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きまぐれカード紹介⑧ 孤独の影ロンリー・ウォーカー

 東京、池尻の昼下がり。

 池尻大橋駅北口から、国道246号線に沿って少し歩いたところに、今回の待ち合わせ場所はある。

「ええと、銀行を越えた次の信号を左、か」

 国道246号線、特に深い理由はないが大好きだ。なぜだかちょっとカッコいい気がする。ここはちょうど上に走っている首都高の立体交差を楽しめて、いい感じだ。

 待ち合わせのカフェは中くらいの高さのビルの1階にあった。カラン、と音を鳴らすドアを押し開けて中に入る。

「いらっしゃいませー」

「すみません、待ち合わせなんですが」

 店内を見回すと、いたいた。今回の交渉相手、絶望神サガさんだ。前もって教えられていた服装通り、青を基調としたファッションに紫のアクセント、そして目印の大きな槍を持っている。

「あら、ロンリーウォーカーさん、です?」

「ええ、どうもお待たせしてしまって……」

「いえいえ。ほら、座って」

 なかなかいい人そうで良かった。今日の商談はスムーズにいけそうだ。




「それで、ご依頼のインテリアですが。今回はゴッドシグナルタイプとオブザ雲人タイプ、この2つをご用意しておりまして」

「ロンリーウォーカーさんはどちらがいいと思います?やっぱり堅実にいったほうがいいかしら」

「私でしたらゴッドシグナルの方にすると思いますね。やっぱり今の世界は速度重視ですし、単に私が速いデッキが好きというのもあるのですが」

「じゃあゴッドシグナルタイプでいいわ。それちょうだい」

「ありがとうございます」

 なんだ、もう終わってしまった。商談はやっ。さすがは絶望神サガさんだ。速い。ありがたい。

「また何かありましたら連絡くださいね」

「ええ。また。会えましたら」




 さて、さっくり仕事は終わったけれど。


 腹が。


 減った。



 さっきのカフェでチーズトーストの匂いを嗅いだのがダメだった。俺の胃袋はもう待ってくれない。

 駅の方に戻りつつ、飲食店をサガそう。もとい探そう。天気はいいし気温も心地いい。少し歩くのにはちょうどいいな。

 おっ、寿司か。寿司、最近食べてないなあ。これは揚げ物、そしてこっちはハンバーガー、向こうに中華もあるぞ。目移りするものが多くて困るが、妥協してはいかん。注意して探そう、と。

 おや?

 この路地は何かありそうな予感が。うむ、ちょっと入って行ってみようか。




 あれ、あれあれこんな所にカードショップか。まさかね。


赤黒バイク始めました



 看板のこれ、気になるな。うーん、ここに決めてしまうか。

 思いきって入口のドアを開く。

「いらっしゃっせー」

 うおっ、まず入店1番に目に入るのは大きなショーケースだ。ずらっ、とカードが並べられている。それもデュエマだけか。デュエマ専門店とはたまげた。おったまげだ。

「お好きな席どうぞー」

 女将からおしぼりを受け取ってカウンター席の1番端に腰掛ける。店内には俺と同年代の男性が1人と子供連れ親子3人組、そして二十代くらいの女史がすでにテーブルに付いていた。

「メニューどうぞー」

「どうも」

 さてさて、この店のラインナップはいかに。


[ランチタイムメニュー]
 ・季節のデドダム定食 830円
 ・一王ニ命三湯麺   1480円
 ・サガの味噌煮定食  1480円
 ・我我我我我我我我我 1560円


 あれ、ランチだと赤黒バイクやってないのか。やられた。完全にバサラの気分だったのに。

 となると、バイクのような速さを求めるなら我我我我我我我我我か。いや、同じ速さでもまた違う味わいのサガの味噌煮も捨てがたい。

 ん?

 一王ニ命三湯麺?

 見たこともないし聞いたこともない料理だ。メニューについている写真を見るに普通のタンメンみたいだけれど……はたして?

 気になる。気になって仕方がない。これにしてみよう。


「すみません」

「はいはい、お決まりですかー」

「一王ニ命三湯麺ひとつで」

「はいっバラド・ヴィ・ナ・シューメンね。お待ちくださーい」




 向こうのお客さんが食べているの、我我我我我我我我我だな。見るだけで食欲を掻き立てる、すぐ3キルできそうな真っ赤な色。やっぱり我我我我我我我我我もよかったかな。

「はーいデドダム定食でーす」

 おっ、デドダム定食だ。ついつい目線がそっちを向いてしまう。ご飯、漬物、味噌汁と普通の和食セットのあいだに佇むは、これまた大きなデドダム。3色に彩られたデドダムは脂がよく乗っていて美味しそうだ。いまは旬じゃないのにどうしてだろうか。気になる。食うだけでリソースが回復しそうな見た目だ。

 あっちはサガの味噌煮。うわーっ、うまそう。あのサガが味噌と煮込まれることによってあんなにまろやかそうになるとは。メシに合いそうだな。めちゃくちゃ合いそう。

 さて、俺の料理は、っと。

 おっ、きたきた来ましたよ。





「はーい一王ニ命三湯麺ねーお待ちー」

【一王ニ命三湯麺】

ただの湯麺と侮るなかれ
鬼エンドが溶け出したスープは絶品!


 おおっ、これは普通の湯麺じゃないぞ。写真ではわからなかったけど、よく見ればジャオウガとカツキングとペディアがトッピングされている。ボリュームありそうだな。ショーケース脇のスリーブ売り場から割り箸をとって割る。お冷やのサイバーブレインもセルフサービスか。ストレージをちょっとあさろう。


 さて。

「いただきます」

 さて、まずはスープから。レンゲですくってズズッ。 

 あっ、これはやられた!デドダムだ。デドダムの安定感のある旨味とスープに溶け出した鬼エンドが絶妙に混ざり合ってほどよい塩気と甘さを保っている。ああ、優しい味だ。空白で満たされた俺の胃袋にするっと収まっていく。うん。うーん美味しい。

 では麺を。

 ズズズッ。

 あれ、これ普通の麺じゃないな。ちょっと太め。でもこれがスープの鬼エンドとよく絡み合って旨味が一緒に口の中に運ばれてくる。しかし麺の小麦の味も負けていないぞ。素材本来の強みと周りのアシストでなんとも言えないウマさだ。うーん。口の中に幸せが満ちていく。

 お次はトッピングのカツキング。相当厚いな。ガブりと一思いに行ってしまおう。

 うん、おおっこれは。めちゃくちゃウマい。他の食材で例えるなら大根とハバネロとさつまいもを足して2で割ったようだ。鼻から突き抜けていくシータの香り。口の中で革命チェンジが無限ループループしている。

 ちょっと多色が多めかな、と思っていたけど、これまたトッピングのフォージュンが程よく中和してくれているな。総じてとても食べやすい。攻めも守りも自由自在、完璧だ。この丼が美味さの塊。食べるほどに奥深さを感じられる楽しい一杯だ。赤黒バイクがなくて逆によかった。この一杯と巡り会えたことに感謝だ。

 麺に向かう箸の手はもう止まらない。


 ズッ、ズズッ。

 ズズズーッ。

 はふはふ。

 ズーッ。


 最後にコップのサイバーブレインをグッと飲み干す。

 大満足。最高の湯麺だった。


 「ごちそうさまでした」




「はい、お会計は1480円ね」

「じゃ1500円からで」

「はーいお釣り20円。またどうぞー」


 仕事終わりの一杯。幸せもいっぱい。ふらりと立ち寄ったこの店、ベリーグッドだ。俺の胃袋を見事ガッチリと掴んでしまった。

 さあ、また毎日頑張らないとな。





次回孤独のグルメ、調布のガソリンスタンドのアポロヌスカレー。お楽しみに。




※この作品はフィクションです。


これ書いてて気づいたんですけど、俺、「孤独のグルメ」が好きというよりは松重さんが食べてる時の浮き出る血管とか膨らんだ頬とかちょっと寄ってる眉間とかが好きなんだなあってわかりました。それだけです。

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