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「普通に読める人」と「読めない人」

英語長文問題集の問題点を指摘し,その代替案を示す記事のつもりで書き始めましたが,書いているうちに「読むとは何か」のような話になりました。現時点での「正解」にたどり着くまでの紆余曲折を語っています。


はじめに思い出話を

15年以上前のことです。予備校でひとりの生徒が英語長文の問題集を持ってきてこう言いました。

解説に「第3段落・第5文に……とあるから正解は(ア)」って書いてあるんですけど,どうしてこの文を見たら解けるってわかるんですか?

最初は質問の意味がよくわからなかったのですが,話を続けていると,要はこういうことだとわかりました。

どうやったら正解の根拠になる文を発見できるのですか?

当時の私は(え,普通に読んだらわかるじゃん……)と思ってしまいました。現代文とは違って難しい設問なんてほとんどなくて,1文1文を正確に読解できていれば,つまり各文の「主語・述語の関係」と「修飾語・被修飾語の関係」を把握できれば英語の長文問題なんて自然に解ける……こんなふうに考えていました。我ながら愚かでした。

徹底研究「正解の根拠になる文」

この「普通に読む」ことができない人が世の中にはたくさんいるという事実を,私は英語を教えるようになってはじめて知りました。そう言えば最近,プロ奢ラレヤーさんがこんなツイートをしていましたね。

あの頃の私は「正解の根拠になる文」に何か共通点があるのでは……と考え,問題集や過去問を徹底的に研究しました。その結果,次のような仮説を立てました。

「正解の根拠になる文」≒「トピック・センテンス(キー・センテンス)」

各パラグラフの「トピック・センテンス(キー・センテンス)」を発見できればかなり多くの問題で正解できるというのが,まだ髪の毛があった時代の私の「発見」でした(今はそうでもないと考えています。後述)。では,そのトピック・センテンスの発見法は……普通に読めばわかる!

ふりだしに戻ってしまいました。

パラグラフ系英語学参を読み込んでみた

何冊か読んでみましたが,役に立ちそうなものはあまりありませんでした。数少ない例外的な存在が野村武士『パラグラフ・リーディングナビ 英文はこう読む』(日栄社)です。

この本では「トピック・センテンス(キー・センテンス)」のことを「主題文」と呼んでいて,これを次のように定義しています。

主題文一番言いたいこと,つまり,結論を述べる文。1つのパラグラフには,「言いたいこと」は1つしかありません。

p.10

これに続くページでは主題文の発見法を詳しく解説していますが,これをすべて頭に入れて,さらに自力で運用するのは「普通には読めない人」には無理なのでは……というのが率直な感想でした。

現代文学参に救いを求めてみた

あるとき(読解の基本は現代文から学ぶべきでは?)と気付いた私は,片っ端から読み漁りました。その中で最も衝撃的だったのが中野芳樹『現代文 読解の基礎講義』(駿台文庫)でした。雷に打たれたように(これだ!)と確信しました。

中野師による「論理的文章の客観的速読法一覧(十二種)」を駆使すればトピック・センテンス(キー・センテンス)の発見がほぼ機械的に実現する……とまで思いました。

同書は現在品切(絶版)で価格が暴騰していますが,「客観的速読法一覧」は師のブログから無料で入手できます。

「客観的速読法」でトピック・センテンス(キー・センテンス)を容易に発見できるようになると当初は思っていたのですが,色々な英語長文問題で検証した結果,どうもそれほど簡単には解決しないことに気付きました。

「普通には読めない人」が「客観的速読法」を覚えて使いこなすのは簡単ではないことがひとつ。そしてもうひとつは,こちらが致命的に重要なのですが

「正解の根拠になる文」≒「トピック・センテンス(キー・センテンス)」

(この等式に当てはまらないケースが意外と多い……)という事実です。トピック・センテンスではない文を参照しないと解けない問題もあるのです。私はできるだけ解法を簡潔化しようと視野狭窄になっていました。

また,最近になって運命と呼んでもいいような本に出合いました。山口尚『難しい本を読むためには』(ちくまプリマー新書)です。

衝撃的なことが書かれていました。

キーセンテンスを見つけるためには文章全体の言いたいことをつかまねばならないが,文章全体の言いたいことをつかむにはキーセンテンスを見つけなければならず……。

p.71

各パラグラフのトピック(主題)はそのパラグラフだけでは確定せず,文章全体を把握してから読み直してはじめて確定する……。そういうことになりそうです。もちろんこれは「難しい本」に関することですが,どんな文章を読むときでも,英語長文問題を解く際,トピック・センテンスを無理に特定しなくてもいいのではないかと考えるようになりました。

今の私はどう考えているのか

最近の英語長文問題指導では次の等式を示しています。

「正解の根拠になる文」≒「気になる文」

「気になる文」は「重要な文」と呼んでいたこともありましたが,もう少し気軽に,手軽にと考えた結果,「気になる文」に落ち着きました。

(なんかここ,重要そうだな)(ここは大切かも)と思ったところに印を付けて読んでいくのです。1パラグラフの中で「気になる文」は複数存在して構いません。1文に特定する必要はないのです。

今の私は「気になる文」を的確にチェックすれば大半の問題を容易に解くことができると考えています。どんな文が「気になる文」であるのかは下の連載で示していきますので,興味をお持ちの方はぜひご覧ください。

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大手予備校英語科講師であり『世界が広がる英文読解』や『英文法基礎10題ドリル』などの著者でもある田中…

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