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極楽荘立退き物語(その3)

仕事は段取りという言葉がある、立退きもまた然り、というか、立退きは段取りで決まる。

ハイ皆さん出て行って下さいね〜!私から発せられるこの一声が試合開始のゴングだ、いざ始まれば、最後の1人を立ち退かせるまでこの闘いは終わらないし、止まらない。まさにノンストップアドベンチャー!

こちらから始められるという利点を最大限に生かし、ゴングを鳴らす前にどこまで入念に準備が出来るか、ここが立退きの成否を分ける。大きく分けて準備は2つだ。

まず一つ目が行政への挨拶、根回し、生活保護受給者(極楽荘の場合は6名中3名が生活保護)の立退きにおいて、行政は事業パートナーであり、立退き実施前に絶対に味方にしなければならない。

生活保護受給者の立退きは比較的容易、それは東京都内23区内であれば5万3,700円まで家賃が出るからで、極楽荘の家賃が3万円、そう、今より確実に良い住居に住み替えることが出来るのだ。ここがとても重要!良い住居に住み替え出来て、かつ月々の身入りが変わらない、そして立退き料という臨時収入(タバコ酒パチンコ)も得られる。交渉としては決して難しくない、むしろメチャクチャ良い話だ!

ではなぜ生活保護の方は、自らより良い住居に引っ越さないのか、答えは簡単、生活保護受給者の家賃上限額を知らないのである、また、当たり前だが引越しする正当な事由がなければ、引越し費用や仲介手数料、敷金礼金を行政が負担してくれないということもある。

いずれにしろ彼らは驚くほど無知で、自分の人生の向上に無関心だ。

かえって苦しいのは年金生活者である、少なくとも極楽荘では生活保護受給者より年金生活者の方が貧しい暮らしをしていた。現役時代にまともに働かなかったから年金が少ない(月々5万円の方もいた)。おっしゃる通りだが、彼らは現金を持っている(生活保護の一月の生活扶助額約12万円を超える資産を持っていると、生活保護は受けられない)ゆえに生活保護受給者にもなれない。少ない貯金を切り崩しながら生活している。よって、引越し先の家賃も3万から大きく上がることができない。これはかなりキツイ。

ここで2つ目の準備がいる。それが引越し先を探す作業だ。どの街にも生活保護及びギリギリの年金生活者向けの住居を取り扱う不動産屋がある。北千住には3つあり、その全てに挨拶に行った。

この際も生活保護受給者は楽だ、行政が5.37万円まで家賃を保証するからで、行政からオーナーへの直振込も可能である、これはこれでカタイ賃借人なのである。物件数も多い、困るのは3万円程度の家賃しか払えない年金生活者、物件がかなり限定される。まず不動産屋もやりたがらないし、オーナーも死にかけの貧乏ジジイ(ババア)に住んで欲しいとは思わない。しかし私はそんなことを言ってはいられない、不動産屋には、仲介手数料と礼金はウチが出す!礼金2〜3ヶ月でもいい!とにかく物件を出してくれ!と頼む。するとそこはその筋の不動産屋、心得たもので、キッチリ礼2礼3の物件が奥から出てくるのである。

行政への根回しと引越し先の物件が整えば、後は試合開始のゴングだ。ここで、立退き料と立退き期限も決める、立退き合意書も予め作っておく、極楽荘では立退き料は一律20万(約半年分の賃料)、引越し費用と礼金、仲介手数料はこちら待ち、立退き期限は2ヶ月後と定めた。

期限が短過ぎると思うかもしれないが、短い方が良い、ケツが長ければ長いほど、人は動かないからだ、この期限については、賃借人からいくらなんでも早過ぎる!!と怒られまくったが、引越し先はあるからご安心下さい!気に入る物件が出てくるまで探し続けます!で通した、期限に怒りをみせたものの、立退くこと、立退き料についてはそのまま押し込むことが出来た。

やはり立退きの話しと引越しの話しはセットでしなければならない、出て行け!ではなく、ここに引っ越した方が安全で清潔で快適ですよ!の提案、立退き6名ならまず5物件は用意して提案したい、虎の子も2物件ほど手元に残しておくと、後々有効なカードとして使える、そして物件数を限定する事で、早くしないと他のヤツに取られてしまうかもと、引越し先を決める競争をさせることも出来るのだ!

極楽荘立退完了まで残り5/6人(変わらず)

次回(その4)「最初の退去者、ヤンチャ老人田中(仮名)さんの場合」に続く



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