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極楽荘立退き物語(その7)

201号室にはアル中が住んでいた、常にションベン臭を撒き散らす彼は、アルコールに取り憑かれた男、アルちゃんと呼ばせて貰おう。写真はアルちゃんが潰した部屋で、その後は他の部屋に住んでいた。贅沢なヤツだ。

アルちゃんは良いヤツだった。愛嬌もあるしお喋りで、発泡酒を差し入れれば極楽荘の住人の人となりを包み隠さず教えてくれた。出掛ける時間帯、買い物場所、好み、性格、誰と誰が仲が悪い等々、これは戦略面で非常に助かった。

だが、自分のことになるとどうしようもなくルーズなアル中だ。少し込み入った話をするとすぐに俺はバカだからわからねぇと言った。

アルちゃんの手はいつも震えていた。それを私に見られると、エヘヘと笑ってもう一方の手で押さえた。その手もしっかり震えていた。

アルちゃんの良い点は、お兄さんがすぐ近くに住んでおり、社会との接点があったことだ、立退きについてもお兄さんが相談に乗り、俺はわからねぇと投げ出しがちなアルちゃんを上手くフォローしてくれた。

最初は立退きについて期限が短過ぎると文句ブーブーだったアルちゃんだったが、1人、また1人と極楽荘から人が去るにつれ、段々と協力的になっていった。最後の1人にはなりたくなかったのだろう。

引越しが終わって別れ際、アルちゃんが暑いからと言ってアイスをくれた。冷凍庫の最奥にある一度溶けてから固まった変形したあずきバーだった。

アルちゃん!そういうとこだぞ!

私は立退きをする時、賃借人に親切にするが彼らの人生には立ち入らない、人格や生活スタイルを批判したりもしない、あくまで立退くまでの人間関係だ。立ち退いた後は他人だし、何か相談を受けたりもしない、それは別れ際に明確に伝える。

私が出来るのはここまでです。どうかお体に気をつけて、健やかにお過ごし下さい。

所詮立退きは金儲けの手段だ。

極楽荘立退き完了まで残り1/6人

最終回(その8)「さらば極楽荘!立退きの極意とは?」に続く




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