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カシミール建築に学ぶ伝統的な断熱方法

寒い。とにかく寒い。
デリーの家は体の芯から体温を奪っていくし、
外の深い霧と深刻な大気汚染は外出する気力をなくす。
ソファーに座り、スマホを触るために出した手が冷えると
なにもやる気がなくなり、
耳や頭がどうにもキンキンと冷たいのでマフラーを頭にぐるぐる巻いて生活している。

デリーの家が寒い理由は、酷暑に適した作りになっているからである。
大理石は熱を逃がすには最適だが、冬は氷の上を歩くようだ。

カシミールの位置

カシミールとは、インド北部とパキスタン北東部の国境付近にひろがる山岳地域である。標高8000m級のカラコルム山脈があり、パキスタンとの国境には世界第2の高峰K2がそびえる。
冬は雪が降り、気温はマイナス近くまで下がる。

カシミールの伝統建築

裕福な人達はハマムという石を敷き詰めた部屋の底を空洞にして、その下に薪をくべて暖をとっていた。

カシミールの伝統的な家屋は南向きで入口は一つである。
窓がいくつも並び、木製の窓枠には小さなガラスがはめ込まれている。
厚いレンガの壁の内側には粘土と藁で漆喰が塗られていて、
家の中が冷え切ることはなかった。

カシミール建築の近代化

1970年代、カシミール地方は近代化のために無計画に
新しい建築材料を採用し始めた。
人々は近代化の中で外の都市に触れる機会が増え、
大理石の床やオープンロビー、大きな窓を求めるようになった。
急増する観光客のために過去数十年では町が急速に拡大し、
土着建築からコンクリートとガラスを用いた建築に変容した。
布製の床材、窓を塞ぐビニールシート、ドアや窓のカーテンに毛布をかぶせるなどして断熱の工夫がなされてきたが、これらは真冬にはあまり効果がない。
新しい建物は断熱レベルが低く、ドアや窓が緩いため熱損失が著しい。

カシミールのポータブル暖炉 カンガー

カシミールでは伝統的に、カンガー(Kanger)と呼ばれる持ち運び式の
暖炉が使われてきた。土鍋に沿って籐の枠が編み込んであり、
鞄のように持ち歩くことができる。
これに石炭を入れ、カシミールの伝統的なマント(ぺラン)の
下に敷いて持ち運ぶ。
慣れている人は夜中でも炭をこぼさず持っていることができるが、
コツを要する。
寒い季節にはお茶を出す前にお客さんにカンガーを出し、
ジャガイモやナッツを焼いたり、みかんを温めたりするのに使う。
このカンガーは最も安く、暖を取ることのできるカシミール人必須のアイテムである。

寒さをしのぐために

セメントと鋼鉄を使った近代建築工法は耐震のためには一理ある。
ただし、暖房のエネルギーコストを下げるためには
家の建築方法や断熱材を正しく使用することは不可欠である。

家を建てる際には、北風を遮り南向きに窓を設けることができれば
陽光と熱を最大限に利用することができる。
現代では北側にはリビングを置き、南側にバスルームや物置がある家が多いが、これは断熱のためには正しくない。
また、窓を開けるガラス枚数を制限し、
大きな窓には無可塑ポリビニールフレームなどの新素材を使うのが理想的だという。
内装の左官にはセメントではなく、泥を使うことが推奨される。
これらの断熱方法を採用すれば暖房の必要量は80%削減することが可能だ。

デリーの酷暑と寒波を生き抜くには

デリーは近年熱波も多く、酷暑期には50℃近くなることも珍しくはない。
そのため熱を逃がさない寒冷地の建築方式を採用することは
夏場のオーブンを完成させることにもなるだろう。
3月のホーリーの時期にもなればまた暑さがやってくる。

我々にできることは冬の間カーペットで大理石を覆い、
服を着こみ、暖かい飲み物を飲んで、
カンガーの代わりに湯たんぽを持ち運ぶことくらいであろうか。

尚、日照時間が減り冬季うつにもかかりやすくなるので、
暖かく栄養のあるものを食べ適度な運動をすることは不可欠だ。