司法試験予備試験の戦略②~要件先出しは”原則”不要論を唱えていきたい~

こんにちは、あるいはこんばんは。弁護士の寺岡です。

タイトルのとおりである。すなわち、司法試験・予備試験の答案において、要件を先出しすることは原則として不要である。例外もある。

・・・人は、なぜ要件を先出しするのか。

おそらく最初のうちは、

”理由はよくわからないけど答案例がそうなってたから真似た”

ではないだろうか。他には、

”なんかその方が読みやすい気がする。”

”そう教わったから(そして教えた側もなぜ先出ししているのかあまりわかっていないケースも)。”

といったところだろうか。

私自身、司法試験を本気で受けよう!と思い、とりあえず大学内の書店に入り、予備校本というものを見てみた。すると、内容はさっぱりわからないが、スタートに①、②、③…みたいに書いてあって。そういうものなのだろうと思ったし、しばらくはそのスタイルであった。

が、ここで立ち止まって考えてみてほしい。本当に必要か?と。

司法試験は時間と紙幅の制限付き点取り合戦である。

果たして要件を先出しにすることで点数は上がるのだろうか。
上がる説→そりゃ書いた方がいい。
⑵上がらないが、間接的に評価が高まる説→書いたほうがいい。
⑶上がらないし、間接的に評価も高くならない説→いらん。

ざっくりこんな感じだろうか。
⑴につき、”原則”上がることはないだろう。試験委員が聞きたいのは、要件をご紹介することではなく、要件の充足性である。例えば、

窃盗罪の構成要件は、①「他人の財物」②「窃取」、③故意、④不法領得の意思である。

と書いたとしよう。果たして、この約30文字について試験委員は、「うん、君は窃盗罪の構成要件をよくご紹介できているな。よし、1点あげよう!」となるだろうか?私はならないと思う。繰り返しだが、試験委員が聞きたいのは、問題文の事実関係から各構成要件を満たすか否かであって、ご紹介ではない。

そうすると、この約30文字は点数にならない記載ということになる。時間が無限にあるなら書くのも1つだが、それならもっと他に点数になることを書くべきであろう。

ただし、例外はある。問題文で指示されている場合が典型例。H29司法試験民法設問1なんかがそう。

⑵はどうだろう?先出しに”慣れている”人にとっては「お、見やすいな」と思われる可能性はあるだろう。が、そうではない読み手からすると、

④について・・・認められる。

とか、

本件では、〇〇だから△△といえる(③充足)

と書かれていると、こっちの想定している検討順序と同じ順序で検討しているならともかく、そうじゃない場合だと

「④ってなんだっけ?」

と、もう一回冒頭まで目線を持っていく必要がある。つまり、スムーズに読んでいけない可能性がある。2ページ目にいってるならなおさら。

答案ではなく、書籍で言えば「今何について書かれているのか、目次に戻るか」みたいなもん(さすがに大げさか、比喩として適切ではないかも)。

いい答案は目が止まらない。「うんうん、うんうん」「はい、OK」と味気なく進んで終わる。これがいい答案。本論とはズレるが、問題文読み直さなくてもどんな事案かが分かる答案はいい答案といってよい。

そうなると、やはり私としては、⑶、すなわち先出しによる間接的な評価上昇もない(ゆえに先出し不要)と考えてしまう。

「そんなこと言ったって、どこかに書く必要はあるじゃないか!」と思われるかもしれない。そのとおりである。仮に答案に「窃取」という文字が出てこないのであれば、窃盗罪の成立を認めるにあたってはアウトだろう。
じゃあ、どうするか。私は、以下のような見出し&改行フォーマットを”原則”にしている。

⑴ 「他人の財物」
 規範当てはめ…
⑵ 「窃取」
 規範当てはめ…
⑶ 故意(38条1項本文)
 規範当てはめ…
⑷ 不法領得の意思
 規範当てはめ…

これなら今論じている要件が、すぐ上にあるから目線がズレていかずに済むし、自分自身の頭も整理される。さらに、強弱こそあれどいつも同じ検討順序と自動化することで余計なことを考えずに済む(結果、他のことを考える時間、書く時間が増える)。結果的に要件先出しパターン同様、30文字程度を見出しとして書くことにはなるが、メリットはある。


もちろん、絶対にこれ、というわけではないし、完全な箇条書きになってしまうのは良くないという批判もありうるところである。予備試験の場合、4枚全部書くということもあるだろうから、改行しすぎて紙が足りないという事態も防がねばならない。さらには、論点ではない要件につき、丁寧に規範→事実→結論と三段論法はしていられない。

例えば、不法領得の意思が論点であって、他の構成要件はさほど問題ではないようなときには、

⑴ 甲は…Aの財布という(財産的価値ある有体物たる)「他人の財物」を、同人の意思に反してその占有を自己に移転しているから、「窃取」に当たる。また、これら構成要件該当事実の認識・認容あるから故意(38条1項本文)も認められる。
⑵ 不法領得の意思とは…

と⑴でさらっと認定し、⑵をメインというように変えたりもする(ただし、客観面→主観面の順序を変えてはダメ)。

このケースバイケースをできるようになったとき≒合格のとき

なんて思ったりもする。

無論、筆者の個人的見解であるし、先出したから「誤り」「減点」ということは通常ないとは思う。条文の引用の記事同様、結局は中身が大事なのだ。

ただ、「こういう考え方もある」というのを知ってもらえればと。優秀答案なんかも見比べてみるといいだろう。そして、「合わん!やっぱり先出ししたい!」と思えばそれでもいいと思う。

最後は自分で決めるしかないのだから。



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