母と僕と

ツイッターにしろnoteにしろ、文章として残しておくと、その時の気持ちを保存しておくことが出来ると最近気が付いた。
だからツイッターにはなるべく楽しかったことだけをつぶやいていきたいし、noteには心が揺れ動いたことを中心に書いて気持ちを保存しておきたい。

と、いうことで今日は、心が揺れ動かなかったことに揺れ動いたことを保存したいと思う。

はじめまして僕です。
昆虫は文字を見るのも苦手なタイプです。

先週、母が亡くなった。

朝、仕事開始してすぐ施設から「ハハキトク」と連絡が入る。
方々へ仕事の引継ぎを済まし、レンタカーを借りて、同居人もついでに乗せて施設へ向かう。
ここ数年でびっくりするぐらい小さくなった母は、目だけを大きく開け、こっちをじっと見つめる。もうしゃべることはできないようだ。

その前の週末に見舞いに行った際に、「キンパ(韓国のおにぎり)を食べたい」と珍しくわがままを言い、ほとんど食べることが出来なくなったと聞いていたのに、「今と夜と2回にわけて食べる」なんて言いながらペロッと食べつくした母だったが、4日後にはしゃべることもできなくなっていた。

こちらから話しかけるとなんとなく反応はするが、それ以上ではない。
2時間ほど目を合わせたまま途方に暮れた後、いったん施設を離れ同居人を家に戻し、のんきに昼食を食べ、再度施設へ戻る。

キンパを頬張りながら、2週間後の誕生日までもたないと自分で言っていた。
「まぁまぁとりあえず夏まで頑張ってみなよ。さみしいじゃんね」
軽口をたたいて、なるべく現実を見ないようにして帰ってきた。
「またすぐ来るから。今度はアイスでも食うか?買ってくるな」
なんて言っていたが、手ぶらで見守るだけになった。

もう目も合わなくなった母と過ごす2時間。
回復する気配もないし、容態が変化する様子もない。
「このまま数日間もつんじゃね?うっかり回復する可能性もあるんじゃね?ちょっと前にキンパも食べてたんだし」
職員に告げ、いったん帰宅することにする。

帰宅して、仕事用パソコンの入った重いリュックを下ろし、さて一息とベッドに転がったところで施設から電話。
「いよいよダメそうです」
脱ぎ散らかした服を再び着てタバコを消し、リュックを背負いなおして3たび施設へ向かう。

施設の職員さん3人にかこまれた母。
最近のお気に入りだったらしい辛ラーメンがテーブルに飾られ、差し入れたiPadで、食べられないから音だけでもと流しっぱなしで聞いていたASMR食事動画が流しっぱなしにされるシュールな光景。
「息子さん来たよ!頑張って」
母に声をかけ、職員は退出し、僕は再度母と二人っきりになる。

思い出したように声をかけるがもう反応はない。
日が暮れた部屋の中で、もしゃもしゃと動画の音だけが響き渡る。
部屋を出て、会社に電話。
「明日からおやすみ頂くことになると思います。」
近くのコンビニで缶コーヒー買って一服して部屋に戻る。
数時間後、バカみたいにのんびりした空気の中、母を看取ることができた。

ナースコールを押し、看護師と話し、動画を止める。
医師が来るまで時間がかかるとのことで、いったん施設から離れ、会社とただ一人知っている親戚に連絡を入れ、部屋に戻る気にもならず車の運転席でぼんやり過ごす。
医師に死亡診断書を書いてもらい、葬儀屋が来るまでの間に施設の退去届を書き、長い長い一日が終わる。

翌日、葬儀屋で簡素な葬式の打ち合わせを済まし、喪服を買い、一日空いて、何していいかわかんなくてカラオケ行って肉くって騒いで過ごす。
ちょっと落ち着いてきて、心が揺れない違和感に気付く。

なんかこうドラマだったら、亡くなった瞬間に泣いて縋って、医師が横で「ご臨終です」なんて言って、厳かな雰囲気で葬式なんかやって…となりそうなものだが、現実はただただ淡々と過ぎて行く。

葬式の時にグッとなるんかな??なんて思ったが、5人だけの小さな小さなお葬式でも、「あぁ叔父は泣いてくれるんだなぁ」と冷静に一歩引いた位置から見つめていた。

どうしても「よかったじゃんね。やっとゆっくりできるじゃんね」と思ってしまう。

2回も離婚して、子ども3人もこさえたのに2人は行方知れずで、残った長男もへっぽこで結婚もしなけりゃ孫を見ることも叶わなそうで、20年以上も車椅子に乗って不便な生活して、まぁまぁダメな息子に看取られて。
そんなん、
「おつかれちゃーん」
としか声のかけようがない。
最初の旦那からDV受けてて、1秒でも離れると泣きだすバカ息子に「ママ死んじゃえば?そうしたらパパからいじめられなくなるよ」なんて言われて離婚決意して40年越しに実現して。
最初の親父はもう亡くなってるからいじめられないのにね。

幸せだったんかな?
不幸せだったんかな?
でも、看取るなんて中々ないみたいだし、最後だけはちょっとだけよかったんじゃないかな。そう思わせてもらってもよいですかね。
今、本棚に雑に置いてある遺骨は、一族郎党(そんないないけど)に大反対されそうなので、黙って希望通りに海にまきます。
墓建てる甲斐性もないし、満足に動けなかったのに、死んだ後も一か所に縛り付けられるのもイヤだろうしってことにしておくね。

あんたの産んだバカ息子は、3日と大人しくしてられない趣味見つけて、友人と呼びたくなるような人たちも何人も見つけ、やっとこ落ち着いた仕事も続け、女の子も見つけてバカやって楽しく暮らしています。
「ビッグになってやる」なんて夢語れる歳でもないし、そもそもそんな夢もないから、このまま静かに過ごしていくだろうけど、まぁまぁ下降していかないように頑張っていくよ。
謝りたいこともいっぱいあるけど、もう謝れないし謝るつもりもないし、見守ってくれなくてもいいから、海を揺蕩ってのんびり過ごしてくださいな。
今までありがとね。いってらっしゃい。

雑に見送って、雑に済ませて、後で絶対後悔すると思って、今の気持ちを栞に挟むぐらいの気持ちで書いてみた。
いつだかの未来、後悔した時に「あんときあれだけ雑だったじゃん。後悔して当たり前じゃん笑」と過去の自分に嘲笑されるといい。

でも、乱文綴って気持ちの整理がついたのか、ちょっとだけ泣くことができたじゃん。よかったね。僕。

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