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短編小説

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短編小説集。 ぜんぶ一話完結。
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2019年6月の記事一覧

アマニータ・ビスポゲリゲラ

睡眠薬は、もともと寝付きが悪いという理由から服用していたものなのだけど、酒の飲み過ぎなのか煙草の吸い過ぎなのか、はたまたそのどちらもなのか(どちらもなのかもしれない)、何にせよ最近のおれにはてんで効かなくなってしまった。 医者が言うには日に2錠が限度らしいのだが、そもそも質のいい睡眠を手に入れたいがために処方してもらった睡眠薬を、身体にわるいとか肌が荒れるとかいったくだらない理由から制限していたのでは本末転倒だと思った。別におれは多少体調を崩すくらいならば気にしないし、肌に

たけし君の学級裁判

「先生!たけし君が学校にエッチな本をもちこんでます!」 ホームルームの最中、クラスメイトの芳子ちゃんが元気よく叫んだ。その隣で、たけし君がぷるぷると震えながら座っている。滝のように流れる脂汗は、まるでシャブ中のごとくだ。 「ばっ!バカ!僕がそんな、いかがわしい本を持ってるわけがないだろう」 「たけし君、本当ですか?」担任の麻理先生が、目を細めて問いつめる。麻理先生はいつもはとても優しいのに、怒るとこわい。彼女の大柄な体型は、見るものすべてを圧倒する。優しいときの麻理先生

針供養の日

僕の右手の中指と人差し指の隙間から、大きな浅間山がみえた。 「大きな山だよな。それに少しごつごつしてて、なんだかムカムカしてくる」 「りゅうちゃん、ほら、よく見てごらんよ。浅間山はそんなにごつごつしてないよ。どちらかというと、丸っこいくらいだ。なんだかかわいくみえてくるだろ」 「ああ、本当だ。確かに丸っこい、お坊さんのあたまみたいなかたちだ。それなら僕がなでてやろう。ほら、よしよし、よしよし」 僕は遠目に見える浅間山のちょうど山頂あたりの位置で、両手をわしゃわしゃとや