感性的所与を生み出せる場の創造を

―「共生」と「調和」の再構築にむけて―

はじめに
 生物は生命体として環境に適応しながら生きていくための恒常性(ホメオスタシス)という機能を受動的に発達させてきた。しかし、人間だけは能動的に自然に働きかけ、物質文明に特化した特殊な人間本位の環境を構築することで身体的恒常性の進化は止まってしまったと考えてよいだろう。その結果、今回の新型コロナウイルスのパンデミックのような外因によって恒常性の質的な転換を余儀なくされた場合、破局(カタストロフィ)に繋がることになる。物質文明の先進国であるアメリカのニューヨーク等の大都市部でカタストロフィが集中していることがこのことを明確に物語っている。自然科学、科学技術を現人神と崇め、現世の御利益を受けるだけで、自然科学、科学技術に対して無知、文盲に等しい大多数の人々は、現世の神が問題解決に手をこまねいているのを目の当たりに見て、パンデミックに陥ってしまった。

□「共生」と「調和」の再構築にむけて
 我国のように、全体的に見ればこれほど豊かでバランスのとれた自然環境に恵まれた国は地球上で他には見当たらない。このような環境で、自然を八百万の神として崇め、自然との共生を基本とする農業文化が2千年以上の長きにわたって築き上げられてきた。これまで何度となく述べてきたように、文化の本質は統一的、根源的であり、文明の本質は 画一的、皮相的であるが、全てのものごと、事象にはプラスとマイナスがある。文化の本質のマイナス面は、統一的であるが故に個人の自由奔放な発想が封殺されてしまうことである。しかし、自然との調和を基本とする場合、これに合致しない個人主義は否定されてしかるべきであろう。
 ところが、敗戦によって伝統文化の足枷から解放され、自由主義、民主主義という新しいイデオロギーが導入され、わが民族はこの虜になってしまった。我国は、第二次世界大戦まで唯一アジアで西欧に支配されなかった国である。アングロサクソンは異民族を如何に支配するかというノウハウを数百年に亘って構築してきたのであるが、彼等の世界支配の野望を達成するためには、脅威となった日本民族の精神文化を根底から崩すという手立てを考えたのであろう。それは価値観を精神から物、物質への転換である。敗戦によって飢餓状態にあった我国の国民にとってアメリカからの大量の物資は実に蠱惑的な物であったであろう。かくして、西欧の物質文明の基礎である「自然科学、科学技術による人間の快適性の追求はどこまで可能か」という実験を一億人を被験者としてやらされることになったのであろう。
 昭和20年 (1945年)から今日まで75年に亘る壮大な実験の結果、自然科学、科学技術はこれを際限もなく追及していくと旧約聖書に出て来るモーロックのような怪物になり、人間ばかりか地球上の全ての生命を破滅に追い込む危険があることを知らされる結果となった。本来、自然科学による発明、発見は、豊かな感性により自然の摂理を感得し、この感性的所与に基づいてなされるべきものであろう。しかし、このような過程を経てなされたものは極めて少なく、錬金術をルーツとした現世的な野心から生まれたものがほとんどであろう。これらは現世の利害と直結したテクノロジーによって増々歪なものに変わっていくと思われる。テレビでやたらと喧伝されているサプリメント等はこの典型であろう。サントリーが宣伝している胡麻の成分の一つであるセサミンも、私達の腸内に共生している細菌の事は考えていない。胡麻をそのまま食すれば、セサミンやごま油、その他の有効成分を吸収できる上、細菌の餌も供給できるのである。これによって人体の恒常性も維持されることに多くの人々は気付いていない。
 地球レベルでの環境破壊が顕在化する中で、人間の恒常性は地球生命全ての「共生」と「調和」でしか生きる術がないと気付き始めているにもかかわらず、自然との整合性のない一部の生物工学や遺伝子工学、ハイテクによって時代遅れの科学技術に猛進している我国の現状は正に癌の末期的症状であろう。今こそ、感性、悟性および理性が渾然と一つになった叡智を集め、地球の全ての生命体が35億年かけて作り上げた「共生」と「調和」というパラダイム(枠組み)の再構築を急ぐべきではないだろうか。21世紀のためのノヴァ・パラダイムは、何も新しいものを模索する必要はないであろう。
 現代の人間、特に工業先進国にあって物質的な快楽を享受している人間にとって、テクノロジーの利便性を放棄することはほとんど不可能であろう。しかし、これを際限もなく追及して行けば己の生命ばかりでなく子孫の生命にまで危険が及ぶということを恒常性によって知らされつつある。それは、種々のアレルギー、アトピーや治療不可能な種々の膠原病の多発、抗ウイルス薬に対する強力な抗体を持つウイルスの出現という現象を通して認知し始めている。多くの人々の心は両者の間で揺れ動いているのである。
 我々は、現代の自然科学による恩恵を放棄することなく、より豊かで、尚且つ自然との共生、調和した生活を願望しているのである。この贅沢なニーズを満足させることが出来なければ、恒常性のバランスを崩してまでも快楽を追求することを止めない無明の集団によって地球の生命体は全て破滅するだろう。(続く)2020/4/16

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