プロセスマイニングツール「SAP Signavio」で実現するビジネスプロセスの改善

(SAP Advent Calendar 2021 の12月18日分の記事として執筆しています。)

1. 自己紹介

SAPに触れて6年目となるエンジニアです。SAPのキャリアは、SAP ECCのアドオン機能設計・開発からはじまり、その後、1年半の保守・運用を経て、SAP S/4HANAの導入やCelonis導入、テスト自動化などに携わってきています。1歳児の娘の父でもあり、日々娘の笑顔に癒されています。

社外のブログにSAPに関する記事を執筆するのは、このAdvent Calendarがはじめてです!去年はAdvent Calendarをただただ一読者として読ませていただいているだけでしたが、最近はSNSでもSAPの話題で盛り上がってきているので、その熱に押され、自分も何か書きたいと思い、今回の執筆にいたりました。

2. はじめに

本記事では、最近のホットトピックであるプロセスマイニングを活用して、どのようにビジネスプロセスの改善をしていくのかについての概要をご紹介いたします。

記事の中だけでは概要レベルでのご紹介にとどまってしまいますが、まずはこの記事を読んでいただき、「プロセスマイニングという有用なツールがあるのか!」「プロセスマイニングを活用して、こんなことができるのか!」といった感想を持っていただければと思っています。

興味を持っていただけた方は、ぜひ記事の中でも紹介されていますリンク先を参考により知識を深めていただければと思います。

3. 従来のビジネスプロセスの改善

「ビジネスプロセスの改善」と言って、どのような活動が思い浮かびますでしょうか。

業務改革プロジェクトでは、BPR(Business Process Re-engineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング=業務改革)という言葉をよく聞きます。

BPRは、SAP S/4HANA導入などのタイミングであわせて実施されることも多いかと思いますが、従来、このBPRはどのようにして行われてきたでしょうか。想像してみてください。

まずは、BFC(Business Function Chart:業務機能一覧)を集めてきて、そのうえで業務の実情を把握・分析するために社内の各部署にアンケートやヒアリングを実施し、それをExcelやPowerPointにまとめ、さらに追加でアンケートやヒアリングを実施し、といった地道な作業の繰り返しだったのではないでしょうか。

このように、多大な時間やコストをかけることが避けられませんし、属人性を完全に排除することは非常に困難です。そのため、①一覧化した業務自体に抜け漏れが発生してしまうリスクがある、②業務改善効果の定量的な計測が困難、③継続的な改善活動につなげることが困難、といった課題もあります。

4. SAPで実現するビジネスプロセスの改善

4.1 「SAP Signavio」概要

このような「従来のビジネスプロセスの改善」自体を、SAPを活用して改善することを考えてみたいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、SAPは今年3月にプロセスマイニングプラットフォームを提供するSignavio社を買収し、新しく「SAP Signavio」としてプロセスマイニングプラットフォームを提供しています。

プロセスマイニングは、主にヨーロッパで普及していますが、日本ではまだそれほど馴染みはないかもしれません。簡単に説明をすると、「SAPをはじめとした情報システムに蓄積をされたトランザクションデータをもとに、業務プロセス全体を可視化し、定量的な分析をするための手法」のことです。

以下は、O2C(Order to Cash; 受注から入金まで)という業務プロセスの一部を「SAP Signavio」によって可視化をした例です。

画像をクリックして拡大していただけると見やすいと思いますが、この業務プロセスに含まれる業務が可視化をされているだけではなく、業務間のリードタイムまでもが可視化されています。右側にはVariantsという見出しがありますが、これは「分析対象としている業務プロセスのうち、実際に発生しているプロセスのパターン」を意味しています。

Signavioデモ画面
(出典: https://www.signavio.com/s4hana-migration/)

PowerPointなどの綺麗化された業務プロセスには、主要な業務プロセスしか表現されていませんが、プロセスマイニングでは実際のトランザクションデータをもとに業務プロセスの可視化をしているので、実際に発生しているプロセスをつまびらかにすることが可能です。

もちろん、ただ業務プロセスを可視化するだけではなく、「あるべき業務プロセス」と比較をし、「逸脱した業務プロセス」をシステムで自動的に検知し、業務ユーザーに注意喚起のアラートを自動的に通知したり、不正や不正の兆候を事前に検知したりといったことも可能です。

「SAP Signavio」についてより詳しく知りたい方は、Signavio社のホームページ(Link)やSignavio社主催イベントの「BPI Tour Japan 2021」(Link)、「SAP TechEd Japan 2021」(Link)の『プロセスモデリングの高速化と継続的改善の実現を促進する SAP Signavio Process Manager』や『システムのログデータからE2Eのビジネスプロセスを見える化する SAP Signavio Process Intelligence』をご参照ください。

4.2 「SAP Signavio」によるビジネスプロセスの改善

「SAP Signavio」には、プロセスマネージャーというビジネスプロセスの文書化、モデル化、およびシミュレーションを支援する機能があります。「SAP Signavio」では、主にこの中のモデル化とシミュレーションの機能を活用し、「現状の業務プロセス」の可視化・分析をもとにした、「あるべき業務プロセス」のモデル化・シミュレーションの繰り返しによりビジネスプロセスの改善を図ります。

モデル化においては、BPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)という表記を使用し、業務プロセスをモデル化します。日本では、業務プロセスはPowerPointで表現されることが多く、BPMNという表記自体を耳にする機会が少ないかもしれません。一方で、「SAP Signavio」をはじめとし、多くのプロセスマイニングツール(例:Celonis)では、業務プロセスを表現するためにBPMNという表記を使用しています。

シミュレーションにおいては、コストやリードタイム、対応人数、発生頻度などをパラメータとして与え、「現状の業務プロセス」から「あるべき業務プロセス」に改善した場合の改善効果を定量的に試算することが可能です。

そのため、まずはプロセスマイニングにより、「現状の業務プロセス」でリードタイムなどの観点でボトルネックになってしまっている業務を特定したうえで、そのボトルネックを解消するために、「あるべき業務プロセス」の再設計(モデル化)とシミュレーションを繰り返していくという手順となります。

このプロセスマネージャーのイメージをつかんでいただくためには、以下のTutorial Videoを参照いただくのがよいかと思います。英語になってしまいますが、興味のある方はぜひご参照ください。

4.3 SAP BTP (SAP Business Technology Platform)におけるアプローチの変遷

これまでに「SAP Signavio」という、SAPの新しいサービスについて紹介をしてきましたが、SAP BTPについても「SAP TechEd Japan 2021」(Link)の『SAP の最新テクノロジー総まとめ!インテリジェント エンタープライズの世界をテクノロジー視点でビシッと深堀り』をもとに少し触れておこうと思います。

SAP BTPの従来のアプローチはどちらかと言えば、「テクノロジー」にフォーカスをしたものでした。それが今後はプロセス改善を軸とし業務シナリオ観点で具体的な課題を改善を明示するという「業務」にフォーカスしたアプローチに移り変わっていくようです。

テクノロジーはあくまでもお客様により多くの価値を提供するための手段ですので、これは当然と言えば当然の動きです。このアプローチの変遷を受け、どのようにテクノロジーを活用することによってお客様への提供価値を最大化できるか、といったことを以前よりも増して考えつづけていく必要があると感じました。

Business Technology Platformにおけるアプローチの変遷
(出典: 「SAP TechEd Japan 2021」(Link)の『SAP の最新テクノロジー総まとめ!インテリジェント エンタープライズの世界をテクノロジー視点でビシッと深堀り』)

5. おわりに

今回、機械学習かプロセスマイニングのどちらをテーマにAdvent Calendarの記事を執筆しようかと迷いましたが、「SAP TechEd Japan 2021」(Link)でSignavioのセッションが開催されたことやSAP BTPにおけるアプローチの変遷といった話題が出たことを受けて、より旬そうなプロセスマイニングをテーマにすることにしました。

一方で、SAPにおける機械学習関連のテクノロジーにも非常に強い関心を持っています。今年10月12日には、SAPの新しい機械学習・AI系サービスとして「SAP AI Launchpad」がリリースをされ、SAPでの機械学習・AIのシナリオやモデルの一元的な管理が可能となりました。同タイミングでリリースされた「SAP AI Core」では、MLOps(機械学習における継続的デリバリとパイプラインの自動化)も可能となるようです。

SAPにも続々と新しいテクノロジーやアプローチが登場してきて、とてもわくわくします。一方で常にアンテナを高く張っておかないと、すぐに置いて行かれそうな危機感もあるので、必死に最新の情報をキャッチアップ・情報共有できるようにしておきたいです!

最後になりますが、SAP Advent Calendar 2021の企画をしていただいた方、記事の執筆をしていただいた(していただける)方、SNSでSAPを盛り上げていただけている方、いつもありがとうございます!

それでは、よいお年を!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?