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5年越しの花束

25歳になった。
誕生日当日、明け方までソワソワして眠れず
物音で目を覚ました時には10時を過ぎていた。

朝日のかけらを連れて立っている、
恋人がはにかみながら花束を差し出す。
ベッドの上で正座する。
むくんで開いてない目にカラフルな色が眩しい。彼がくれた花束はこれで2回目だ。

初めて花束をくれたのは、20歳だった。

当時私はベトナムのホテルでインターンをしていて、誕生日に合わせ飛行機に乗って会いにきてくれた。

観光ビザの有効期限めいっぱい、2週間滞在してくれた彼と過ごす最終日。

仕事を終えて彼の待つホテルに帰れば明日には会えなくなってしまう、海を超えた距離に逆戻り、明日からひとりで眠るんだな、

既に涙目になりながらドアを開けるとベッドに赤いバラの花束と目が合った。
ぼやけた赤色で視界がにじんだ。

人生で初めて恋人からもらった花束は真っ赤な五本のバラで、よく見ると端が少しヨレていた。

「これ持って歩くの恥ずかしくてリュックに詰めたんだ、、」

こっそりひとりで花屋に行って、大きなリボンで結ばれた花束持って気恥ずかしそうに俯く彼がまぶたに浮かんだ、また視界が淡くとける。

それから何度か記念日やクリスマスにくれた花は、花かごやブリキの鉢に植えられたアレンジばかりだった。

花束のフォルムを恥ずかしがっていた彼がくれた5年越しの花束、今の自分に見合うかどうかなんて気後れするのはやめにした。

自分の心地よさを真ん中において選んでみたい、好きな人を大切にするように、自分と仲良くしたい、どんな事をしているのが好きで、
苦手なことはどんな事か、

ジャッジも分析もしない、自分の心をまっすぐ見つめられる一年にしたい。

「向日葵を入れてくださいって言ったんだ、」  

少し目線を落とした恋人が言う。

向日葵の花言葉に、「あなただけを見つめる」
とあった。

口下手な恋人に、少々強引に黄色い花びらで意味づけをする。

春の陽気にあてられ温かなまぶたにキスを落とす。




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