良アニメOP『アンデッドアンラック』

 アンデッドアンラックのOPが非常によかった。
 あまりによかったため3時間くらいずっと見ていたら、いくらか気づいたことがあったので書いておく。

 このOPはアニメのOPと言うよりも、ほとんど楽曲のPVになっている。
 アニメのOPとして曲のPVになってしまっていいのか、の是非はここでは論じないが、PVにすることによる利点はいくつか挙げられる。


音ハメの効果

 まず楽曲のリズム・テンポとアニメーションを合致させること(以下音ハメと呼称)で、単純に見ていて気持ちがいい。逆に言えば、音と絵が合っていないと違和感を感じてしまうだろう。
 またそれ以外にも、アニメにおけるワンカットあたりの提示時間がフレーム単位で決まる利点がある。
 アンデラの曲では10秒で15拍ほどだったため、1拍あたりの時間はおよそ2/3秒=0.66秒、すなわち24fps換算で16フレームである。このフレームを基本単位として、その倍数をアニメーションの提示時間として具体的に決めることができる。

 提示時間が決まることで、アニメーションの動作速度の目安がある程度定まる。ここで動作速度とは、動きの速さのことをいう。
 一般に映像が提示されてから、人間が認識・反応できるまでの時間はほぼ決まっている。したがって映像を提示するべき時間の長さには下限が存在することになる。
 同時に、動き(動作あるいはモーション)があまりに速いとやはり認識・反応することができない(見えないか、あるいはカクカクして見える)ため、動作速度にも提示時間と同様に下限が存在する。ただし静止しているものと動いているものの認識難度は異なるため、静止映像の提示時間ほど具体的に決まるわけではない。また、情報量が多い(≒注目すべき点が多い)映像も認識が難しいことも付け加えておく。
 0.66秒という短い時間に提示される映像としては、動作が速すぎないこと、情報量が多すぎないことが重要となる。

 アンデラのOPではこの「速すぎない、(情報量が)多すぎない」がほぼ守られている。サビの一部に速すぎる部分がある(歌詞でいう「どっか期待している」の部分はワチャワチャしてよくわからない)が、他に何が描いてあるか判然としない、というカットはほぼ存在しない。偉い

 特に前半のカットは動作がかなりゆっくりしており見やすい。開幕の裸の兄ちゃんに至っては息を吸っていることがわかる。首や背が微妙に反り、肋骨が動いて肺が膨らむ様がわかるのだ。凡百のアニメならわざわざこんな風に動かすことはしないだろう。偉い

息を吸う裸の兄ちゃん

何を描くべきか

 アンデラのOPで提示される映像には歌詞をそのまま描いたものがある。分かりやすいのは「ロウソクのように固まる血のワルツ」「つなげてない手がこんなにあるのにな」「矢のように去っては過ぎてく季節」の部分だろう。

ロウソクのように固まる血のワルツ
つなげてない手がこんなに
矢のように去っては過ぎてく季節

 OPアニメーションとして何を描けばいいのか、何を描くべきなのか、という問題は実際難しいように思う。
 しかし例えばアニメのOPでは、ウユニ塩湖をたびたび見かける(”アニメ op ウユニ塩湖”で検索すれば沢山出てくる)。しかしウユニ塩湖に一体何の意味があるのだろうか? 正直アニメに対しても曲に対しても、さしたる意味があるとは思えない。
 ウユニ塩湖に比べれば、歌詞から得たインスピレーションをそのままアニメにするという手法は、少なくとも何を表現しているか明確なだけマシに思える。
 むしろ音ハメといい映像といい(付け加えれば色調も)、ここまで曲に合っていることを思えば、曲に対するやり込みを感じる。それにアニメは現実に存在しないものも比較的容易に描けるのだから、媒体の利点を生かすという意味ではこうした表現に積極的に挑戦する方が攻めた姿勢と言えるのではないだろうか。
 もちろん挑戦すれば失敗もあるだろうが、惰性でウユニ塩湖を擦るよりははるかに称賛すべき姿勢だろう。

 アンデラに関して言えば、特に「矢のように去っては過ぎてく季節」のアニメーションは優れていると思う。前述のゆっくりした動作速度やOP全体の雰囲気(色調)を考慮すれば、時間の経過を表現するアイデアとしては「なるほど」と感心するものがある。
 一番思いつきやすい表現は太陽と月をぐるぐる回すことだろうが、ゆっくり動かすには向かないし、比較的暗い雰囲気のOPアニメで昼夜の明暗を繰り返すのは下策のように思える。月を並べてゆっくり回し、樹木の結実と鳥によって表現するのはいいアイデアだと思う。

おわり

 ほとんど曲のPVということで利点を挙げてきたが、このPV手法の問題はリズム・テンポと歌詞のアニメ化という点で曲に依存する部分が大きいことである。
 ただ、アニメーターが曲をやり込めば(曲を作るバンドなりアーティストなりが原作をやり込めばもっといいだろう)、ここで書いたような効果が得られ、結果的にカッコイイOPが出来上がるのではないかと思う。
 アンデラOPスタッフには、いいものを見せてくれたことに感謝を伝えたい気持ちである。

おまけ

 細かい部分ではタイトルロゴの提示がある。

はじめに提示されるタイトル
最後に提示されるタイトル

 公式のタイトルロゴは後者であるが、少々コミカルでOPの雰囲気に合っているとは言い難い。最初に雰囲気に合わせたシンプルなタイトルを入れ、公式のタイトルを最後に提示する、というのは細かいがいい仕事だと思う。
 今回を期に色々なアニメのOPを見直したが、タイトルロゴが雰囲気と合っていなくて残念なOPはかなりあった。

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