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東大現代文2019第1問解説

こんにちは。いつもありがとうございます。
色々忙しかったり、大変だったりしたので、久しぶりの更新となってしまいました…。
これまで東大現代文に関しては、2020年の1問と4問、2019年の4問を解説していて、「2019年の1問解説しないとなんかバランス悪くね?」という感じがしましたので、今回はそれを。

実は今回の問題は、これまでのものとは違った点があります。
なんと、本文の著者である中屋敷均先生自らが作成された解答がネット上に記事という形で公開されているのです。
詳しくは、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70368?page=1

私も最初は知らなくて、解答・解説を考えている最中に見つけたのですが…
いやほんと驚きました。この解答ほど解答・解説の作成の参考になるものはない。
ただその一方で、「先生が作成された解答があるのなら、自分がわざわざ解答を公開しなくても良いのでは?」とも思いました。私の解答のほうが優れているなんてことはまずありませんからね。

てなわけで、記事を出そうか少し迷っていたのですが、「受験生の選択肢を増やす」というこのnoteの目的を思い出し、公開することにしました。先生も記事の中で、入試は著者の考えよりもむしろ、出題者の考えを問うものであるとおっしゃっていることですしね。

選択肢が増えた分大変かとは思いますが、私の解答と先生の解答、ついでに予備校の解答も合わせて確認しながら勉強していってください。

[解答・解説]

設問1

今回の話は、「カオスの縁」に関するものです。最初の4行で軽く解説がなされていますね。

その定義は「二つの大きく異なった状態の中間には、その両側の相のいずれとも異なった、複雑性が非常に増大した特殊な状態が現れること」となっています。
この時点で、何か二項対立の構造に落とし込めるものが本文で出てくるんだろうなと予想できます。

で、先に進む前に一つここでお話ししておかないといけないことがあります。それが、この定義の中にある「複雑性」という言葉。これが結構厄介なもので、ここで言われている「複雑」っていうのは理系的な単語で、私たちが普段日常生活で使う「複雑」とは意味が違うんですよね。
私も理系ではありませんから詳しいことは全然分からないのですが、簡単に言うとそれぞれの意味は以下の通りです。

本文で使用される「複雑」=基本的な法則で理解することが困難である。
私たちが日常で使用する「複雑」=物事の事情や関係がこみいっていること。入り組んでいて、簡単に理解・説明できないこと。

そもそもなぜこのような本文に明示されていないような話をしたのか、と言うと、この定義を知らないと十分に解答できない問題があるからです。
詳しいことはまたその問題の解説でお話しします。

では先に進みましょう。
2段落目から3段落にかけては具体例が述べられています。
「カオスの縁」について読者により分かりやすく伝えるために書かれた内容ですが、解答の要素になる可能性は低いので、1回読めば十分です。

次に4段落。ここからは少し話が変わります。
冒頭に、「カオスの縁が注目されたのは、生命現象とどこかつながりを感じさせるものだったから」とありますね。
「注目されたのは」とか「感じさせる」とか回りくどく書いていますが、要は、「カオスの縁と生命現象にはつながりがあるんだよ」ということでしょう。

そして2行目。
「生き物の特徴の1つは」という冒頭から始まっていきます。
形を生み出すことを例を交えながら説明していますね。まあここはこんなもんで良いでしょう。

で、5段落に入り、すぐ(1)が登場します。
「自然界ではある意味、例外的なものである」という傍線に対し、設問の要求は「どういうことか」です。

いつも通り、傍線自体に注目します。
「自然界ではある意味、/例外的なものである」
説明のキモとなるのは、明らかに「ある意味」という部分でしょう。
「ある意味、例外的なもの」ってあれば、「どういう意味やねん」と言いたくなるのが世の常。で、その意味を探すときにポイントとなるのが「例外的なもの」というところです。
例外的ということは、他に一般的なもの、スタンダードが存在するということですから、それが何かを考えながら読んでいかなくてはなりません。

次に解答の範囲を考えてみます。
1段落から3段落までが「カオスの縁」の説明であり、4段落から生命現象に関わる話に変わっていますから、スタートは4段落の先頭からと見て良いでしょう。

これくらいのことを考えたら、今度はゴールを探しつつ、次の文章に進みます。
「何故なら」という因果関係を示す接続語から始まり、「世界が時間とともに無秩序へと変わっている」という世界のスタンダードが述べられていますね。

早速ですが、この部分を(1)の解答に使用することができるでしょうか?
結論から言うと、使えます。
傍線には先ほども見たように、「ある意味で例外的」とありましたが、これは言い換えれば「Aという意味で、例外的」、さらにこれをもう一度換言すれば「Aだから、例外的」となります。これは、この文章が「何故なら」という因果関係から始まっていることと合いますよね。
よって、この文章が(1)の解答の軸の1つになることが決定します。
また細かいことは後にするとして、先に進みます。

次の文章では、「形あるものとして長期間存在できるのは、一般的に言えば、反応性に乏しい単調な物質が主なものである」とあります。
ここでも「一般的に言えば」「主なもの」という、スタンダードが述べられていますので、傍線の「例外」と対応する、つまり、解答の要素になる可能性が高いと見て良いでしょう。

ただ、傍線のすぐ次の文章は「何故なら」という因果関係が明示された、非常に「強い」ものであると言えるので、あくまで傍線の次の文章をメインにしつつ、今回の「反応性に乏しい単調な物質」の話もする、というスタンスで良いのではないかなと思います。

まとめると、傍線の「例外的」というのは「無秩序に向かいつつある世界」とも「反応性に乏しい単調な物質」とも異なるというわけです。

続いて6段落。
これまで例外に対応する一般の話が2つ挙げられていたので、ここからはどう例外なのかが説明されていきます。
まず1文目と2文目は「無秩序に向かう世界の話」。
3文目と4文目が「反応性に乏しい単調な物質」。
5文目がまとめで「安定と無秩序の間に存在する、極めて特殊で複雑性に富んだ現象である」とあります。安定と無秩序という2つの言葉がこれまでに確認してきたことと対応していることが分かりますね。また、「特殊で」という言葉が傍線の「例外」と対応することにも気が付きます。
少し表現は違いますが、傍線とこの部分は同内容であると見て良いでしょう。

そして、次の段落。ここからは「また」と始まって話が少し変わっており、傍線の説明には使えなさそうなので、解答の範囲には入らないだろうと考えられます。よって、6段落のラストまでが解答の範囲のゴールになります。

ということで、4段落から6段落という解答の範囲で解答を作成していけば良いことが分かりました。2つの一般要素が軸になるので、それに沿って進めていきましょう。

まず、メインの「世界は時間と共に無秩序に向かっている」という話から。
傍線の次にはこの話が書いてあり、6段落の最初には、それに対して「生命は秩序を与え、形あるものを作り出している」とあります。

つまり、
<一般⇔例外>
時間と共に無秩序に向かっていく⇔それに逆行して、秩序を与え、形あるものを作り出す
と整理できるわけです。

そして、2つ目の「反応性に乏しい単調な物質」という話。
こちらはちょっと難しいのですが、よく見るときれいに整理することができます。
まず、5段落の方。具体的な要素を省くと、「形あるものとして長期間存在できるのは、反応性に乏しい単調な物質である」ということです。
それに対応する6段落では、「反応性に富んだ物質が主であり、~次々に違う複雑なパターンとして、この世に生み出されてくる」、「生命が失われれば、また形のない世界へと飲み込まれ、そこへと還っていくのだ」とあります。
これをまとめると、こんな感じです。

<一般⇔例外>
・長期間存在できる⇔一定期間秩序を保って存在できる(生命が失われれば消える)
・反応性に乏しい⇔反応性に富む
・単調⇔複雑性を伴う

以上のような2つの要素の対比をメインにしつつ、「例外」という言葉を「特殊」に言い換えてまとめれば解答が完成します。

〈解答〉
反応性に乏しい単調な物質を除いて長期間存在できない、無秩序へと向かう自然界において、反応性に富む物質を、複雑性を伴い、一定期間秩序ある形として生む意味で特殊である。
(もっとうまく書ける気がするので、ご自身で考えてみてください笑)

いつも通り他の解答も見てみましょう。
〈先生の解答〉
秩序ある「形」を生み出すという生物の性質は、エントロピー増大の法則に表面上反しており、自然界で一般的に見られる現象とは言えないということ。

〈S〉
形を作り続けることで存在する生命のあり方は、より無秩序なものへ変化し、静的にしか形を保ち難い自然界では特殊だということ。

〈K〉
無秩序へと向かう自然界で、一般に存続できるのは強固な秩序を備えた無機物であるのに、生物だけが秩序を新たに生み出しつつ存続していること。

〈T〉
無秩序へと変化する自然界では反応性に乏しいもののみ形として存在できるが、反応性に富む物質を、複雑性を有しつつ秩序ある形として生み出す点で特殊だということ。

まず先生の解答について。
先生は1つ目の要素である「自然界が無秩序に向かっている」という内容に反して生物が「秩序を生み出す」という在り方を例外的であると考え、傍線を書かれたようです。
つまり、2つ目の要素は考慮されていなかったようなのです。
ただ、この文章のテーマは「カオスの縁」であり、タイトルも「AとBのはざま」という形になっていることを考えると、個人的には書いた方が良いのでは?という感じです。
実際の採点でどうだったのかは分かりません。

次に予備校の解答です。
私の解答と同じように、2つの要素に注目した解答にはなっているのですが、一般と例外の対応がバラバラになっています。対比を解答に書く際には、それぞれ対応する語を書かなければ十分ではありません。
<一般⇔例外>
・長期間存在できる⇔一定期間秩序を保って存在できる(生命が失われれば消える)
・反応性に乏しい⇔反応性に富む
・単調⇔複雑性を伴う

〈解答プロセス〉
① 傍線を見る。「ある意味」と「例外」に注目。
② 範囲を4段落から6段落と確定。
③ 2つの一般要素と綺麗に対比させる形で解答作成。

設問2

6段落まで話したので、7段落目から再開します。
「また、生命の進化~」という冒頭で、少し違った具体例が述べられています。
最後に「はざまで生命が生まれてきた」という話がなされていますね。

8段落も同じ具体で、今度は「生命がどういったところで生きていけるか」という話がなされます。そして、傍線2。
「何か複雑で動的な現象」という傍線に対し、設問の要求は「どういうことか」です。
今回の問題で一番の難問だと思います。

今回も最初に傍線を見ます。
「何か/複雑で/動的な/現象」
どれも説明しようと思えばできそうなものばかりなのですが、とりあえずは「複雑」と「動的」を中心に説明していけば良いでしょう。

次に、解答の範囲を考えていきます。
傍線の次の文章で「カオスの縁こそ生命が生きていける」と述べられ、9段落から大きく話が変わります。よって、解答の範囲のゴールは8段落目のラストと確定して良いでしょう。

では、解答の範囲のスタートはどこになるのか?
いつもと同じ考えで行けば、(1)で6段落目まで使用したので、7段落がスタートということになりますよね。
ただ、今回はそうではないと思っています。主な理由は以下の2点です。
① 傍線の含まれる文章の話の先頭に「様々な意味で生命は」とある。
② 4段落の1文目が傍線を含む文章と同内容である。

4段落の1文目は何だったか?
「カオスの縁が注目されたのは、生命現象とつながりを感じさせるものだったから」というやつです。「カオスの縁と生命現象にはつながりがあるんだよ」と言い換えましたね。
これ、傍線の含まれた文章と同じでしょう。もちろん、厳密には違うのですが、今回の問題に限っては「4段落から8段落にかけて言いたいことって、これだけじゃない?」と言ってもいいわけです。

というわけで、解答の範囲は4段落から8段落と言えるのではないかなと思います。

で、こっからが大変。
というのも、4段落から8段落にかけて書かれている内容の多くが具体例だからです。
傍線は抽象ですから、文章のどこを解答に使えるか、よりしっかりと考えなければなりません。つまり、帰納(個々の具体的な事例から一般に通用するような原理・法則などを導き出すこと)が成り立つ内容を探していく必要があるということです。

まとめて、
・帰納的に考えることができそうかどうか
・傍線の「複雑」や「動的」に関連したワードがあるかどうか
上記の2点に沿って解答の範囲を見ていきます。

まず、6段落目の4行目に「複雑」というワードがあります。
「~偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして、この世に生み出されてくる」
これ、「複雑」の説明には使えないですけど、「動的」の説明には使えそうではないですか?
「次々に」とあるので、偶発的な要素に反応するのが1回限りでないことは明らかです。
偶発的なに反応しながら変化し続ける。これは生命が動的であるということでしょう。

そして、もう一つ重要なのが7段落目の3行目から4行目の内容。
「静的・動的という正反対のベクトルが絶妙な作用で作用する、そのはざまから生まれ出てきたのだ」ってやつです。
なぜこれが重要と分かるのかと言うと、この文章の最初に「大きさも見た目も複雑さもその生態も」という、具体がいくつも並べられた表現があるからです。
生命の進化や、生命の生存可能環境などの具体1つで成り立つ内容を抽象に持っていくよりも、いくつかの具体で成り立つことが確定している内容を抽象に持っていく方が、その抽象の正確度はより高いものになります。言い換えれば、抽象の次元で書かないといけない解答に使える可能性が高いということ。
また、対象は違いますが「生まれ出てきた」という表現は、最初にお話しした、6段落4行目の「~偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして、この世に生み出されてくる」の「生み出されてくる」と対応しています。
さらに、「静的・動的という正反対のベクトル」の部分は、傍線イの直前の表現とも対応しています。

したがって、ここの内容も解答に使えると見て良いでしょう。
(ちなみに、ここでの「複雑さ」っていうのは、私たちが日常で使っている意味のものだと思います。そうじゃないと、具体として羅列されるとは考えにくいですから)

これで大枠はできているんですが、一応8段落の具体も見てみます。
「生きていけるかどうか」という存在に関する例です。
これは抽象化して解答に書くべきなのか?
さっきと比べて、例の数が太陽、絶対零度といった感じで少ないですから、帰納という面からみれば書かなくても良いと言えます。
ただ、6段落と7段落の整理の時に「生まれ出てくる」「生み出されてくる」とあったことを考えると、存在に関する内容も書いておいた方がバランスが良いのです。
ということで、存在に関する話も解答ですることにします。

まとめると、
・「偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして、この世に生み出されてくる」
・「静的・動的という正反対のベクトルが絶妙な作用で作用する、そのはざまから生まれ出てきたのだ」
・「カオスの縁こそが生命が生きていける場所なのだ」(8段落ラスト)
この辺りは解答に使えそうです。

しかし、一方の「複雑」の言い換えはまだ見つかっていません。この言い換えは一体どこにあるのか?

これがないんです。(1)の解説の最初にお話ししたことが絡む問題は、(2)だったわけです。
もう一度「複雑」の意味を見ておくと、
本文で使用される「複雑」=基本的な法則で理解することが困難である
でした。今回の問題を解答しようとすると、これを事前の知識として持っておかなければなりません。

ただ、これは現代文ですから書けなくても全く問題はありません。
もちろん、日常用語の「複雑」から推測してみても良いですし、厳しそうであれば、この部分は減点覚悟で6段落6行目の「複雑性に富んだ」くらいにしておいても良いと思います。

というわけで、ここまでの内容をまとめれば解答が完成します。

と言いたいところなのですが、これがなんと書けない!(笑)
100字弱になってしまう。ですので、「生まれ出てくる」「生み出されてくる」と「生きていける」という内容は省きます。重要度が比較的低いので。

「じゃあなんで説明したんだよ」って感じですよね。ごめんなさい(笑)

〈解答〉
生命は、秩序だった世界と無秩序な世界への方向性を備えた正反対の力のはざまで偶発的な要素に反応しながら変化し続ける、基本的な法則で理解することが困難なものである。

〈先生の解答〉
偶発的な要素に反応するなど、単純な法則で予測できない性質を持ち、静的なベクトルと動的なベクトルの間で、揺れ動くような存在であるということ。

〈S〉
生命は、その時々の世界に反応し、形をなしては崩れゆく多様な揺らぎとしてしか存在しえない現象であるということ。

〈K〉
生命は、偶発的な要素に反応する分子の秩序として誕生し、自己複製しつつ、秩序を変異させて自分とは異なる生命を生み出していくということ。

〈T〉
秩序だった静的世界と無秩序な動的世界の、両者への指向性が絶妙なバランスで作用する狭間で生じてそこでのみ存在可能な、偶発的要素に反応し更新を繰り返すもの。

さて、先生の解答を見てみましょう。
「偶発的な要素に反応するなど、単純な法則で予想できない~」とありますね。
「これって「複雑」の例だったのか」、というのが正直な感想です。また、先生は「動的」は「二つの対照的な状態の間を行き来する存在、その間で揺れ動く」意味であるとおっしゃっています。
本文には「偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして、生み出されてくる」と順接で書かれており、これがはざまで起きるわけですから、こっちが「動的」に近いのではないかな、と個人的には思うんですけどね。傍線と順番は違いますが、傍線の「複雑」と「動的」はある種一体な気もしますし。
まあ、著者である先生の考えが正しいはずではあるんですが、こう読めてしまうのも事実なので、どちらがより良いかの判断は皆さんにお任せします。
予備校の解答については特に触れなくて良いでしょう。

〈解答プロセス〉
① 傍線を見る。「複雑」と「動的」に注目。
② 範囲を4段落から8段落と確定。
③ 傍線のキーワードと帰納の2つに沿って探していく。
④ 「複雑」を自分の言葉で説明し、解答作成。

設問3

では、次に進みましょう。
9段落からです。
1文目の「少しこれと似た側面がある」という表現から、この文章が大きな類比で構成されていることが分かります。
で、続いて科学が混沌とした世界に形を与えていくものであるということが述べられており、10段落にかけて日食や月食という例を用いて説明されています。
また、11段落では、がんの治療などが例に出され、12段落に続いていきます。
こういう流れで設問3。「人類にもたらされる大きな福音だ」という傍線に対し、設問の要求は「どういうことか」です。

傍線を見てみると、「福音」という言葉の説明を主にしなければならないことが分かります。
他に説明すべきことはまあ無いでしょう。

続けて、解答の範囲はどうなるか、考えてみます。
設問2で8段落まで終わり、9段落で話が大きく変わっている流れの中に設問3がありますから、スタートは9段落で良いでしょう。
ではゴールはどこか?
13段落を見てみると、世界の形が科学によって決まった後の世界がどのようなものなのかが具体例を用いて述べられています。これはまさに傍線ウと直接かかわる内容ですから、当然解答の範囲に含まれますね。
次の14段落では、科学によって形が決められ切ってしまった世界が息苦しいという話(これが筆者の主張ではあるのだが)に変わっているので、傍線ウとは少しずれていると言えます。
以上より、解答の範囲のゴールは13段落として良いでしょう。

では、解答を詳しく考えていきましょう。
まずは、傍線の周辺から。
傍線ウの前に「それは」とあるので、前を見ます。
簡単に言うと、「科学によって世界の秩序を明らかにし、新しい形が生まれていく」ということが「それは」の指す内容です。
ただし、「それは」は傍線ウの中に含まれているわけではありませんから、これを解答のメインに据えることはできません。
「科学によって世界の秩序を明らかにし、新しい形が生まれていく」ことが人類にとって福音であることがどういうことなのかを説明しないといかんわけです。

で、傍線ウの次の行である13段落の1行目に「そうやって」という指示語があり、これが傍線ウを含めた12段落の内容を指していることから、この辺りも優先的に見てみます。
ここには「そうやって、世界の形がどんどん決まっていき、すべてのことを予測でき、何に対しても正しい判断ができるようになったとして、~」とあります。

ここで、もう一度傍線ウの前の「それは」が何を指していたか思い出してください。
「科学によって世界の秩序を明らかにし、新しい形が生まれていく」でしたよね。
これと、今話している「そうやって、世界の形がどんどん決まっていき、すべてのことを予測でき、何に対しても正しい判断ができるようになったとして、~」を比較してみてください。
何か気が付くことはありませんか?
そう、「形が生まれる、決まっていく」という内容は共通していますが、「すべてのことを予測でき、何に対しても正しい判断ができるようになった」という内容は共通ではないのです。
また、形が決まることと、予測ができること・判断ができることは同じではありません。
よって、この重なっていない部分は傍線ウの説明に使用しても良いでしょう。
ただし、14段落を読めば分かるように、筆者はあらゆるものがそうなった世界、つまり、科学が役目を終えた社会に対しては否定的なので、本文通り「すべてのこと」、「何に対しても」という表現は使用してはいけません。この点は注意しましょう。

ただ、まだこれだけだと「福音」を説明しきれていない感じ。
福音というのは、喜ばしい知らせということですから、喜ばしいというのがどういうことなのかを書かないといけません。
こんな視点で、9段落から11段落を見ていきます。

9段落では、「突然太陽がなくなったらびっくりするよね。不安で混乱するよね。」とあり、10段落では、「~物理法則により起こる現象であることが科学によって解明され、何百年~予測することができる」とあります。
また、11段落では、がんの治療、もっと大きく言えば、病気の話がなされています。薬があれば、今苦しんでいる人を救えるのにね、というわけです。

どうでしょうか?「福音」に近い表現ありますかね?
…ないですね。というわけで、9段落から11段落を踏まえつつ、自分の言葉で説明します。
詳しくは、解答を見てください。

まとめると、
・傍線ウの直前にある「それは」の指す内容
・13段落の最初にある「予測」と「判断」の内容
・9段落から11段落の内容。
これらをまとめれば解答が完成します。

〈解答〉
人類は科学によって世界の秩序を次々に明らかにしていくことで予測や正しい判断を行うことが可能となり、それがもととなって人類に恩恵が付与されるということ。

〈先生の解答〉
人間が科学により世界の秩序・仕組みを解き明かしていくことで、その知見を利用した恩恵が人間社会に与えられること。

〈S〉
科学は、混沌たる世界の中に不変の秩序を見いだしていくことで、世界がもたらす不安や混乱から人間を解放するということ。

〈K〉
科学が混沌とした領域をつぎつぎと解明していけば、万象に関する予測と正しい判断が可能となり、人類にとっての害が残らず消滅するだろうということ。

〈T〉
科学により、人類が世界の秩序をより理解して正しい予測や判断が可能になることで、直接的な利益が得られるだけでなく、未知への恐怖から解放されるということ。


この設問3は、今回の問題の中で一番難易度が低いので、点数を取らなければならないところだと思います。正直、他の解答とあまり変わらなそうだということもあって、この設問の解答はそんなに気合を入れて書いてません。なんで、この設問はあまり参考にしないでください(笑)

まず先生の解答。前半は同じですね。また、後半もほとんど同じ感じです。ただ、先生のほうが傍線の書き方により忠実で、きれいな感じがします。
記事には「得られる知識やそれを応用した技術などにより、人間社会に恩恵がもたらされる」とありますので、これが書ければベストだと思います。
故に、ベストの解答としては、

〈ベスト解答?〉
人間が科学により世界の秩序・仕組みを解き明かしていくことで得られる知識や、それを応用した技術などにより、人間社会に恩恵がもたらされること。

となるのかもしれません。

続いて予備校群。みな「不安」「混乱」「恐怖」といった言葉を使って書いていますね。
こう見ると、普通に「不安、混乱、恐怖などから解放される」と答案に書いても良いのかもしれません。
ただ、Tの「未知への恐怖」という書き方はどうなんだろう、と思います。
というのも、「未知」という言葉が14段落の1行目に
「病も事故も未知もない、~」と並列された形で書かれてあるからです。
この「病」という単語が解答の範囲である11段落に含まれていることを考えると、ちょっと一般化が足りてないんじゃないの、という感じです。


〈解答プロセス〉
① 傍線を見る。「福音」に注目。
② 傍線の直前にある「それは」が指す内容を確認。
③ 傍線の周辺であることと、「そうやって」という指示語があることから、13段落の最初を確認。
④ 9段落から14段落を見て、「福音」という言葉を説明できないか考える。(ここでマイナスの感情から解放されるという解答を導いても良い)
⑤ 自分の言葉で「福音」を説明する。


設問4

最後の問題です。
14段落から見ていきます。
「科学が秩序を明らかに仕切った世界って息苦しくない?」と言っていますね。

15段落では、物理的な存在である生命との類比で、知的な存在としての人間は、「分からない」世界から「分かること」を増やしながら生きている。その営みが新しい空間を生み、喜びを得ている、とあります。16段落も同じ内容です。

そして最後の17段落。
「分からない」世界こそが、人が知的に生きていける場所であり、いろいろな知性や決断、選択が許される、と述べた流れで、設問4です。
「いろんな「形」、多様性が花開く世界」という傍線に対し、設問の要求は「どういうことか」。いつも通り「本文全体の趣旨を踏まえて」とあります。

では、解いていきましょう。
まずは傍線の確認。
「いろんな「形」、多様性が花開く世界」とあり、この「いろんな「形」」と「多様性」は同格であると見て良いでしょう。ただ、情報量が少ないので、やはり本文全体を通して筆者が何を伝えたいのかを見ていく必要があると思います。

解答の範囲は言うまでもなく、全体です。
ただ、基本は他の設問と同様で、傍線の周辺が主になります。

まず傍線の次の文章。「それは」という指示語に始まり、「科学の世界と非科学の世界のはざまにある場所」と述べられています。
この指示語は傍線を指していますから、この内容は解答に使用できそうです。タイトルにもありますしね。

次に傍線の前の文章。「「分からない」世界こそが~」とあり、傍線と同じ「世界」という単語があるので、これも解答に入りそうですね。
で、そんな世界こそが人が知的に生きていける場所であり、決断に意味が生まれ、アホな選択が許される、とあります。つまり、傍線は、「人が知的に生きていける場所であり、決断に意味が生まれ、アホな選択も許される世界」であるということです。
こう見れば、この部分も解答に使えそうですよね。

ちなみに、このアホな選択も許されるとはどういうことでしょうか?
「も」とありますから、当然賢い選択も許されています。つまり、どんな選択でも良いというわけです。これを解答に使用できる形容詞に言い換えると、「自由な選択ができる」となります。
そして、この文章の流れで傍線が来ていることから、傍線の「多様性」の元は「自由な選択」にあると判断できます。選択が色々であれば、そこから出てくるものも多様になる。
したがって、「自由な選択」といった類の言葉は解答の作成の上で必須です。

続いて、15段落。
ここでも、「「分からない」世界」についての話があります。
「知的な存在の人間は「分からない」世界から「分かること」を増やし、「形」を作って生きている」
そして、「その営みが新しい空間を生み出し、その営みに喜びがある」とあります。
「その営み」というのは、直前の「「分からない」世界から「分かること」を増やし、「形」を作る」ということです。

先ほどもお話ししたように、自由な選択に基づいていろいろな形が出てくる。その形を作る営みが空間を生むという流れですから、空間も様々になる。「新しい空間」と書かれているのはそういうことでしょう。これが傍線の言う「多様性」です。そして、ここに人間の「生の喜び」があるというわけです。

ここまでの話をまとめると、
・「科学の世界と非科学の世界のはざまにある場所」
・「人が知的に生きていける場所であり、決断に意味が生まれ、アホな選択も許される世界」
・「知的な存在の人間は「分からない」世界から「分かること」を増やし、「形」を作って生きている」
・「その営みが新しい空間を生み出し、その営みに喜びがある」
これらが解答に使えそうだと分かりました。

最後に、本文前半の「生命現象」の話を解答に入れ、文章の類比構造を解答に反映します。
メインのほうで「科学と非科学のはざま」、「分からない世界の中で秩序を理解する」という表現があるので、それを書けそうなところを探してみると、設問1が最も近そうです。
安定(=反応性に乏しい単調な物質というやつ)と無秩序(=時間と共に世界が向かっていくもの)の間で秩序を作るという話ですね。
また、15段落にも少し「生命現象」の話が出てきているので、これも参考にします。
もちろん、全部は書けないので、必要なところだけ取ります。

というわけで、解答はこんな感じです。

〈解答〉
生命が安定と無秩序の間で秩序ある形を生み出すのと同様に、知的存在としての人間が自由な選択に基づいて未知の世界の秩序を理解し、それを通して生の喜びを享受できると同時に、新しい空間を生み出し続け得る余地のある、科学と非科学のはざまにある世界。

〈先生の解答〉
確定的でない、「分からない」世界だから、個人の選択の自由、すなわち、多様な個性の発露の余地が生まれる。その様々に異なった自己の発現が人に生きる喜びを与え、その多様性の中から、たとえば次世代を担うような新たな可能性が生じてくる世界。

〈S〉
知的な存在としての人間は、すべてが明らかなものとして確定された世界でも、すべてが混沌とした不可知の世界でもなく、分からない事態に出会うそれらのはざまで自分なりの応答を作り出し続けることで、多様な生の形が生まれる豊かな世界を生きるということ。

〈K〉
生命が混沌とした世界から様々な秩序を生み出すなかで、さらに人間は未知なる事象を次々と科学的に秩序づけて解明していくが、なおも把握しきれない領域においてこそ、人々の知性的判断や実践的決断の限りなく豊かな可能性が切り開かれていく、ということ。

〈T〉
生命が安定と無秩序のはざまで、自然から物質を取り入れ秩序化するように、人間は科学の一義的な世界と非科学の混沌たる世界のはざまで、知的存在として自身の決断や選択を通じて未知の世界を自由に分節することで、新しい秩序を持つ空間が生じるということ。

なんか、先生の解答にある「選択の自由」とか「余地のある」を見て、
「お前真似たのか?」と言われてしまいそうですが、真似てません(笑)
なんかたまたま同じ表現になっちゃったんですよね。
「次世代を担うような新たな可能性が生じてくる」といった表現は、さすが先生といった感じです。ただ、受験生がここまで攻めた解答を書く必要はないでしょう。


〈解答プロセス〉
① 傍線を見る。「多様性」に注目しつつ、全体を眺める。
② 15、16、17段落を中心に、「世界」というキーワードに沿って探していく。
③ メインに合う形で書けそうな類比を探し、6段落に至る。
④ 傍線に合う形で解答作成。


こんな感じで、久しぶりの解説は以上になります。
解説作成ってこんなに大変だったっけ・・・?というのが正直な感想。

何度もお伝えしているように、私の解答もベストではありませんから、皆さんはこの記事を参考にしつつ、私や先生、予備校よりも優れた解答を作り上げていってくださいね。

それではまた。