ある保安隊員とある元男子高校生の話

「お前さんなんで保安隊に入ったんだい?」
突然発した問いに、侑人はえっ、と小さく洩らした。こんなことを聞かれるとは思っていなかったらしい。
「いや、ちょっと聞きたくなってね」
「保安隊に入った理由、ですか」
彼は質問を確かめて俺から視線を逸らし、空中を見つめた。それが彼の考えるときの癖であると、この前はじめて知った。
「最初、千堂さんや仙崎さんにお世話になって…病院や児童養護施設の方々にも、すごくお世話になりした。それで、図々しいですけど、少しでも恩返ししたいな、と思って。自分には、するならこうやって目に見える形でやるのが一番合ってると思ったんです」
ひとつひとつ言葉を選ぶように紡いでいく。
「あと、保安隊に入れば、この街のこととかもっと知れるかな、っていうのも」
なぜだろうか、彼ははにかんだ。
「なるほどねえ」
「…あの、どうして突然…」
ちらっと横目で彼を見る。
「ん?あぁ、人間って二枚の写真どちらかを選んでボタンを押せって言われたときに、ボタンを押してからその写真を選んだ理由を考えてるとかどうとかいう実験の話を聞いてね。侑ちゃんの選択も、その話に当てはまるのかなって気になったのさ」
そうだったんですか、と苦笑いだ。自分の話も当てはまるかも、と思ったのかもしれない。
「後付けでもそうやって答えられるなら、ここでも頑張れるだろうよ。大丈夫さ」

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