[書評]エンジニアリング組織論への招待

エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング ( https://www.amazon.co.jp/dp/B079TLW41L/ )の書評です。

本自体は半年くらい前にざっと一度読んだのですが、最近また読み直したので自分が気になる部分をいくつかピックアップして紹介します。

概要

1.不確実性

エンジニアリングというのは技術的なことだけではなく、何かを実現することであるので、不安や抽象的である、わからないことがあるという不確実性の高い状態から脱却しなければいけない。
不確実性というのは、まだ決まっていないこと、はっきりとしていないこと、将来どうなるかわからないものを示します。
エンジニアリングの本質がこの不確実性の削減であることに気が付かないとより良いものを作れない。

2.コミュニケーションの不確実性

人間のコミュニケーションの不確実性は次の3つから来ている

・他社理解の不確実性:人は他人や事象を完全には理解できない
・伝達の不確実性:コミュニケーションが到達するとは限らない
・成果の不確実性:仮に理解されたとしても予想されたように行動するとは限らない

自分は他人ではないという当たり前のことはであるが、この事実から立脚してコミュニケーションの不確実性を減らして行かないと、情報の偏りを生み出し、次のような問題に発展する。

・同じ目的を持った集団でも、何かの情報を片方が人が知っていて、もう片方は知らないという情報伝達が不完全な状態となる。そして問題が起きたとき相手に悪意を感じてしまう
・自分と相手の利害が異なるとき、それぞれが合理的な行動をとっても全体として不合理な行動となってしまう

どちらも物事を成功させたいという点で一致しているにもかかわらず、コミュニケーションが不足しているがゆえに、うまく行かなくなってしまう。
このようなコミュニケーションの不確実性を減少させるための方法として「情報の透明性」がある。これは単なる情報公開ではなく、「意思決定と意思決定に関わる情報が組織内に正しく整合性を持って伝達されるように継続して努力しつつ、何かわからない決定があったとしても相手に直接聞いてみようという関係性を作ること」である。

3.メンタリング

エンジニアリング、あるいは技術力は、知識面が強調されることが多いが、実際には心理的な課題と技術的な課題は密接に関係しているものである。
開発をすすめる上で、技術だけではなく、メンタリングを進めることが、チームの成長につながる。

メンタリングのポイント

・見えていない課題に自分から気付かせる
・直接知識を与えるのではなく、自分自身で気がつけるように促す
    ・問題を解決するのは本人なので、質問を通して気付きを与え、自ら解決するように導く
    ・問題を解決してあげようというのではなく、「明確に次にすべき行動がわかるよう」ような問題に変換する
・感情が先行してしまってもその感情については理解を示しつつも、問題の本質を整理してあげる必要がある
・信頼関係の上にある程度の期待値を上乗せで調整しつつ、適切に自己効力感を持てるようなメンタリングを行う

メンタリングの効果

他人に評価された、周囲からの尊敬を集めたなどいうポジティブな結果を手に入れた人は自律的に動くことは楽しいという思考(自己効力感)が生まれる。

書評

エンジニアリングが上手くいかない理由に気づくには、普段から試行錯誤する経験則的な方法しかないとおもっていたのですが、この本に書いてあるようなポリシーを持ってやることが重要だと感じました。
なぜそうすると良いのかもしっかり理由が書かれているので、目次を読んで気になる話題があれば、このエントリだけではなく書籍を読むことをおすすめします。

話の分野がアジャイルだったり、メンタリングだったり多岐にわたるので、ちょっと一貫性がないような気がしたのですが、「組織」と「不確実性」をテーマにした本と考えればそうでもないかもしれないです。
気になる部分を重点的に落とし込んで実践できるようにし、ほかは流し見する程度がちょうどよいと思います。

以下振り返り

コミュニケーションについては割と思い当たる部分があったので、気をつけたいなと思いました。
普段から相手の言葉の真意をよく考えるようにしているのですが、思い込みもあり、なかなか他人を理解することは難しいですね。

メンタリングに関しては、実際の現場レベルでは、そもそもメンターを置いていない、置いていたとしてもメンタリングの手法が正しくなく、「良き先輩/相談役」となっているだけで、しっかりとメンターとしての役割を果たせていないのではないかと感じました。
これは、メンターとなる人にはメンタリングのやり方や意味を学ぶ機会があまりないということと、メンターとなる人もまたそのメンターから適切なメンタリングを受けていないというケースがあるのかなと思っています。
実践できている組織ではどのようにメンタリング手法を浸透させているのか気になりました。

コードレビューやペアプロには技術面だけではなく、コミュニケーションやフィードバックを通した成長につながる面もあり重要視しても良いと思います。

自律型の人材を作るには、メンターからのきめ細やかなフォローが必要なのですが、自チームではチームにJOINした人間が最初から自分から動けることを前提としてしまっている部分があり、フォローする意識に欠けていたかもしれないと自戒するきっかけを与えてくれました。
その人に期待すべき動きについて述べた上で、それができているかどうかを日常的にフィードバックをすることが大切だと思いました。
フィードバックのやり方についても細かく事例を含めて紹介されていますので、この本を読めば手助けになると思います。

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