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短編小説

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短編小説集。 ぜんぶ一話完結。
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2020年2月の記事一覧

RUKO

海底でのっしり息を潜めているような、素晴らしく愉快な夜を過ごしていた。俺の全身を覆うこの倦怠感は、きっと水圧に違いない。多幸感は酸素だ。まるで魂魄がぺりぺり剥がされてゆくように、緩やかに俺の口から抜け出てゆく。 「四面楚歌なんて言葉を、楽しい飲みの席で遣っちゃいけない」 昨晩、たまたまバーで隣り合ったおじさんの言葉を思い出した。その時は俺も良い具合に酔っていて、アル中の戯言もありがたいお説教くらいには聞き入れていた。 「はあ、それじゃあなんと言ったらいいんです」 「三