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テッポウの開き

 
(元豚モツ業者が語るモツのおはなし)
 
 モツの煮込みというのは雑多煮なので、さまざまな部位を使う。例えば牛スジ煮込みであれば「牛スジ」という部位を必ず使うが、モツ煮は、これと決められた部位はない。モツというものが一つの部位ではなく、総称だからだ。犬で言えば、「牛スジ」は柴犬とかポメラニアンとか、犬種であって、「モツ」というのは、犬のことなのだ。
 
 ただ、モツ煮に入れるのはあらかた決まっている。大腸、小腸などの白モツだ。コメカミなど入れてもホロホロになって美味しいし、タンやコブクロを入れれば希少感、高級感が出る。さすがにレバーやハツは入れないが、それは味が悪くなるからで、特に決まりはない。コメカミなどを入れないのは、単価の高い部位だからということもあるだろう。
 
 白モツには他に、ガツやテッポウがあるが、その「テッポウ」が、白モツの中では最も高価なものだ。

テッポウ3

 これがテッポウ。一般的には、ボイルしたものを使うことが多い。上記もボイルしたものだ。
 白モツはレバーなどのア赤モツとちがって、ボイルと生の両方を販売しているが、生は煮こぼしする手間が入るのと、扱うのにぐにゃぐにゃでむずかしいので、多くがボイルを使う。生の方がモツ本来のうまみが含まれているだろうという人もいるが、屠場の大釜でボイルしたものなので、うまみが逃げずに内包されている。
 
 テッポウは直腸のこと。大腸や小腸に比べて短く、1頭から取れる量が少ないので希少部位だ。肛門付近は身が厚く、離れるにしたがって身が細く薄くなる。内臓なので管になっているが、取りだしたら開いて、きれいに洗う。そしてボイルをする。すると、下の画像ような形になる。
 

テッポウ4

 
 妖怪の「いったんもめん」を思い描いてくれれば分かりやすいか。手前が肛門側で、肉厚になっている。上に向かうにつれて、身が薄くなる。反対の面は、
 

テッポウ1

 
 こんな感じ。これは開いたときにはごわごわと脂が付いていて、包丁でこそげるようにしてきれいにするのだ。このテッポウの脂取りは、モツ屋の、品物の商品化作業のひとつだ。
 
 これをぶつ切りにして煮込みに入れたり、串焼きにしたり。身が厚いので、通常使われる「大腸」よりも弾力がある。この厚さが、美味しさの元だ。それで高価になる。
 
  
 ただ身の厚さにはマイナス面もあり、うまみの残るスペースのある分、腐りやすい。大腸、小腸より、早く傷む。そして、モツがあまり得意でない人には、このうまみがくさみに感じられてしまう。それで、テッポウを使わない呑み屋も多い。
 
 価格は、大腸の5割増しくらい。1キロ1000円弱といったところだろう。もちろんこれは業者が収める額で、スーパーではもっと高値で売られている。
 
 細いところを入れないでくれという客もいる。テッポウは肉厚が魅力なのだから、そこだけくれということだ。希少部位なので、そういった顧客には単価を上げて配達していた。また、品切れのときもあると断ってもいた。
 
 俗に言うシロコロは、このテッポウを生のままで、開かず筒状にした状態で使ったものだ。当然脂は筒の中に残っている。シロコロが好きな人は、その脂が美味いのだと言う。何度か食べてみたことがあるが、脂が特段好きでないぼくは、コッテリしすぎて美味しく感じなかった。
 
 表題の画像は、テッポウ(開き)のみ使用した煮込みです。この店は原価率がとっても悪い。まぁ、ようするにがんばっているお店なのだ。

駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。