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【競馬】手前変換が競走能力に与える影響

皆さんは「手前変換」をご存じでしょうか?
JRAの公式HPにある用語集を確認してみると以下のように書いてあります。

<手前とは>
馬が走るとき、右前肢を左前肢より常に前に出して走ることを右手前という。これは後肢を大きく踏み込んで大地を蹴るための推進作用からくる歩法で、左前肢の場合も同じ。
参考:JRA 競馬用語辞典(https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w40.html)

もう少しわかりやすく言うと、馬は走るときどちらかの手前で走っています。

画像1

上の画像は右手前で走っている馬の写真です。
このように、最後に着地する前脚側を先頭に「右手前」「左手前」といいます。

片方の手前のまま走っていると疲労が蓄積するため
最後の直線ではしっかりと手前を変えて走ることが良しとされます。

実際、2020年チャンピオンズCのレース後のコメントを見てみると。

10着 エアアルマス(松山弘平騎手)
「 -中略- リズム良く運べて、砂も被らずに行けたのですが、手前を中々替えませんでした。


また、5着になったモズアスコット横山武史騎手も

5着 モズアスコット(横山武史騎手)
「-中略- 手前を替えるのが苦手でしたが、今日はスムーズに替えてくれて、この馬の力を発揮することができました」

と、手前変換についてコメントしています。
どうやら、手前変換は競走馬の能力に影響しそうだということがわかりました。

しかし手前変換がどの程度、競走能力に影響しているのかデータとしてみたことはありませんでした。

そこで今回は2021年1月1日~12月31日までの1年間、障害レースを除く3,329レースに出走した46,168頭の手前変換を調べ解析しました。

目的:直線での逆手前は競走能力へどの程度影響するのか。
集計期間:2021年1月1日~2021年12月31日
集計頭数:46,168頭(3,329レース)
逆手前の定義:右回り→右手前、左回り→左手前
集計対象:4角出口からゴール板の100m手前まで逆手前の馬


1, 直線逆手前の割合

まずは出走馬のうち直線で逆手前だった馬の割合を調べました。

正常手前:41,401頭
逆手前:4,767頭

出走馬中、直線で逆手前だった馬は46,168頭中、4,767頭。
逆手前率は10.3%でした。

以前、公開した4カ月間のデータは逆手前率10.2%だったため、1年集計しても同じ値に収束しました。実際に目で見ての判断のため多少のズレはあるかと思いますが、数値を見る限りではおおむね間違っていないと思います。

ただしこれは全レースで集計したデータであり、どのレース条件においてもこのくらいの割合で逆手前の馬がいるわけではありません。
そこで逆手前の前知識を深めるべく、条件別で集計してみます。


まずは芝、ダート別の逆手前率


正常手前:21,256頭
逆手前:706頭
率:3.2%
ダート
正常手前:20,145頭
逆手前:4,061頭
率:20.2%


ダートのほうが逆手前の馬が多いことが分かりました。
はじめに例として出したチャンピオンズCもダートコース。
ダート馬のほうが手前変換が苦手な馬が多いのかもしれません。

次に距離別です。こちらは芝、ダートに分けたのち、距離別で集計しました。

画像① 芝の距離別

画像② ダートの距離別

芝コースはサンプルも少ないため傾向がよみにくいですが
少なくともダートは距離が短いほど逆手前の馬が多いことがわかります。

芝よりもダートのほうが逆手前の馬が多いこと
また、短い距離で逆手前の馬が多いことを考えると
前半から飛ばして消耗戦になると手前の変換がしにくいのかもしれません。

それでは、次の章では逆手前が競走能力にどのような影響を与えているか調べていきます。


2, 逆手前の回収率

では、次に逆手前が競走能力に影響しているか、もう少し詳しく見てみます。
まずは着度数と回収率です。

画像③ 全 逆手前の成績

見ての通り、逆手前の馬は勝率、回収率ともに悪くなっていることがわかります。

しかし平均人気を見てみると正常手前が7.7人気に対し、逆手前の馬は7.8人気と、サンプル間の人気に差があることがわかります。。

このように、抽出したサンプルの人気が異なる場合、解釈に気を付けなければいけないのが回収率。

一般的に単勝オッズの高い馬は過剰人気している傾向にあり、特に40倍を超えたあたりから単勝回収率は平均の80%を下回ってきます。
逆手前のほうが人気のない馬を抽出しているということは、それだけで回収率を下げている原因になりうるのです。

画像④ 単勝オッズの推移

降格ローテ-激走の9割は順当である-より引用:https://amzn.to/3rWRgic

というわけで今回は単勝オッズを40倍以下の馬に絞り、抽出するサンプルの回収率に偏りがないようにしました。
その結果が以下になります。

画像⑤ 単40倍以下の全レース

この結果から、直線において逆手前であることは競走能力に悪い影響を与えていることが示唆されました。

やはり、騎手コメントにもありましたように、直線では手前を変換したほうが能力を発揮できるようですね。

また、同様にこちらも芝、ダートで分けてみると、どちらも回収率が悪くなっていることがわかります。

画像⑥ 単40以下 芝ダ


特に芝コースは複勝回収率ベースでも悪くなっています。サンプルが少ないので断言はできませんが、やはり正常手前の割合が多い芝コースにおいて逆手前で走ってしまうことは、相対的に悪いパフォーマンスになってしまうことが想像されます。

以上より、直線において逆手前で走ることは回収率が悪くなることから、競走馬に悪い影響を与えている(もしくは何か体調が悪い時などに、逆手前になる)可能性があることがわかりました。

ということは、逆手前で走った馬の次走は狙い目になるのでは?という仮説が思いつきます。

直線で前が壁!になったのと同じように、逆手前では通常の能力を発揮できていないと考えられるためです。

では、次の章で前走逆手前の馬の成績を見てみます。


3, 前走で逆手前の馬

論より証拠。というわけで、早速ですが前走で逆手前だった馬の次走成績を集計しました。

画像⑦ 逆手前 前走

結果を見ると、芝、ダートともに複勝回収率は平均の80%に収束したものの、単勝回収率は大きく下がっていることがわかります。

つまり、前走で逆手前になっていた馬の次走は、少なくとも狙い目にはならない。むしろ、勝ち切るという観点で言えば、買わないほうがいいという結論になります。

ではなぜ、前走で逆手前の馬は次走も狙い馬にならないのか。
考えた結果、次の2点が仮説として思いつきました。

①前走逆手前の馬は、次走も逆手前になりやすい。そのため、巻き返しは見込めない。
②逆手前はその馬のパフォーマンスが下がっていく合図である。

まず①ですが、逆手前の馬は基本的にいつも逆手前になってしまう馬が多いのではないかと考えました。特にダートは逆手前の馬が多いため、そういった馬が多くいても不思議ではありません。

実際にしらべてみると、前走逆手前だった馬で、次走も逆手前だった馬の割合はダートで36.1%、芝では15.4%でした。
そもそも逆手前の馬は全体の10.3%であることからも、いかに逆手前のリピート率が高いかがわかります。

また、単勝回収率のみがマイナスということは、おそらく前走逆手前の馬は最後が甘く、勝ち切れない馬ということになります。

つまり2,3着には来るため毎回人気はするけど勝ち切れない・・・・そのため、単勝回収率が下がっている可能性が考えられます。

思い返してみると、毎回すごい脚で追い込むも最後は止まってしまい2着が多い馬として“ウェスタールンド”がいます。
この馬もまた手前変換が下手な馬で、毎回逆手前で走っていました。こういった馬が多いことから、単勝回収率が低くなっているのかもしれません。


次に仮説②。
自分は馬体派でもないし、馬の騎乗経験もないため憶測ですが、サラブレッドは年齢を重ねるごとに筋肉が硬くなると言われています。

もしかすると手前変換は可動域がやわらかい馬のほうが手前を変えやすい可能性が考えられます。もしそうであれば、ダート馬のほうが手前変換が苦手なのもなんとなく納得できるでしょう。

つまり、逆手前になるということは何らかの影響で筋肉が硬くなり、パフォーマンスが悪くなっていく際にあらわれる合図なのではないでしょうか。
であれば、次走で巻き返しは当然見込めず、回収率が悪くなるのも納得できるでしょう。


4, あとがき

AIが一般的になりつつあり、ネットで調べても(その真偽はともかくとして)たくさんの競馬AIによる予想勝率や、指数が公開されています。

競馬はまだまだ未開拓な部分もあることから、特徴量設計やモデルの部分で他より秀でた結果を出せるはずです。
ですが、そのいきつく先には他の人が持っていないデータを持っているかが鍵になります。

その一つとして始めたのが今回の手前変換の調査です。

数年後も自分が競馬で勝ち続けるために、今後もデータを集めていこうと思います。


※本記事の作成には、よう(@yousk_16)さんに集計補助を依頼しました。この場を借りてお礼申し上げます。

【ようさんからのコメント】
まずは記事を読んでくださった皆さん。そして、依頼してくださった、とうけいばさんにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
この手前交換を確認するためには何度も映像を見ていく必要があり、それはもちろん楽なことではありませんでした。
ただ、その作業を続けられた根底には「競馬が好きで、もっと馬を知りたい」という気持ちがあったから続けることが出来ました。
この気持ちを忘れずにこれからも競馬を続けていきたいと思います。
本当にありがとうございました。

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