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きゅーのつれづれ その3

ダンボール・ジャングル:

深夜。カオリがすうすう寝息を立てている。外ではしとしと雨が降っている。
部屋の中には、かすかな気配が動いている。まだ片付けられていないダンボール箱が、夜になるとしゃべり出す。じっさいそれが話し声なのかどうかはわからないんだけど、でもそんな気がする。カオリの口からもれるイビキや、むにゃむにゃという寝言に反応して動くから。かさこそ、かさこそ。
カオリの荷ほどきが中途半端なままなので、ダンボール箱の中はまだ落ち着き先の決まらない荷物でいっぱいだ。その重さのせいであいつらは歩けない。だからサワサワと風のような音をたてながら上にばかり成長していく。ぴったりと並んだ細い溝のひとつひとつが分かれて、朝顔のつるのように天井に向かって伸びていく。固そうな見た目なのに、意外にしなやか。
そうやって毎晩、夜中の部屋はダンボール・ジャングルと化す。
カオリの寝息に合わせて、雨の音を喜んでいるみたいに、分厚い紙の葉っぱを揺らす。そうやって夜を過ごし、外が明るくなってくると今度は音も立てずに縮み始めて、カオリが目覚める頃には元のダンボール箱に戻ってる。でもきちんと戻るのは難しいのか、毎朝ちょっとずつ形が変化している。昨日より少し背が高くなってたり、左右のふたがふぞろいだったり。カオリもそろそろ不審に思い始めた様子だ。ダンボール箱を前にして(あれ?)ってちょくちょく首をかしげてる。

今日帰宅したカオリは、部屋着に着替えると勢いこんで、
「よーし、やるぞ!」と腕まくりをしたので、やっと片付けにかかってくれるんだと安心したら、テーブルに紙を広げて、ペンを手にして何やら書き始めた。
「念願のひとり暮らしを始めました。遊びに来てね……と。ありきたりだけど、まあいっか」
どうやら引っ越しの挨拶ハガキを書いているらしい。遊びよりも片付けに来てもらおうよ、カオリー。
ぼくのつぶやきが届いたのか、カオリは部屋をぐるりと見渡して、ぼくを抱き上げるとテーブルに連れてきた。
「そうだね。まだ人に見せられる状態じゃないよね。掃除しないとねー」
カオリはぼくにうなずくと、空のダンボール箱に書きかけのハガキをまとめて突っ込み、タオルを持って風呂場へ向かった。どうやら今夜もこのままらしい。
周りのダンボールたちがさわさわと笑った。


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#きゅー


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