロップフリートコマンドであるとか、GWの古いゲームには完全に廃盤になってしまったゲーム(バトルフリート、オールドハンマーとか)には、3Dプリンターはまさに天啓で、3Dプリントフィギュアを許可してるトーナメントもあるようです。
というわけで動画の結論としては、「個人が趣味の範囲で、コミュニティに受け入れられつつ、キットバッシュと代用を行うために3Dプリンターを使う」というような形であれば当分のところは問題ない、と言えそうな感じではあります。例えば、ローガル・ドルン戦車の底がすっかり空いていたのを埋めたり、最近の海上交通の乱れで届かねー旧キットの代用とか、ルールからすっかり姿を消してしまったアストラ・ミリタルムの連隊を戦場に出したいとか、仲間うちで遊びながらちまちま希望を満たすのがいいのでしょうね。というかローガル・ドルンの底がねえのはどういう事なんだよGW。底を補完する3dプリンター製の追加パーツが野良でeBayに売ってるぞお前・・・・・・・・。
(補遺)
3Dプリントモデルの中には純正品とよく似てるキットがある、というのは他の動画投稿者も気づいているらしく、珍しく直接キットを作ってる本人に連絡を入れています。
https://www.youtube.com/watch?v=xffUpV0zhKo&list=PLdsDveEZ2STnGkwToLjvOpfQFVPzrXA9o&index=49&t=238s
の06:40くらい
帝国防衛軍の野砲によく似た3Dモデルを配布している作家によれば、似るのは意図した結果ではなく、これはインスパイアである、とのこと。さらに投稿者がその意図を聞くとキット販売に商機を見出したらしいという・・・・・アヤシイ。
他の防衛軍の2脚戦車(センチネル)のほぼそっくりさんを出している人(8分40秒から)はこんなチープなモデル(50ポイント(基本的に40kは500ポイントくらいからがスタート))に50ユーロも使うのはおかしい(だから俺が造って配布したる)という事らしいです。
どのモデルもGWに着想を得て、ビミョーにデザインを変えているので、非常に黒に近いグレーという事にはなるわけですね。コレをそのまま印刷して使っちまうのか、いいとこだけキットバッシュするのか、或いは無視してよりオリジナリティの高いモデルを買うかは最終的には使用者のモラルに委ねられる、というわけです。
おわりに
3Dプリンターのデータ流通には、どうも色々とキナ臭いところがあります。昨今AIの学習データセットが問題ですが、基本的にコアな議論には、3Dプリントデータと同じ、出所がわからない、或いは現実の商売品や作品の搾取ではないかと疑われるデータの存在と流通があるでしょう。インターネットという情報のハイウェイと、個々の端末の演算能力や面白いガジェットのパワーのお陰で便利にはなりましたが、このテの怪しいデータの流通と使用は常に新しい形で私たちの生活に入り込んでくることが予想されます。そのたびに少し遅れて(あるいは大幅に?)詳細な議論の末に法律ができてくるでしょうが、そうした法ができるまでに我々消費者が出来ることは、例えばデータの裏をしっかり調べることであったり、コミュニティや社会の意見を聞くことであったり、既存の法の裏の理念を現実の生活に無理なく段階的に適応する事であったりするわけです。究極的にはモラルだという事になっっちゃいますね・・・・・・。
ひとまずウォーハンマーを巡る3Dプリント関連の議論は今のところ、2020年代の前半から中盤においては、先述したようなコミュニティとGWの慈悲を斟酌して楽しむという事になりそうですが、或いは将来、GW公認3Dデータ制作所が出来たり、細かい改変が入るかもしれません。それはそれで超面白いので是非やってほしいところです。ミリタルムの種類増やしてくれ~~。
よい趣味人生活を!
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