第4回 インタラプション ~女だって攻める~ 「面談」

免責事項:この物語はフィクションであり、登場人物、設定は、実在のいかなる団体、人物とも関係がありません。また、特定の架空の団体、人物あるいは物語を想起させることがあるかもしれませんが、それらとは何の関係もない独自の物語となっているという大人の理解をよろしくお願いいたします。くれぐれも、誰かにチクったりしないようにwww

第4回 「面談」

終業時間が近い17時に、その面談は設定されていた。業務は全部終わらせてこいという意味だろう。エンドレスの可能性もある。

唯一確実なのは、説教をされるということだけだ。席を立ち、大上の部屋に向かう足取りはひたすら重い。

(なんで、今さらなのよ、、、)

向かう廊下で、想像が広がっていく。

数週間前にだいぶ無礼なこと、現在のサニーや現在のサニーを作ってきた経営陣を否定するようなことを言ってしまったからだ。

それにしても数週間経ってから、しかも直接、呼び出しをくらうなんてことがあるだろうか。長谷部部長経由でも、いいはずだ。「切れ者」といわれる役員ですら、はそんなに暇なのだろうか。未だに一介の平社員である自分の苦言に怒りが収まっていないとしたら、器が小さすぎる。

(セクハラ系だったらいやだな、、、本当にいやだ、、、)

タバコ部屋で目をつけられて、これから2人で食事に行こうというような展開も考えられる。説教をしながら、一方で、昇進や昇給をちらつかせて、体の関係を求めてくる男はどこにでもいた。

(私なんてたいしてかわいくもないのに。あの日、胸元開き過ぎてたっけ。股が緩そうだと思われたのかな、、、)

大上もそういうセクハラをする男の一人である可能性は十分すぎるほどにある。自信に満ち溢れていて、人を惹きつける雰囲気を持っている。狙った女は逃さない、というタイプにも見える。

そもそも大物役員に目をつけられてはどうにもならない。人事部に訴えたところで、握りつぶされるだけだろう。断るならば、退職も覚悟しなければならない。

(馬鹿だったなあ。なんで、あんなこと言っちゃったかな、、、)

改めて、自分の迂闊さに気が滅入った。タバコ部屋で役員がいたら、会釈して出て行けばよかっただけだなのに。

(辞めなきゃいけなくなるかな、、、ああ、馬鹿だったなあ。辞めたくないなあ、辞めるにしてもこんなことで辞めるのって、最悪じゃん)

自分の中のあの炎は、もはや風前の灯火だ。大上の部屋に近づくにつれ、さらに炎は小さくなっていくようだった。たぶん、耐えられないだろう。サニースピリットを全部捨て、誘いに乗る手もある。身もキャリアも大上に委ねれば、あるいは会社での立場は変わるかもしれない。

サニーに残るため、サニーを少しでも盛下のいた頃の会社に戻すため、自分が犠牲になると思えば、耐えられるだろうか。

(この歳で、割り切って援交の可能性。ワロター、、、ははは)

部屋の前に来ると秘書が席に座っていた。人目を惹く美人だ。こういう女が好みなのだろうか。

(セクハラだったら、この女でいいじゃん。抱かれて、更にこの女と比べられたら、最悪)

「どうぞ、もう部長はいらっしゃいます」

「はい」と会釈をして、ドアノブに手を掛けた。

覚悟を決めるしかない。今までで、これ程重いドアノブはなかった。

入ると、大上が席に座ってコーヒーを飲んでいた。

「渡部さん、久しぶり。どうぞ。そこの席座って」

促されるまま席に座ると、部屋を見渡した。壁に写真が多く飾ってあった。あとは、何かの表彰状のようなもの。海外のメンバーと撮った写真も多い。家族写真も飾ってあった。

(不倫願望があるセクハラ野郎は、よく家族写真をデスクに飾ってるっていうのは、SPA情報だっけ)

改めて正面を見ると、大上の背中を見つめるように盛下大の小さな写真がひっそりと飾ってあり、盛下と目があった気がした。

(盛下さん、助けてください、、、)

心の中でつぶやいた。

「おいおい。人の部屋をあんまりジロジロと眺めるもんじゃないぞ」

大上の目が笑っている。

「すみません」

その一言で、少しリラックスできた。でも、油断はできない。呼び出しの真意は未だに全く分かっていない。

「忙しいところ、ごめんね。ちょっと話し聞かせて欲しくて」

もっと横柄なキャラを想像していた絢は、肩透かしを食らって、一瞬警戒が解けてしまった。その瞬間を見逃さなかったかのように、大上の質問攻めが始まった。

「入社時の志望動機は?」

入社から今までの実績、失敗成功、自身に対する評価、年収1千万円に到達するためには何が必要だと考えているか、現在のサニーの課題、もし今、係長ならなにをするか、課長だったら、部長だったら、本部長だったら、取締役だったら何をするかという質問が続き、最後に

「社長だったら何したい?」という質問を受けた。

2時間のインタビューは、絢にとてつもない疲労感を与えた。

「渡部さんは、サニー好きなんだな」

「はい、でも、私が好きなサニーという会社は本当にあるのか、正直、最近は自信が持てなくなっています」

初めての大物役員との2時間のインタビューによる疲労は、すでに本音を隠す気力を絢から奪っていた。

(やばい!!)

あれほどまでに後悔していたのに、うっかりと、同じ失敗を繰り返してしまった。

「サニーは、、、ある」

大上は、まっすぐに絢を見つめていった。

「今は、見えにくくなっているけど、ちゃんと、ある。だから俺が、そのうちサニーを復活させる。売上がたとえ一時的に半分になったとしても、サニースピリットのない奴らは全員クビにする。『先駆者であれ!』は、サニーの社員全員に課せられた使命だ。使命をまっとうできない奴は、ここにいるべきじゃない」

聞いていて、鼓動が早くなっていくのを感じていた。

「盛下さんに恥ずかしくない会社に、この世界を未来に変えられる会社に再生する。社内のすべてに創造性が求められ、常に未来に視線を向けている会社にな」

体の芯が燃えるように熱くなってきた。

「もう今のサニーのことは忘れろ。過去のしらがみに囚われて動けなくなった会社だ。実は、事前に絢のことは色々調べさせてもらったし、今日も俺が確かめたかったことは全部聞いた。絢は、俺の直感通りサニースピリットをもった女だった。俺たちが、一緒に、サニーを変えよう」

その視線にも、声にも一切の迷いも、虚勢も感じられなかった。大上は、本気でサニーを変えようと思っている。そして、本気で自分を同志として認めてくれている。

「はい」という返事が声にならなかった。口が震えている。サニーに入って、初めて、自分と思いを共有する人間がいることを知った。

工場の隅で「昔は良かった」といじけている年寄りではなく、時代の変化にも気づかず「俺たちの時代は違った」と外から責め立てるだけの大物OBたちではなく、サニーで最も有能とも噂される大上幸弘が、そんな思いを持っていることにも感動した。

「ちょっと大げさだぞ」

その言葉に、自分が涙を流していることに気がついた。流れる涙は、ひたすら熱かった。

「そして、サニースピリットを持って、そして、会社を変える気合と根性があるのは、俺とお前だけじゃないからな、さすがに2人じゃ無理だ。今度、紹介する」

そういうと、大上は、面白い冗談を言ったかのように笑った。そして、その大上を後ろから見つめる盛下も、若干、笑ったように見えた。

その日、絢は食事に誘われることもなく、また、出世や解雇をチラつかされたりすることもなく、そのまま19時過ぎには帰された。

「外にいる矢野からティッシュ貰ってけよ。俺が泣かしたなんてことになると面倒だからな」

興奮のあまり、どうやって席に戻り、どうやって家に帰ったのかも憶えていなかった。帰ってからも、寝ることが出来なかった。

消えかかった炎が、再び大きく燃え盛り始めた。

アウトルックの予定表に矢野経由で土曜日のゴルフの予定が入ったのは、それから更に数日後だった。

(第5回につづく。更新は月曜日か火曜日になるかもしれへんwww)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?