貫通の夢
車のルームミラー程の鏡が部屋に置かれている。その向こうには人がいて、それは私たちが捕らえた人と分かっていた。であるならば、それは鏡ではなくモニターの類ではないかと思ったが、違う気がする。
私たちは娯楽のために人を捕らえていた。捕らえた人はテレビに出るような有名人らしいが、私はそれを知らない。
彼を彼たらしめる道具というものがあり、今考えるなら、それは業務用の掃除機だ。夢の中でも、それが掃除機であることは分かっていたが、あまりに大きすぎることに疑問を抱いていた。隠し場所に困るではないか、という意味であったが。私たちはそれを、ひとまずこの薄暗い部屋に隠す。
共にいる人に話しかける。
子どもの頃、結構長い間「いないいないばあ」を見ることができたから分かるのだけど、ワンワンが掃除機を持って歌う歌があったじゃない? あの時の掃除機もこんなに大きかったかしら?
彼は何者なのだろう? 昔「天才てれびくんMAX」で見た、生放送大掃除企画のようなことでもやってるのか? まったく意味不明な状況である。夢なのだから当然とは考えなかった。珍しく、明晰夢ではなかったのだ。だから恐ろしくなって、朝から……いやもう昼か、とにかくこうして記録を取っている。
薄暗い部屋は2階建ての一室にすぎない。やけにひらけた、しかし誰も入ってこれないと確信した部屋だ。階下には家族が暮らしている。(しかし、ではここが実家なのかどうかと言われると分からない)
でも今、家族は皆出掛けている。私たちはおもちゃ屋で偶然会い、ひと足先に家へ戻ったのだ。のっぴきならない事情があり──かつての通り、妹弟絡みなのだろう。私はそれに腹を立てたわけではなかったが、なんとなく先に帰る、ついでだから友人と遊びたいと提案したのだ。この提案が通る時点で何かおかしい──本当に偶然、そうなった。
子供向けのゲームセンター、おもちゃ売り場を少し見てから帰路につく。そうだ、子どもに人気なあの人を殺そうよ。実はね……
断る理由もなく、私はそれを受け入れた。大丈夫、絶対にバレないから。それが何故なのか分からないのに、彼の私物であるだろう掃除機を部屋に入れたのに、何故かすべてがうまくいくと信じた。
そうして冒頭のシーンに戻る。
彼はおもむろにナイフを取り出した。鏡、あるいはモニターにいる男を刺す。ナイフは向こう側に届くらしい。彼の顔にわずかに傷がついた。狼狽し、後ろにのけぞったようだが、カメラは変わらず彼の一部を写し続けていた。
私は彼のナイフを奪い取り、すかさず追撃する。男はまだ生きているが、頬の傷はかなり深いだろう。彼はナイフで男を撫でていた。彼も、鏡の向こうにナイフが届くことに驚いていたのだ。だから、この瞬間が長く続くように──そう考え、慈しむように嬲る。彼のそういう心遣いをわかっていたのに、つい試してみたくなって、私は素早くナイフを抜き差ししてしまった。
いっとう深く切り込んだあと、ゆっくりとナイフを抜けば、ズルズルと赤い血がついてくる。いつものことではあるが、私はその様にウットリしてしまった。このように、人を楽しく殺す夢を見た。そうならないように、ここに一切を吐き出しておく。
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