2021東大入試問題分析 物理

理科一類・物理/化学選択のしらかばです。共通テストに引き続き、2021年度東大入試の物理の講評を行っていきたいと思います。

総評~処理力重視の傾向が続く

2019年に登場した穴埋め形式も3年目を迎え、すっかり定着した感があります。大問1つの分量は昔と比べてかなり増加しており、高得点を目指す上では、簡単な問題を早く片付け、難しめの問題を考える時間を捻出することが重要となるでしょう。
適切に関係式を作って解けばよい問題がほとんどで、純粋な難易度としては決して高くはありませんが、時間制限が厳しいので本番では難しく感じられることと思います。

設問別分析

第1問

力学:重力のもとでの運動
昨年の力学は抽象的な内容で斬新な問題でしたが、今年は典型的な出題に戻りました。
Ⅰ,Ⅱは基本問題です。エネルギー保存則・運動量保存則・運動方程式などを適切に活用しましょう。
Ⅲ(2)で面積速度一定を使うのが大学入試としてはやや目新しいですが、問題文で誘導されているので簡単になってしまっていますね。
「中心力しか働いていないときには面積速度が保存する」という法則は角運動量保存則とよばれ、惑星の運動以外でも成立する普遍的な法則であるということは認識しておくべきでしょう。
Ⅲ(4)(5)は東大物理の特徴の一つである数列に絡ませた問題ですが、そこまで難しくはないと思います。

今回の中では最も簡単で、完答をめざしたい問題です。

第2問

電磁気学:コンデンサ・電気振動
Ⅰ,Ⅱはコンデンサの問題、Ⅲは電気振動の問題です。2019年に続いて、本格的な交流回路の出題となりました。
Ⅰ,Ⅱは典型問題ですが、小問数が多いので時間を取られるでしょう。Ⅲは都度適切な関係式を使う必要があり、やや難しい問題です。

ⅠとⅡを確保した上で、Ⅲで点数を上積みしましょう。Ⅲを保留にして、先に第3問に取り掛かるのもよいと思います。

Ⅲの電気振動については丁寧に解説しておきましょう。
まず、素朴な解法を示します。

考える回路は、容量2C0のコンデンサー(板AとC)、容量4C0のコンデンサー(板DとB)、および自己インダクタンスLのコイルをすべて直列につないだ回路です。
初期条件は、Ⅱ(2)の結果においてα=2とおくことで求まります。板Aには4C0V/3、板Dには10C0V/3の電荷があることになります。
(1) 電気振動の周期が2π×√(自己インダクタンス×容量)となることは既知とします。
容量C1とC2のコンデンサーを2つ直列につなぐと、容量C1×C2/(C1+C2)のコンデンサーと同じようにふるまうのでした。今回の回路の場合にこれを適用すると、2つのコンデンサーを容量4C0/3をもつコンデンサーに置き換えることができます。よって、周期は2π√(4LC0/3)とわかります。
(2) t=0のとき、板AとBの電位差は2Vのままですから、コイルの両端にかかる電圧も2Vです。
これがコイルに生じている誘導起電力に等しいです。t=0における誘導起電力LΔI/Δtは、与えられた1次近似式より2πLI0/Tと求まるので、I0=TV/πLとわかります。
(3) t=π/4を(2)の近似式に代入すると、t=π/4のときコイルに生じる誘導起電力が0となっていることがわかります。よって板Aと板Bの電位差は0です。したがってQ3/4C0+Q4/2C0=0であり、Q3=-2Q4が得られます。
一方、板CとDは回路の他の部分とつながっていないので、板Cと板Dに蓄えられた電気量の和は保存します。すなわち、-Q3+Q4は一定です。
上述したように、t=0ではQ3=4C0V/3、Q4=10C0V/3ですから、
-Q3+Q4=2C0Vです。この式から、Q3=0のときQ4=2C0Vであることがわかり、その時の板Aと板Bの電位差がQ3/4C0+Q4/2C0=2C0V/2C0=Vと求まります。よってこのときコイルに生じる誘導起電力はVであり、(2)の近似式よりV=(2πLI0/T)cos(2πt'/T)=2Vcos(2πt'/T)が得られます。よってcos(2πt'/T)=1/2であり、t'=T/6, 5T/6と求まります。
(4) E1=(4C0V/3)^2/(2×4C0)+(10C0V/3)^2/(2×2C0)=3C0V^2です。
E2を求めるため、t=π/4でのQ3とQ4を求めましょう。(3)で得たQ3=-2Q4と
-Q3+Q4=2C0Vを連立し、Q3=-4C0V/3、Q4=2C0V/3とわかります。よって、E2=(-4C0V/3)^2/(2×4C0)+(2C0V/3)^2/(2×2C0)=C0V^2/3です。
よってΔE=-8C0V^2/3です。ここで(2)で得たI0の式に(1)で得たTの表式を代入するとI0=2V√(4C0/3L)ですから、2乗してI0^2=16C0V^2/3Lを得ます。したがって、ΔE=-LI0^2/2です。
(5) t=0では電流が0ですから、t=0においてQ3、-Q4のグラフの接線の傾き(すなわちQ3、-Q4の時間変化率)は0でなくてはなりません。この時点で③、④、⑤に絞られます。そして電気振動の周期はTなので、③か④が正解です。
さらに(3)より、振動の振幅によらずT=π/4ではQ3=-2Q4となることがわかります。③と④のうち、この条件を満たしているのはです。

(3)以降でも誘導起電力の式を利用することと、電気量の保存に注目することがポイントでした。

別解として、電荷の時間微分が電流の大きさであること、すなわち電流の時間積分が電荷の変化量であることに注目する解法もあります。

(3別解) I0sin(2πt/T)をtについて0からT/4まで積分すると、
-I0T/2π=VT^2/2π^2L=8C0V/3となる。よって、t=T/4のとき
Q3=4C0V/3-8C0V/3=-4C0V/3、Q4=10C0V/3-8C0V/3=2C0V/3である。
また、I0sin(2πt/T)をtについて0からt'まで積分した値8C0V(1-cos(2πt'/T))/3は4C0V/3に等しい。よってcos(2πt'/T)=1/2
(5別解) ③か④に絞るところは上の解に同じ。Ⅱ(2)の結果より、t=0においてQ3=4(α-1)C0V/3、Q4=(4α+2)C0V/3であることに注意する。一般のαに対して(2)と同様に考えることにより、I0=αTV/2πLが成り立つことがわかる。I0sin(2πt/T)を時刻0からT/2まで積分すると8αC0V/3となるから、時刻T/2においてQ3=4(α-1)C0V/3-8αC0V/3=-4(α+1)C0V/3である。
ここで③④いずれもt=0においてQ3がQ4のおよそ2/3倍となっているので、αはおよそ4とわかる。このとき時刻T/2においてQ3=-20C0V/3であり、時刻0においてQ3=12C0V/3、-Q4=-18C0V/3である。したがって時刻T/2におけるQ3と時刻0における-Q4がほぼ等しい値となっている④が適切である。

「交流回路」というのが何か特別なもののように思っている人もいるかもしれませんが、直流回路と交流回路の違いは単に電流が時間変化するかどうかだけであり、キルヒホッフの法則や電気量保存などの関係式はいずれの場合にも成立しています。交流回路の問題では、こうした関係式が使えないかを常に意識するようにしましょう。

第3問

光学:光ピンセット
光圧で微小な物体を動かす光ピンセットを題材にした問題。解きがいのある面白い内容です。
Ⅰは運動量保存則を使えれば容易に解けます。Ⅱ(1)(2)はⅠで求めた力を合成するだけで、これも簡単です。
しかしそのあとのⅡ(3)がかなり難しい問題です。Ⅲは(1)が解けさえすれば簡単ですが、図が複雑なので手こずるかもしれません。

ⅠとⅡ(1)(2)は確保しましょう。Ⅱ(3)は初見では悩むと思いますが、この問題が解けなくてもⅢは解答できるでしょう。Ⅲが解けたかが一つの分かれ目になったのではないでしょうか。

余談~Ⅱ(3)を直感的に解く~

「正攻法」で解くなら、Δyを何らかの形で角度に関係づけた上で、Ⅰ(5)
(またはⅠ(4))の結果を利用する必要があります。駿台・河合・代ゼミ・東進の速報はすべてこの方針で解答しています。
しかし、実は全然計算をすることなく直感的に答えを出すことができます。その解法を紹介しましょう。
まず、Δy=0のとき、Ⅱ(1)で求めたようにf'=0ですから、エは弾かれます。
次に、Oに関してFと対称な点をF'とし、入射光線の光路がF'で交わる状況を考えます(ここがポイントです)。このときの1つの光線が微粒子に与える力は、図3-4の場合と同じ大きさです。屈折角が微小とみなせるので、向きはほぼ正反対であることもわかります。
屈折角が微小なので、微粒子内での光が鉛直線となす角の大きさは、この状況の場合と図3-4の場合とで等しいとみなせます。したがって、この状況と図3-4を比べると、f'の大きさは同じで向きが反対とみなしてよいでしょう。よって、Δyを-Δyに置き換えたとき符号が逆転しないといけないので、正解はイと決まります。

あるいはさらに直感的に、「光線がOの下方で交わるとき、明らかに微粒子は下向きに力を受ける。光線がOの上方で交わるとき、微粒子は上向きに力を受けるから、Δyを-Δyに置き換えたとき、f'の符号が逆転する」と考えることもできます。

ある量の符号を反転させたときに全体の符号が逆転するかどうかを調べれば、全体がその量の奇数乗か偶数乗のどちらに比例するのかがわかることを利用したわけです。

来年以降の対策

穴埋め形式の対策に使える過去問はまだ3年分しかありません。長年穴埋め形式を採用している京都大学の問題がよい練習になるでしょう。
一方で、英語で下線部英訳が復活したように、2018年以前の出題形式に戻してくることもあり得ないとはいえません。2018年までの過去問演習もしておくべきでしょう。
また、微積分が活用できると、上記の第2問Ⅲの別解のように、解法の幅を大きく広げることができます。余力があれば微積分の活用の練習もしておくことをお勧めします。

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