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『ドン・カルロス』アフタートーク回答④

2021年11月27日(日)17:30- 公演のアフタートークで、twitterアンケート #教えて深作さんmさんが寄せて下さったご質問にお答えしました。まとめ、補完して公開いたします。

43場のカルロスの台詞で、台本では「圧政に苦しむ、世界じゅうの人々を解放するんだ」とありますが、舞台では「〜子どもたちを解放するんだ」と言っていたように思います。子どもに焦点を当てた意図は何かありますか?


ご指摘の通り、ある日稽古に行ってみると「圧政に苦しむ世界じゅうの人々を解放するんだ」が「圧政に苦しむ世界じゅうの子どもたちを解放するんだ」に変わっていました。「ロドリーゴの意志を継ぐ」ならまずはフランドルを、それから世界じゅうの人々を救わなければなりません。私が「どうして変えたんですか?」と問うと、深作さんは冗談ぽく「大人は救わなくていんじゃねぇかって思っちゃったんだよなぁ」と仰いました。


最後の二つの筋行動
・エリザベートがロドリーゴから銃を受け取りカルロスを守る覚悟を決める。
・エリザベートがまだ赤ちゃんであるクララを背負って一緒に逃げようとする。

はシラーの原作になく、私が2021年の今上演されることを考慮して深作さんに提案したものです。原作の王妃は王が現れたところで突然失神して死にます。(この辺りの改訂意図については電子書籍版上演台本のおまけページで補足する予定です)

深作さんはこの筋行動を踏まえ、「クララ、エリザベート、カルロスの3人の未来」、何より〈まだ赤ちゃんであるクララの未来〉にこそ希望を見出せる最後にしようと考えたそうです。Leben(命、人生)を取り返したエリザベート、最後まで〈大人の男〉にならなかったカルロスだからこそ「圧政に苦しむ世界じゅうの子どもたちを解放するんだ」という言葉が生まれた、と読めます。


歴史上、クララことイザベル・クララ・エウゲニア・デ・アウストリア Isabel Clara Eugenia de Austria は非常に聡明な女性で、成長すると父フェリペ2世の片腕となり、彼が亡くなるまで執務を補佐したと伝えられています。父の死後33歳で従兄のアルブレヒトと結婚し、スペイン領ネーデルラントを共同統治、夫の死後はクララ自身が総督となりました。この夫婦が治めていた頃のネーデルラントは、いわゆる八十年戦争が落ち着き、フランドル・バロックの黄金時代を迎えたそうです。例えばヤン・ブリューゲル、パウル・ルーベンス、ヴァン・ダイクなどの画家が知られています。


カルロスの視点では悲劇とも取れる終幕ですが、未来への希望は遺されました。ロドリーゴの意志はカルロスとエリザベートを通してクララに引き継がれることでしょう。


ポーサ侯   (...)私の理想とする世界は、今この時代には実現しないでしょう……しかし、諦めたのではありません。次に来る、より良き時代を待つのです。
王      そんな時代が、いつ訪れる?
ポーサ侯   そう遠くない未来――  

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