ある女子高生の話

もー、知らなかったよ、好きな人がいたなんて。しかもその人が私と同じクラスの人だったなんて。好きな人に名前を呼ばれて、いままで見たことないくらい幸せそうな笑顔で振り返ってた。そのあと手を繋いで校門へ向かって行った。もしかしなくても、付き合ってるのかな。ぎゅっと胸が締めつけられて何かがこみ上げてきた。私は弓道場が見える、グラウンドのほうへ走ってきた。もう誰もいないから。
グラウンドの隅っこで、マフラーで顔を目の下の辺りまで隠して、膝を抱えるようにしてしゃがんだ。
「終わっちゃったなー…」
好きになって半年。相手にちゃんと気持ちを伝えないうちに終わってしまった。気づかれてもいないだろうし。だって誰にも言ってないもん。勝手に好きになって、失恋して。私にとってはほろ苦い。
ムードメーカーで色んな人と仲良くなれて、かっこいいというよりかわいくて、兄よりも背が高くて。
彼が練習しているのを少し覗いたとき、鳥肌が立った。見たことのない彼がいた。弓を引いて真剣に的を見つめている姿が、すごく、かっこよかった。
「もーーー!」
かっこいいのが悪い。そうだそうだ、かっこいいのが悪い。好きになっちゃう私も悪い。マフラーがあってよかった。今日は少し遅めの電車で帰ろう。寒いけど兄ちゃんズと出くわすよりはマシ。
「……大好きでした」
ぽつりと呟いてみたら、また涙がこみ上げてきた。
あなたのことが、大好きでした。

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