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一眼レフを買って半年でASKING ALEXANDRIAを撮影することになった話

前回、このダイアリーでPOLARISの来日公演を振り返ったところ、多くの反響をいただきました。読んでくださった皆様、ありがとうございます。

手探りながら自身の好きな音楽に関わってきたこの数年間、1つの形として誰かの心に感動や喜びを残せたのなら嬉しいです。

時代が流れるように、今シーンの中にいる人やバンドにも世代交代や変化が訪れる日がくると思います。海外での取材活動やMHz FESTを手がけてきた中で、何か後の世代の人達に私なりに書き残せたらいいなと思うようになりました。
そこで、これまでの経験をちょっとずつ書いていこうかなと思います。
もし、同じように海外のバンドと一緒に働いてみたい!という人の参考の1つになれば幸いです。


英語が話せないから、で止まっていたらMHzはなかった

「英語話せないので…」
来日したバンドに話しかけたいお客さんや、同じように海外のバンドに関わる仕事をしたいという人達に言われることの多い言葉です。
「私も英語話せません」
これは本当です。話せません。今でこそそれっぽく聞こえたり理解できる言葉が増えただけで、海外に初めて行った時の私や海外で初めてPRESSの仕事をした時の私なんて、恥ずかしくて消しゴムかけたいレベルで英語が話せませんでした。海外でバンドメンバーやその周りの人達の会話に全く入れずに、悔しい思いをした事なんてごまんとあります。

完璧主義はすごくいい事だと思います、勉強する事も勿論大切な事です。
ただ、数年前に何を思ったかこの世界に英語が話せないまま飛び込んだ私は、あの時の決心がなかったらMHzFESTは勿論、様々な出来事に出逢えていなかったでしょう。失敗してもいい、学びながらやってみる、何かのスタートはそれでいいんじゃないかと思います。日本人は特に失敗を恐れ嫌う傾向があるように感じますが、その心からほんの少し視点を変えてみると世界が変わるかもしれません。


プロフェッショナルカメラを買え、話はそれからだ

海外バンドの情報が日本に届くまでタイムラグがあることや、日本盤の出ていないCDの歌詞カードには翻訳やエピソードが載っていない。こういう情報をもっと読みたい!と思った私が始めたのは海外バンドのインタビュー。

知りたい情報がないなら自分で掴めばいいじゃない!←
メールを各バンドの問い合わせアドレスや取材担当者に送り、許可が出たらインタビューの文面を送り、返事が来たら翻訳して掲載する。
もちろん、このメールもインタビューの文面も全て英語。
知らない単語やスラングも沢山で、辞書片手に格闘する毎日でした。

いくつかのバンドのインタビューをこなした後、段々とアポを取ることに慣れてきた私が次に目標とした事。

Vans Warped Tourでバンドのインタビューやライブレポートを書きたい

アメリカ全土を周り、今が旬のバンドが多く出演している夢のようなツアー。名前は知っていても、あまりその実際の内容を見聞きして記事として伝えてきた人はいないのではないか…。

Nick Majorのインタビューやレポートが大好きで、あんな風に観ることができる日本の媒体があってもいいのでは?そう思った私はWarped Tourの代表者の方にメールを送る事に。数日で返事をいただいたのですが、そのメールに書いてあったのが『プロフェッショナルカメラを必ず所持している事、それが前提だ』
インタビューやレポートを書くのにどうして一眼レフカメラが必要なのだろう…。

『個人のライターやレポーターは、一人で全てを賄わなければいけない。PRESSのグループにはそのポジションに特化した人間がいてチームとして活動するが、キミが目指しているのはそういう世界。個人であろうと同じクオリティを出せなきゃいけないし、レポートはもちろんPRESSの登録に写真/カメラは不可欠だ。やってごらん』

なるほど!とその時思った。あんなに素晴らしい媒体がある中に参加するには、それなりのものが必要。結局この年のWarped Tourにはカメラの購入も間に合わず、主催の出す条件にクリアできるほどの資料も用意できずに落選したが、翌年私は日本からWarped Tourに参加する事になる……。その話はまたいつか。


PRESSとはなんぞや?

ここに登場するPRESS(プレス)という言葉。
これは海外のフェスティバルや公演の際に撮影やレビューを作成し掲載する、いわゆる報道関係/出版関係の媒体のことである。


ある一定のレベルを超えた公演になると、このPRESSの許可を取ることが必要不可欠。海外の会場ではこのパスを持っていない人が一眼レフで撮影なんかしてたら、カメラ没収や退場もあり得るので注意しましょう!
また、パスの種類によって許可される行動が違ってくるので要注意。公演によってはPRESSスタッフとしての心得やルールが事前に配布されることも。

(いつかPRESSの取得方法をここで伝授できたらな…とも考えています)

※決して許可を取ったことを奢らずに、マナーを守って行動しましょう!
パスを取得するためチケット代がいらない事が多く、様々なことが優遇されるようにも見えますが、PRESSというパスをつけている以上、それ以上に多くの方にその行動や立ち振る舞いが見られています。
個人的にはPRESSスタッフが公演中にアルコールでグダグダになってる姿や、気に入ったバンドにべったりな姿は最悪だなと思ってます。また、公演後は期限内にレビューや写真の提出が定められている場合もあり、締切は必ず守ること。自分1人の印象が、その会社や日本人(海外に行く際には)全体の印象となってしまう事をお忘れなく。


BAD OMENSとの出会い

Her Bright Skiesというスウェーデン出身の"顔面偏差値が異常に高すぎるエモバンド"をご存知だろうか?エモ・スクリーモのブームだった10年ほど前に、GO WITH MEから日本盤のアルバムもリリースされていたバンドである。
海外バンドのインタビューをしていく中で、今彼らは何をしているのだろう…とある日ふと思い立った私は、その結成メンバーでありベーシストのJoakim(Jolly)にコンタクトを取った。彼らは日本に行ってみたい!と言っていたものの、アジアは台湾でのツアーのみだった。

『実は、Her Bright Skiesを辞めて新しいバンドをするためにアメリカに渡る事になったんだ。よかったら聴いてみてくれよ』

Jollyに言われたのはまさかの言葉。
えっ、Her Bright Skies辞めちゃうの?すごく好きだったのに。
しかし、新たなバンドのためにアメリカに渡るという同い年の彼を応援したいとその時すごく思った。

そのバンドが、のちにMHzで来日を果たす事になるBAD OMENSである。
初期のMVにJollyが映っていないのは、当時まだスウェーデンにいてアメリカのビザを取得中だったからという事情もあったそう。

お互いに新たな門出だね、そう思った私は彼の初めてのBAD OMENSとしてのツアーを取材しようと決めた。Jollyの口添えもあって、所属マネジメントの代表が快く取材の許可とパスを手配してくれる事になり、私にとってもこれが初めての公式PRESSとしての仕事となった。アルバムのリリースは初夏、デビュー作としてはなかなか話題にもなっていたように思う。


10 YEARS IN THE BLACK

この時、一眼レフカメラを購入してから5ヶ月ほど。カメラの何たるかも実はよくわかっていない私が飛び込んだツアーがこの10 YEARS IN THE BLACK TOUR。

アメリカの巨大インディーズレーベルSumerian Recordsの10周年を記念したツアーである。タイトルにもなったThe Blackは、レーベルの代表格とも言えるUKのAsking Alexandriaがこの年にリリースした作品名でもあった。


いざツアー目前になると衝撃的なAsking AlexandriaのVo.交代劇が起こり、私の参加する初日公演のシアトルはDannyの復帰後初となる公演。それまであまり知らなかったAAのあまりの人気っぷりに、とんでもない事になってきたな…と思いつつ、10月末のシアトルへと向かった。

そして元々、BAD OMENSの撮影だけのつもりで渡米した私。当日渡されたパスと説明を受けてびっくり、何と出演全バンドを撮影可能だという。そしてここで公式のPRESSというシステムがどういうものかを改めて知る事になる。会場の規模もこれまで取材で少し関わったショーとは全然違う。初めての大舞台に緊張しつつも、必死にシャッターを切っていた。BAD OMENSはもちろん、Upon A Burning Body、After The Burial、I SEE STARS、Born Of Osirisの撮影もする事ができた。レポートを書くために、写真を規定内の時間に撮った後はすぐさまPA卓前に行き、ノートとペンを取り出して必死にMCを書きとめた。

そしてトリのAsking Alexandriaも無事に撮影。その時、海外メディアに取り上げていただいた写真の1つがこちら。


カメラを始めたばかりで、RAWも分からなければPhotoshopで編集もできない、構図も滅茶苦茶。そんな私がなぜあの場所に参加できたのか。
しかも幾つかのバンドにはその時の写真を公式のSNSで使用してもらえたり、私の技術じゃ到底考えられないような出来事が沢山起きた。

偶然と、人との縁と、わざわざ海外の現場に乗り込んでいくその根性、私にあったのはそれだけだったように思う。
無謀だとか、身の程を知れ、と思う人もきっと多いだろう。普通ならありえない。だけど、実際に行動してみたからこそできた事でもある。正直、自分の写真の実力が悔しくて、帰国してから本を買って読んだり色んな人に写真のことを聞いてみたりした。

Asking Alexandriaが何故こんなにも人気なのか。バンドの格差…とまではいかないが、人気なバンドが人気たる理由、そしてその実力を目の前でまざまざと見せつけられたように思う。ツアーの回し方、ヘッドライナーとサポート、シーンの実情やファンの特徴、色々と勉強になった。

その後、10 YEARS IN THE BLACK TOURに参加していた…という肩書きができたおかげか、世界中の様々な興行の許可を得る事ができるようになる。
翌年のVans Warped TourやドイツのWacken Open Air、更にはスイスでのBreakdown of Sanityの解散ショーまで。

アジア人が参加する事自体がまだまだ珍しく、楽しいことばかりでは無いのがPRESSの現実。でも確実にこの10 YEARS IN THE BLACKへの参加がMHzのその後を変えてくれた。


この時、同ツアーのファイナルショーにも参加した私のレポートが激ロックに掲載されていますので、もしよかったら読んでいただけると嬉しいです。


『日本にいつか行ってみたい!』
この時そう話していたBAD OMENSを、まさか数年後自分が日本に招聘する事になるとは思ってもいなかった。

・英語が話せないから無理だ
・カメラ初心者だから無理だ
・海外公演に参加するなんて無理だ
・BAD OMENSの記事だけ書けばいい

……もしこの時私が少しでもそう思って諦めていたら。
何も始まりすらしていなかっただろう。


カメラを買って、手探りで自分の仲間を応援しようとしていたら、とんでもないツアーに公式で参加してしまった……、というお話でした。

私、Marinaの今後の取材や活動費、または各バンドのサポート費用に充てさせていただきます。よろしくお願いいたします!