ある保安隊員の話

なんとも不思議な話だ。要人警護の経験がない3人を、長期間護衛として他国の要人につけるらしい。その3人だけを、だ。警備なんかはしたことがあるが、警備と警護では規模もやるべき事もする意味も、すべてが違う。
「乃南曹長」
「ん?」
乃南は顔だけを千堂の方へ向けた。
「今回の主な活動場所って国外じゃないですか。なぜ軍じゃなく保安隊が派遣されるんです?」
彼女はあー、と言いつつ顔をしかめた。ということは曹長も納得していないのだろうか。
「今回は必要以上の戦力はいらない。むしろあってはいけない。少しでも敵意があると誤解させてはならない」
難癖つけられないように、か。
「俺たち立派な戦力じゃないですかぁやだぁ曹長」
冷たい視線が刺さる。
「保安隊はあくまで国内の治安維持のための戦力。他国と戦うためのものじゃない」
「他国と戦うための戦力じゃなければいいんだったら警察から出せばいいのに。あそこ人余ってません?」
いやぁ今日も平和だなあ、と電話で毎回のんびりと言う友人を思い出す。
「警察官は許可がないと発砲できないだろう。武力行使できないから人数が要る」
「うちは許可なしでも発砲できるし人数少なくていいから丁度いい、と」
「まあ、そんなところだ」
そう相槌を打つと彼女は仕事に戻ってしまった。まだ聞きたいことがあったんだけどな…一番聞きたいことが。なぜ、俺と諒と侑人の若い3人が選ばれたのか。

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