「旅客の訪灯~公共交通の灯台~」
灯台訪問の魅力をお伝えする「訪灯シリーズ」。今回は灯台ならではの“陸の航海“の魅力をお伝えします。
「訪灯シリーズ」はこちらでまとめて読めます
有料マガジン(500円):灯台訪問を楽しむための六ヶ条
灯台訪問の楽しみ方の一つに「灯台への道のりを楽しむ」というのが挙げられます。目的地を楽しむのは勿論、その道中もかけがえのない思い出であり、その道程の満足度が灯台訪問の満足度に直結します。
また、灯台は何者も拒まないですし陸地の先端にあるため、灯台へ至る道のりの選択肢は多数あります。
そこで、今回は元々鉄道旅が好きで、あるきっかけで灯台の魅力にものめり込んで個人ブログ『旅と灯台』を管理運営されているBlueoceanさんに「公共交通機関を利用した灯台訪問の魅力」をお伝え頂きたいと思います。
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はじめまして。Blueoceanと申します。今回は公共交通機関を利用した灯台旅の魅力を中心にお伝えします。
◆公共交通機関を利用した灯台旅のきっかけ
まずは自己紹介も兼ねて公共交通機関を利用した旅を始めたきっかけをお伝えします。当初はテーマを決めず「青春18きっぷ」や「全国各地のお得なきっぷ」を利用して鉄道で全国を旅していました。その当時の旅のコンセプトとしては「日本全国を気軽に旅する」です。
灯台との出会いは2015年。昭文社さんから発売されている「旅地図日本」をみて、自分に合う旅のテーマを模索していたところ、「灯台50選」という指標があることを知り灯台(岬)を目指してみようと思いました。和歌山県の潮岬(しおのみさき)灯台に到達した際に、その地域独自の絶景および到達時の達成感の虜となりました。
初めて潮岬灯台を訪問したときも公共交通機関(鉄道・バス)で訪れています。「和歌山フリーパス」をはじめ、灯台周辺地域を自由に往来でき、変幻自在なプランを立てることができるのはフリーきっぷの魅力です。
灯台を本格的に旅の目的に据えたのは、2019年に開催された「灯台フォーラム」へ参加してからです。そこで「灯台は廃止の危機にある」「灯台を利用した街づくりのプロジェクトがある」という2点に興味関心を持ちました。
この2点は地方公共交通の現状と重なる部分があり、鉄道旅との共通点を感じたのです。2018年には廃止された島根県三江(さんこう)線の列車と駅舎を廃止前に最初で最後の乗車をしたことがあります。
「既に絶滅危惧種に指定されている哀愁漂うシンボルの2つを利用する旅をしたらすごく面白いものになるのでは?」そんな心境で旅をしたら以前に比べ圧倒的に旅が楽しくなったため現在まで続く趣味となっています。
◆灯台旅は「灯台へ向かう陸の航海」
灯台は岬の先端にあることが多いためアクセスは大変です。しかしながら普段の生活では訪問することのない場所へ訪問した達成感、周辺の絶景を独り占めできることが灯台旅の魅力であります。それをより実感してもらうために「自家用車よりも公共交通機関で旅をする」ということをオススメします。
現在はカーナビが普及したことにより、自家用車でも容易に灯台のそばまで到着できることがほとんどです。しかしながら、公共交通機関での旅は車のように簡単には行かず、「航海」という名にふさわしい難易度となります。この到達難易度を上げる過程が、灯台自体が本来持つ魅力に、冒険としての要素を加え、好奇心を持って旅をすることができると考えています。
灯台周辺へのアクセスは地方のローカル線を利用する必要があります。地方のローカル線は数時間に1本というダイヤが大半で、その乗り継ぎはかなり慎重にならないと灯台へたどり着くことができません。その一方で灯台へ到着した際には大航海時代に新大陸を発見した時のような心境で、灯台周辺の絶景を楽しむことができ、旅の満足度は車を利用した際よりも非常に高いと感じています。
灯台は「陸の孤島」とよばれる秘境の岬に立つことが多いので、そこにたどり着く経路にこだわると灯台旅の魅力が増していきます。
◆公共交通機関を利用した灯台旅の手順
ここからは灯台旅を段階別に分けて解説します。
初めて灯台を目指す方にオススメの旅は「参観灯台(のぼれる灯台16)」への訪問です。「参観灯台」は灯台の中で比較的アクセスがよく、かつ周囲も観光地として整備されている灯台で、到着時の満足度が高いです。全国に16基の灯台があるため、お住いの地域に近いところから気軽に始めてみてください。
①灯台へ向けての準備
公共交通機関を利用する旅は周到な計画を立てなければ満足を得ることはできないため【アクセス】と【ダイヤ】を中心に旅の計画を練ります。
【アクセス】
アクセス方法は参観灯台の運営管理をされている燈光会の下記リンクを参考にしてください。まずはお住まいの近隣地域からのアクセスできる灯台を考えてみてください。
【ダイヤ】
鉄道のダイヤについてはyahooの乗り換え案内を使用して調べると便利です。
参考:Yahoo!JAPAN路線情報
※バス等については各バス会社のサイトより時刻表を確認して調べます。(ダイヤは平日と休日で違うことがあるので要注意です)
経路設定の際、より灯台旅を楽しむコツとして自分なりの"制約"を設定することがオススメです。たとえば「原則来た道を戻らない経路を設定する」など。旅行の行程を可能な限り同じルートを避けるようにすると発見や楽しみが増える可能性が高まります。
(例)角島灯台への灯台旅の場合※九州方面からのアクセス
角島(つのしま)灯台までの公共交通機関ルートでは通常、JR下関駅より山陰線に乗車し、滝部(たきべ)駅もしくは特牛(こっとい)駅へ向かったのちにバスで角島へ向かう必要があります。
角島灯台への訪問を終えた場合には、山陰線で下関方面へそのまま戻るのではなく、東の長門(ながと)市方面へ向かって長門市駅周辺を観光したり、宿泊するようなプランを計画するとよいです※美祢(みね)線で下関駅まで帰ってくる。
灯台だけでなくその周辺地域を観光したり、都市と都市のつながりを観察すると旅を有意義に進めることができると思います。灯台を点で孤立させるのではなく、線や面として捉えて、周囲の風景を想像できるようにしながら旅を進めるとより興味深いものになると思います。
②車窓からの景色を楽しむ
【アクセス】と【ダイヤ】が決定したら、早速旅に出ましょう。ルートに関してはおおよそ調査済みだと思いますので、当日は乗り間違えがないように細心の注意を払いながら、車窓の景色を心ゆくまで楽しみます!
鉄道は「動く博物館」です。車窓からは海岸線のきれいな景色をはじめ、数多くの日本の原風景を見せてくれます。それらを見て脳裏に焼きつけたり写真を撮ったり、旅の心境をメモしたりして灯台を目指します。この時間の余裕があるのも公共交通機関を利用した旅の魅力です。
ゆっくり自分と対話するもよし、自然と対話するもよし、地域の人に話しかけて世間話をするもよしでその地域に訪問したからにはその地域のものに興味関心を向けると旅が楽しくなります。
なお、景色については必要以上に調べすぎることはオススメしません。景色はその土地で自分の目で実感するものとし、当日の楽しみは当日までとっておくのが良いかと思います。
③灯台や風景について探究する
灯台旅の道中では色々な景色や構造物を見た際にふと疑問に思うことがあると思います。例えば角島灯台までの道中であれば「角島大橋はいつできたのか?」「角島は橋ができる前にはどのようにして本土と連絡していたのか?」といったことです。
この疑問に対する正解を予想しながら、Google検索などで解答を見つけていくと旅の時間がさらに意義深いものになります。調べたいことを自らの意思で勉強できることは非常に幸せなことです。わからないこともあるかもしれませんが、その場合は現地で出会った人に聞いたり、SNSでつぶやいたり、その道の専門家に相談したりしながら旅を進めていくと非常に有意義な旅となります。
※今では角島大橋が見えるこの場所が角島の重要な観光地となっています。
④航海をした証を集める
せっかくの灯台旅はその証となるモノを集めておくようするとよいです。証を何にするかは個人の興味に応じて選べば良いと思いますが、鉄道での旅の場合は「きっぷ」が冒険の経路を示す分かりやすい証となります。また、実際の経路を辿った記録としてきっぷに合わせて乗り換え駅や下車した駅の「駅標」も撮影しておくと、記録として後々わかりやすいです。
また、灯台へ到着した証としては「灯台の案内の写真」「灯台カード」「灯台スタンプ」などを集めています。
◆公共交通機関を利用するのに向いていない灯台旅
今まで公共交通機関での旅の魅力をお伝えしてきましたが、これは一例で灯台旅の方法は千差万別でよいと考えています。とはいえ、公共交通機関の利用に向いていない灯台旅は存在するので、ここでは参考までにご紹介します。
①夜に灯台を訪問する旅
灯台は昼と夜では出会ったときの様子が異なります。どちらも素晴らしいと感じていますが、公共交通機関(主に鉄道・バス)は夜に運行がない場合が多いため、夜間の灯台を中心に回りたい人には向いていません。
②カメラ等本格的な機材を持っていく撮影を中心とした旅
本格的な機材を利用して灯台周辺の絶景を撮影したい場合は機材の持ち運びが大変なので公共交通機関での旅は向いていません。公共交通機関で行く旅の場合は必要最低限の手荷物とすることをオススメします。
③とにかく沢山の灯台を巡る旅
公共交通機関を利用した場合は訪問する灯台数に制限があります。全国全ての灯台を制覇したいと意気込んでいる人は迷わず車やバイクで旅に出ましょう。
◆公共交通機関での無茶な灯台旅経験
最後に、公共交通機関を利用した灯台旅での無茶な体験談を反面教師として頂きたくその経験をご紹介します。
秋田県の入道埼(にゅうどうさき)灯台へ向かった時のこと。アクセスは男鹿(おが)線を利用し終点の男鹿駅到着後にバスを利用する手段が一般的です(バスで灯台まで1時間程度)。
しかし、この時は男鹿駅を降りたあとバスでは向かわず、レンタサイクルに乗り入道埼灯台を目指すことにしたのです。レンタサイクルで灯台まではまさに冒険そのものです。
ちなみに、「公共交通機関+レンタサイクル」は個人的に最強の組み合わせだと思っています。公共交通機関での移動で周囲の景色をゆっくり楽しみ、灯台周辺は自転車で爽快に風を受けながら気分よく向かうことができる。晴天の場合は爽快感を味わうことができるので、レンタサイクルの利用もオススメです。
男鹿駅から入道埼灯台へは片道最短でも20km以上ある道のりです。往路に関してはスムーズに何事もなく灯台へ到着することができました。周囲の美しい絶景を堪能し、テンションはMAXに達していて、勢い余って「来た道を戻るのはつまらない」と謎の感覚となり、当初予定していた最短ルートではない海岸線のルートで男鹿駅へ帰るという決断をしました。
後にこれが後悔のルートとなることは知る由もなかったです。
海岸線のルートは想像以上にアップダウンが激しく、自転車での旅には向いていなかったのです。想像以上に体力が奪われ、ヘロヘロになっているなか、さらに自転車が故障してしまいました。自転車は電動アシスト機能つきであり、上りの場面では命綱であるアシスト機能が途中で故障し、絶体絶命のピンチ。上りを自転車を押しながら進む中、観光という言葉は一切なく生死の境目といった感じです。
船の航海でいえば早く灯台の光を見つけたいと思うような心境で、ひたすら歩き、アシストが直らないかを必死に模索していました。そんな中、アシスト機能が奇跡的に復活!奇跡を信じて旅をすればよいこともありますが、公共交通機関を利用しての旅は計画的に旅をしないと最悪の場合帰れなくなるというリスクもあるため注意しましょう。
記 Blueocean
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今回は「公共交通機関を利用した灯台旅」というテーマで灯台の魅力をBlueoceanさんに体験談を中心にご紹介頂きました。灯台は陸地の先端にあるからこそ、そこに至るまでの道のりにもロマンや冒険が生まれます。そんな灯台巡りの旅に出てみてはいかがでしょうか。
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《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》
これまで200基以上の灯台訪問経験のある記者が、実践できる灯台訪問の「楽しみ方」をご紹介します
年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。