ある軍学校生の話

「いよいよだな」
「おう、いよいよだ」
俺達はそれぞれの詰所に配属されて、保安隊としてこれから生きていくことになる。
「お前さ、都市のほうに出ていくのかと思ってたよ」
「えっなんで」
「確実にあっちのほうが情報量多いだろ?だから元の世界に戻る方法とか、見つかる確率はゼロじゃない。探しに行くのかと思ってたよ」
真顔で言う。驚いた。まだ覚えてたってことは、こいつ本当にあの話信じてたのか。ごめん、「俺は信じるよ」って冷やかしかと思ってた。
「まぁ確かにそうなんだけどな…正直言ってこんだけ時間過ぎたら、もう戻れないような気がするんだよなー」
あまり暗く聞こえないように心掛ける。
「諦めるなって!」
励ましはありがたい。ありがたいが…
「諦めずに頑張って、ちゃんと戻れんのは本とかマンガの中だけだ。奇跡が連続で起こるからな。現実はそんなのありえない。そんな不確かなことに使う気力も体力も無い」
どこかの主人公みたいに、わずかな可能性にかけて必死になるなんてことはできなかった。必死になっても腹は満たない。
「そうか…」
反論が思いつかなかったのか、納得したのか。
「だから俺と連絡が取れなくなるのは、戻ったときじゃなくてお前と同じ死んだときだ」
…死んだら、あの人とはもう絶対に会えないのか。もしかしたら彼のほうは、もう俺のことなんて忘れてるのかもしれない。
「縁起でもないこと言うなよ」
笑いながら軽く小突かれる。それから半年ぐらい忙しくて、久しぶりの電話で「生きてた!!」と叫ばれることになる。

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