ある保安隊員の話

「お?これは…」
慣れた事務処理を淡々とこなしていると、隣でページをめくる音が止まった。
「どうしたんですか遠藤さん」
新人が来るということで、いつもは全くと言っていいほど書類に目を通してくれない上司に無理矢理書類を読ませていた。静かにしていると思ったら、ちゃんと読んでいたらしい。
「乃南くんこの子さ、あの双子のお兄ちゃんだよね」
遠藤が指し示した写真の人物は確かに見覚えがあった。名前の欄には夏目 諒とある。
「本当だ、あのお兄ちゃんですね」
「…あれからどれくらい経ったんだっけ?」
あれとはあの事件のことだろう。
「半年ですね」
「もう半年か…早いね」
ぐっと何かを堪らえるようにして、ベッドで眠る弟たちを眺めていた彼になにも言うことができなかったあのときから、半年。
「諒くんはもっと早く感じてるかもね」
「…そうでしょうね」
私はゆっくりと頷いた。

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