あるバーテンダーとある保安隊員の話

街角の小さなバー。と言っても、店長さんの知り合いとかがいつも気軽にやってきて、時々暴れて帰るのでおしゃれだとかそういうのはない。そこがなんとなく好きでここにいる。
「歩さんこんばんは!」
今日もなかなかに賑やかな中、1人の女性がまっすぐカウンターへやってきた。
「いらっしゃいませ秋月さん」
歩はにこやかに秋月を迎えた。
「いつものやつお願いします」
「今日もおつかれさま」
いつものやつを用意しながら、彼女の愚痴が溢れ出す合図となるセリフを言う。
「今日も、疲れちゃいました…」
なんとも言えないような表情からは、昼間大立ち回りをしている姿など想像できない。
「准尉は相変わらずあんな調子だし、千さんは報告書後回しにしてるし…」
「それは困るね」
気のせいか制服も少しくたびれて見える。話を聞きながら、カウンターを出て彼女の隣に座った。
「そうなんですよーいつもは夏目さんが急かしてくださるんですけど、今は槻くんのことで手一杯で…」
秋月さんは兄さんの同僚。それでここを知ったらしい。兄さんいい仕事してくれたと思う。
「あの人同時に2つのことできないもんね〜」
「夏目さんを責めてるわけじゃないんですよ!」
俺が笑うと秋月さんは慌てた。
「わかってるよ、大丈夫」
彼女表情が豊かだから、それも疲れる原因になってるんじゃないかな?
「准尉がちゃんと仕事をしてくれさえすれば…」
愚痴が尽きることはない。酔っ払いの喧嘩の仲裁からいわゆる犯罪組織の一掃まで少人数でするんだから、これぐらいは許されていいんじゃないかな。今日の愚痴はいつもより長くなりそうだ。ここ最近長くなることが多いから、だいぶお疲れなんだろう。
ストレスのはけ口くらいにはなれているといいな。彼女の愚痴を聞きつつ夜は更けていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?