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半径五センチメートル

悲しい。理由はわかっている。今日、4時に起きた。午後の。ヤバ!!!今日平日だというのに!まあ、色々とまずいと思うけど生死に関わるレベルではないからまだいいや。今はただ心情が最悪だ。何かがあったわけでもなく、日が出ている時間の大半を無為に費やしてしまったことに対する後悔がずっと胸のうちに住んでいる。

先週の日曜日も、ちょうどこういう感じで4時まで起きてた。明日平日なのに。その時はさらに悪いことに、天気は快晴で、カーテン越しにさす陽の光を目に入れながら眠っていたせいで全く眠れた気がしなかった。
まだ重い瞼を擦って、ふと自分の下敷きになってるスマホを手に取りTwitterを見る。スマホは僕の体温に熱せられて少し熱かった。

タイムラインを見ると、僕のフレンドは休日を謳歌している。
あるひとは大規模なオフ会に参加していた。規模が大きいと言っても僕の知るフレンドはその人ただ一人だけど、かれのRTやいいねや、そこに映ったひとのRTやいいねやを見てると、めちゃくちゃ楽しそうだというのが伝わってきた。

また他方を見渡すと、あるひとは服飾の抽選モデルに当選してたり、あるひとは自身の新しい服をBoothに出したり、はたまたオシャレにナポリタンの写真を載せたりしている。

…怖い。たまらなく怖い。泣いてしまいそうだ。僕は恐れおののいて布団の中に体全体を埋めたくなったけれど、誰にも襲われるわけではないというのがわかっていたからそうしなかった。僕はちょっとした当たり前の事実が怖かった。彼らは、僕がそこに存在することなしに、楽しいことができるという事実がたまらなく残酷で恐ろしい。
何を勝手なことを言っているんだ。僕は誰だ?

あんまりじゃないかって思う。別に、彼ら彼女らに、休日にわざわざ4時まで布団にこもってろと言いたいわけでもないし、楽しいことはただ楽しく過ごしてもらったらいいと思う。でも、その人たちが、タピオカを食べてる時にもマルチレゾリューションでノーマルマップをベイクしてる時にも、その時に僕の名前は、彼らの頭には一切出てこないんだなあって思うと、ちょっと自分の存在にちょっと疑問を抱いてしまう。

内心では、僕の好きなフレンドの頭には常に僕の影が漂ってほしいと思ってる。行くところ見るところ全ては僕の紹介したところであってほしいし、そうでなくても、花屋に行けば「あのガーベラはねこトーさん似合いそうだな」とか、本屋に行けば「この本のタイトル、ねこトーさん好きそうだな」とか考えてほしい。
だれかれにそう思ってもらいたいんじゃなくて、それくらいに僕のことを思う人が、この世のどこかには、存在していてほしい。常に僕の存在を心に書き留めてくれる誰かがね。具体的に誰か、多分、僕を知る人物、僕が知る人物の中には、きっと存在しない。だから、そのことに気付かされるたびに、いつもちょっと落胆する。
仮に存在してても、それを受け止めるだけの器が僕にはないから、怖くなって逃げてしまうと思う。

頭の中のおせっかいなカウンセラーが、こうして文章を書いてる時にも絶えず語りかけてくる。やれそれは危ない兆候だと、他人を自分の存在理由にしちゃダメだと、そもそも自分の恐怖とか不機嫌とかで他人をコントロールしちゃダメだと。
うるせえよ!!お前は俺のなんだ、ちょっと斜に構えた態度を生まれつき持っただけでさも自分は他者を俯瞰的に見れます上位存在ですとばかりに振る舞いやがって

こんな心情を公開したところで、めんどくさい人だと思われて終わりだってわかってる。僕を知る人がこのノートを見て「あー、ねこトーの前では休日あった話しないでおこー」なんて思われたら僕は終わりだ。それでもどうしてまだ書いてるんだろう。
何と何によるものかもわからない妙な葛藤が僕の体を真っ二つに裂こうとしてる。

そもそも存在とか存在しないとか、そういうもの抜きに怖いものは怖いんだ。
普段VRCで遊んでる時でさえ、僕が先にVR落とした後に、ソーシャルをみて、まだそのインスタンスが維持されてたら、どんな会話してるんだろうって不安になる。
僕が落ちた後に撮られた写真とか動画や起こったエピソードを見聞きしてると僕がいない方がきみたち楽しそうだなあ?!って思うことが頻繁にある。

でもまさか、それでじゃあ写真撮らないで欲しいですとか、僕が寝たらキミたちも同じように寝て欲しいです、僕が起きてる限りは一緒にいてほしいですとか、言えるわけがない。言ったとしても、思い上がった人だなあと思われて、人によっては多少説教してきて、それで終わりだと思う。

願ったことは叶わない。そこに合理性がなく、まして利己的なものであれば叶えられるべきではない。

僕には親戚がいたんよ。同い年のいとこね。家が同じだからたまに気が向いた時にふらっとそいつ部屋に入ったりしてるんだけどさ。ある日そいつの部屋に行ってみたら、泣いてたのよ。すげー泣いてた。いや涙は出てなかったんだけど枕に顔埋めて叫びまくっててさ。何があったん?!って聞いてみたら、どうも友達に彼女がいたらしくて、ずっとそれ妬んでるだって。え、お前そういうのだったんって聞いたら、それはそれで違うらしい。

ふーん。”いた”ってことは、前まで知らされてなかったん?いや知らされてた。僕もふーんと思って聞いてたけど、実物を目にしたら脳を破壊された。そんなことあるんだ,,,。だってそいつらすげえイチャコラしてたんだよ!膝の上に乗って見つめあってさ!!!あいつが、まさかそんなことを他人にするなんて、僕はみたことがなかった!

えぇ…カフェとかでそれやってた…ってコト…?だいぶバカップルじゃない?まあまあ、別に彼女がいたっていいじゃん。お前とは普通にまだ友達なんだろ。友達と彼女って別物だよ。みんなそういうんだよ!でも違うじゃん!友達の一番は僕自身であってほしいというのに彼女がいるだけでその序列が崩れる!いやお前めんどくさいな…。

はあ…そんなにくるしいならもういっそ関わんなかったらいいじゃん。だからそうしたんだよ!あからさまじゃなくてさ、遊びに誘われたら、ああちょっと忙しいかな〜って感じでずっと断ってたらさ、怪しまれて聞かれたんだよ。お前俺んこと避けてないかって。なんか俺やっちゃったのか?って。それ以降すーごい気遣われて参ってるんだよ!

そりゃそうなるだろ。相手からすりゃなんでもないんだからさ。本当にいい人だったんだよ…僕がこのゲーム気になってる〜とか話したら、真っ先に一緒に買って遊んでくれてさ。僕のずっと前に話したことさえもよく覚えていてくれてて!僕は本当に、本当にいい友だちを持ったと思ったんだよ!!まるでもうこの世にいないですみたいな言い方じゃん。それはもう相手に失礼よ。

それで昨日その人に会いに行ったらさあ!その人は彼女と一緒にいてた。なんか、オフ会するとかしないとかの話しててさ…いつ会うとか会わないとかの話しててさ…。オ、オフ?うん?
あああぁぁぁあ!!あー…また叫び出しちゃった。いやでもなあ…。あ、そうだ。俺前にお前とよく似たシチュエーション見たわ。え、なに

高校の時に友達がさ、6年くらい片想いしてる人がいる〜って話してて。えーだれだれーって聞いたら、丸々さんって答えてたんよ。で、その場に居合わせたその丸々さんと仲のいい女の子がさ、え、丸々さんって一年くらいの彼氏いなかったっけって、ぽろっと言っちゃってさ。

そしたらもう大惨事よ。そいつはもうちょうどお前みたいな感じにあーって嘆いてさ。挙句に現実を受け入れられないから丸々さん本人に直接聞いてたんだよ。「突然でごめん、丸々さんって彼氏いるの?」って。あいつのスマホ見せてもらったら、それが丸々さんとの初LINEっぽくてさ。本当に片想いしてる”だけ”だったんだな…って哀れに思っちゃったんだけど、その後の丸々さんからの返事、元気よく「いるよ!」って答えてて、彼のピュアハートを八つ裂きにしてさ。その後の彼の落胆具合と言ったら…。

普段から変な方向にナイーブな奴だったんだけど、その日はもう雰囲気が違ってた。目を見ても目の焦点が合わないし、何かをずっとブツクサ言ってるの。こわ!と思ってゆさぶって見たんだけど、そしたらあいつ、突然僕のポケットに手突っ込んで手拭いを取り出してさ。手拭いっていうのかな?ハンカチのちょっと長いバージョンのやつね。それをおでこにバンダナのように巻いてさ、上着を脱いでさながら三島由紀夫みたいな感じの格好になってから、教室の床のあっちこちを縦横無尽の転げ回ってた。埃かぶってきたねえ。手拭い返せ。

そうそう、その後丸々さんのインスタのストーリーを、さっきぽろっと漏らした女の子から見せてもらったんだけどさ。ちょうど今から数えると二週間前かな?まあ僕が見たときでは昨日だったんだけど、そのストーリーに1st anniversaryって文字と一緒に丸々さんと彼氏のツーショット載せててさ。その彼氏、ちょっと日に焼けてて高身長でさ。髪を金髪に染めて、刈り上げてて。なんか怪しいラップ系の曲好きそうな人だった。
彼はそれを見て、より発狂した。確かにめちゃくちゃ気の毒なんだけど、普段の性格から想像がつかない行動に出てるのが面白くて、だいぶ笑っちゃった。多分Pixivに漫画として投稿されてたらNTRってタグがつけられてたと思う。実際はNTRじゃないけど。

まあとにかくなんか、お前と似てる。別にお前は失恋したわけでもないし色々違うとお思うけど、似てる。そこに至るまでの経緯とか、その後の立ち振る舞いとか。
え、そうなん。僕、あと一歩間違えたらお笑い種なん?たぶんな。えー…。だいぶいやかも。うん。それがいやなら、まあ。元気だしなよ。

そういえば、お前誰なん。僕に同い年のいとこは一人しかいないし、その人は車で2時間の場所にいるぞ。いやだなあ。いつも一緒にいたじゃん。きみは、きみの目では僕の顔を見れないけどね。

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