ある男子高校生の話

生暖かい風が頬を撫でていく。太陽に熱せられたコンクリートに暖められた空気がこちらにやってくるわけで、この駅のホームまでの道のりを一生懸命やってきた僕は精一杯抗議の声をあげたくなる。
「暑いねー圭くん」
突然左上の方から声が降ってきた。
「槻先輩いつの間に!」
思わず仰け反った。
「ちょうど今来たところだよ」
「わからなかった…」
槻先輩はふわふわ笑っていた。暑いと言っていたが、全然暑くなさそうに見える。
「だろうね、足音しないようにしてたからね」
まるでいたずらっ子のように喜んだ。
「今、生物の授業で動物の行動のところやってるんだけどさ」
いきなり話題が変わる。
「先生が『人間は大脳皮質が発達しすぎて』って何回も言うんだよね」
「大脳皮質…ですか?」
正直言って大脳皮質がどの部分なのかよく分からない。…皮?大脳の皮?
「そうそう、あのくしゃくしゃになってるところ」
先輩は手で何かをくしゃくしゃにするジェスチャーをする。
「発達しすぎてるから考えすぎて、動けなくなっちゃう人もいるんだって」
そういう人よく知ってます。
「それって侑ちゃんじゃないですか?」
「あはは!ほんとだ、侑人だね」
とてもおかしかったらしい。先輩と侑ちゃん足して2で割ったらちょうどいいと思うんだよなあ。そうしても身長は高いままだしなあ。ちょっとでいいから身長くれないかなあ。
「だから発達するっていいことばっかりじゃないんだなーって思って」
「そうですねえ。それって反作用みたいなもんなんですかね」
作用と反作用。たしかそんなものがあった気がする。
「そっか、発達するって自然の常識へ作用するってことだもんね」
言いながらうんうん、と確かめるように頷く。先輩が完全に自分の世界に入ってしまった。
「んー…僕にはちょっと難しいです」
気づかないうちに、涼しい風が吹いていた。

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