僕の『夏子の酒』〜駒場寮で飲んだ日本酒の味と、1990年の和久井映見〜
私の地元九州は酒が強いというイメージがあるかもしれないが、御多分にもれず私も酒は強いほうだ。
もう時効だから告白するが、お正月やお盆に親戚一同があつまったりお祭りの時などは、子供の私にもお猪口が回ってきて少しだけだけど日本酒を飲む機会があった。
でも日本酒のイメージは酔っ払う為の道具でしかなく、甘ったるくてベトベトして変な臭いすらするあまり美味しいという飲み物ではなかった。まだ麦焼酎とか芋焼酎のほうが九州ではメジャーである。
そんな私が大学入学に際し上京して入ったのが東大駒場寮。
毎週のようにOBの先輩たちがバブルの余波で貰ったビール券で、私達にビールを振る舞ってくれた。
そんな先輩が見慣れない四合瓶の純米吟醸酒なるものを買ってきて、飲ませてくれるのだ。
世田谷区上馬にある、港屋酒店という古くから本格的な日本酒を扱っている店で購入してくるのであるが、このお酒がびっくりするほど美味しいのだ。
初めて日本酒が美味しいことを私は知った。
その先輩が愛読していた漫画が、週刊モーニングに連載されていた『夏子の酒』だった。
主人公は酒蔵の娘で酒豪の夏子。
突然酒蔵を継ぐはずだった兄が亡くなり、兄が夢見た幻の酒造好適米である「龍錦」を復活させ幻のお酒を作ることに邁進する。
しかし「龍錦」は酒造好適米とはいえ、病害虫や嵐に弱く打ち捨てられていた米であり、そういう意味で山田錦や五百万石などのメジャーな酒造好適米には敵わないと思われていたのだが、女性というハンデもはねのけ、そして夏子の蔵に農大の醸造学部を出て蔵人として働いていた青年の助けを得て、龍錦を復活させようとする。
青年との淡い恋も不器用でドキドキさせられるストーリーとなっている。
実はこの龍錦のモデルになった酒造好適米は実在する。「亀の尾」という品種がそれであり、久須美酒造が「亀の翁」として商品化に成功している。
半分ドキュメンタリー的な作品であり、それもこの作品の魅力につながっているだろう。
同時期に漫画『美味しんぼ』も、より過激な手法で大手メーカーの格安三倍増醸酒をdisり純米酒礼賛をしたこともあって、第一次の純米酒ブームを作ったと言えよう。
またこの蔵人の青年が醸造学部出身だったことも後に大きな影響を与えている。
伝統的に酒造は杜氏と呼ばれる農閑期の副業で遠くの村から出稼ぎに来ている職人が担っていたが、醸造技術が向上し大学で専門的知識を学んだものが酒造の中心となる流れもこの漫画の頃から出てきたといえる。
最近では『もやしもん』という漫画が人気を集めているが、舞台は農大の醸造学部である。
そういう意味でもこの漫画は元祖美味しい日本酒漫画の色々な要素を持っていると言えよう。
作者は最近外国人が蔵人になるタイトルも『蔵人(クロード)』という漫画を手がけており、日本酒のグローバル化も見据えた新たな目標を与えている貴重な存在である。
尚、『夏子の酒」』はその後ドラマ化され、和久井映見と荻原聖人が主演した。
その後彼らは結婚し、離婚した。って私が和久井映見ファンだっただけなんだけど。。。。あの頃の和久井映見さんは可愛かったなあ。。。。
WRITTEN by 堀江貴文
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ