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短編小説

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短編小説集。 ぜんぶ一話完結。
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2022年2月の記事一覧

ベッドメイクの街

【 first half 】 視界の端から端までに満遍なく君臨する比叡山は、巨大な蛞蝓(なめくじ)によって覆い尽くされていた。辺りに充満している甘さと刺激とが混在した魔性的な香りは、どうやらこの蛞蝓が出処のようだった。 私の傍には、2年ほど前に死んだ元彼がニコニコした顔で佇んでいる。巨大な蛞蝓を指差しながら、「おで、あの蛞蝓が、すき」と囈言のように繰り返す。 見ると元彼は、目を見張るほどの大きな骨壷を抱えていた。聞いていると、どうやらその骨壷の中に、あの蛞蝓の体液を注いで