anotherSTORY〜約束
アージェ
5年前。ふらりと立ち寄った港町で、俺はある女に出会った。人だかりの中心で、柄の悪い連中に絡まれていたその女は、はたから見ていても堂々としていて、そいつらなんて束になってかかっても勝てるわけないってくらいのオーラを漂わせていた。そいつらが剣を抜き出してもその不敵な表情は崩れない。相当の手練れだ。そう感じた。だからそのままその場を後にした。俺の助太刀など余計なお節介だ。
その港町を訪れたのは昔なじみに会う予定だったのだが、二日待って約束の場所に現れなかったので、やれやれ、相変わらずだなあ~と苦笑いして次の目的地に向けて出発した。その道中で、再びその女と出会った。
町からもう随分外れていた森の中だったから、昨日のような観客としての人だかりはなかったが、剣を手に取り囲んでいる連中の頭数がおかしい。なんでたった一人の女に対して、15人も集めたんだ。だが、わかっちゃいねえな。その女はお前らの手に負えるレベルの女じゃねえ。
流石にこの人数なので街道はふさがれちまってる。仕方ないので、高みの見物をしていたらものの一刻で決着はついてしまった。負け犬の遠吠えを吐きながら退散していく連中を冷ややかに観察していたら、その女と目があった。そして驚いたことに俺の名前を口にしたのだ。
手出ししないでくれて助かった。そういいながら荷物の中から一通の手紙を取り出し俺に読めと促してきた。
なにがなんやらと混乱しながらで紙を開封したら、待ち合わせの約束を守らなかった昔なじみのバルディ博士のくっそ汚い文字が綴られていた。
バルディ博士は前の仕事で世話になった縁で、依頼されてた薬草をあの港街で渡す予定だった。だが、その手紙には約束を破ったことについても、ましてや待ちぼうけを食らわせた謝辞の一言もなく、
アドリニア号に乗らないか?とだけ、簡潔に書かれていた。
あたしがアドリニアの船長のレイラだ。
次の目的地への出航に、お前さんの力を貸して欲しい。
手紙から目を上げた俺にそう告げた親方は、その手を差し出してきた。
こりゃ、面白いことになりそうだなって思った。だから、差し出されたその手を思いっきり握ってやったら、負けじと握り返してきやがった。いいじゃねえか、気に入ったぜ。
…その【船】ってのが、まさかの海賊船だったってのをバルディ博士と合流してから知ったって後日談はまた今度ってことで…
さあ!出航の準備だ!!!
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