見出し画像

更に今だから話そう。僕のこと。

昔ドラマに出たことがある

『お姉さんの朝帰り』というとても卑猥なタイトルのドラマだ

主人公の兄だか弟役に高嶋兄弟の兄だか弟が出演していて
彼が学校の先生という設定だったと思う
で、その高嶋が勤める学校のロケに使われたのが、
地元でも超有名なスーパー進学校である我が中学校が選ばれたわけだ

本物の生徒をドラマでの高嶋の生徒役に使ってしまおうという
当時の監督の斬新な発想で我々の学年から適当に十数人選ばれた


その中にひそかに野心を燃やす一人の天然パーマの少年がいた


そう俺だ


俺は選ばれた瞬間「全国ネットのドラマに出演→あの男の子素敵じゃない的な問い合わせがTV局に殺到→なんやかんやあって→大ブレイク!」という緻密に計算された人生設計をはじき出した

撮影当日、放課後グラウンドに集められた我々エリート戦士たちは
まず高嶋と一緒にグラウンドを走らされた

ここで覚えているのは走っている最中、高嶋が「あともう一周いくぞ~」みたいなことを言って、我々が「え~」と高嶋に向かってグズるというものだった

俺は高嶋に向かい渾身の「え~」を浴びせてやった
もちろん他の奴らとの演技レベルの差を全国の女子やテレビ関係者に
見せ付けるため台詞と同時に「まだ走らされるのか…がっかりだな…」的な表情もした
そんな俺のハイレベルな演技のお陰で無事このシーンの撮影は終わった

校門前での撮影もあった。学校を舞台にしたドラマには欠かせない
「朝の登校シーン」だ

登校している生徒たちが、元気よく後ろから走ってくる高嶋に挨拶する
という場面だ

俺は「早朝さわやかに登校する中学生の図」を頭の中で瞬時に作り上げ、表情、歩行速度、高嶋への挨拶など我流の演技テクニックを確認しながら本番を待った

しばらくして監督が「ここは少人数で撮影します」みたいなことを言った

異論はなかった。
確かにこの狭い道路に十数人一斉に登校するというのは不自然だし、
ましては我々一人一人の演技力にも差がありすぎる
一日の始まりというこの大事なシーンは
より演技力やルックスのレベルが高い人間が出演したほうが視聴者に
「さわやかな朝」を伝えられると俺も思った



カメラの後ろから登校撮影の様子を見ながら正直腑に落ちなかった。
しかし俺はまだ監督には伝えてなかったが自分の役柄は
「都会からきた謎の訳あり転校生」がベストだと思っていたので
「まだこの時点で転校生がみんなと一緒に登校するのはおかしい」と
自分に言い聞かせ自分で納得した。

次に体育館での撮影だった

ジャージに着替えた高嶋が笛を吹き、それに合わせて我々が
マットの上で順番に永遠と前転を繰り返すという意味の分からないものだった

おそらく体育の授業のシーンであろうか
いくら体育の授業でもここまで前転を繰り返さないだろうというくらい
やたら前転をさせられた記憶がある

もうこの辺からどうでもよくなった

この後、なんかいくつか撮影をしたような気がするのだが
正直あまり憶えていなかったりもする

撮影終了後、皆が高嶋に握手を求めて群がっていった
俺も気の迷いが生じて高嶋と握手した


高嶋の手はとても大きかった


結局俺は放送を一度も見れなかった
放送日が週2回行っていた「やっててよかった公文式」と重なり
公文が終わって家に帰った頃にはドラマは終わっていた
思春期で家族にも話していなかったのでビデオなども撮っていなかった

しかし次の日学校ではドラマの話題で持ちきりで
「昨日誰々が出てた」みたいな話がいたるところで聞かれた


残念ながら俺が出ていたという話はドラマ最終回まで聞かれなかった


眠れぬ夜、たまに高嶋のことを思い出す


それだけ。

※令和3年.3月追記
今になりこのドラマが異常に観てみたいという衝動に駆られ、現在血眼になって探しているのですが、当時の同級生にもダビングテープを所持している方はいなく、みなさまにもご協力いただきたいと思っております。皆さま力を!謝礼は出します。力を!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?