ある双子の兄の話

「これで撃て」
そいつらはひどく訛っていた。よくドラマや映画で見るような銃を渡された。詳しい名前は分からない。
「倫、だめ、撃たないで!!」
弟の泣き叫ぶ声がガンガン頭に響く。撃たないで殺されるのはお前だろ、分かってるのか。俺が撃たなければ…
「早く撃て、撃ちなさい」
父の声がズンと重く響く。父は落ち着いていた。隣にいる母も同じだった。
父と母の最期の願いを聞くか、弟の最期の願いを聞くか。ここで引き金を引いて後悔するか、引かずに後悔するか。生きながら死んでいるような、そんな。
心臓がいままでにないくらい早く打ち、血の気が引いた。それでも銃を構えた。

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