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Another Story〜風変わり〜

シャル

どうしてかなと思うことはあるけれども。それが必然だったのだろうな。

そう呟いた言葉に反応するようにこちらに視線を向けるかの御仁は、案の定聞こえなかった振りをして、昼寝の続きを再開した。
しまった。ついでに溜まってる仕事を振ればよかった。

この世界は上司を選べない。上層部の決定には従うのが軍人としての責務である。だが、まさか最初っからこんな問題児の副官としての任務が下されるとは思ってもいなかった。
とはいえ、自分はどちらかというと正論を淡々と述べてしまうところがあったり、ちょっとした 出来心も許せない性分なので、融通がきかない偏屈な若者の処遇に、帝国内で甘い蜜を吸いたい系の関係性しか知らない輩たちには、正直扱い辛かったのだろう。

世襲制が常のこの世界で、自分の家系もどっぶりの軍人貴族。特に祖父の躾が厳しすぎたこともあり、軍籍の幼年学校の同期に対しても丁寧語で通してきた。もちろん、上に三人いる姉に対しても同じである。言葉の乱れは心の乱れ、それが身についた所作だった。

何てことをきっちり守ってた頃が懐かしいぜ

なにせこの上司ときたら、畏まった態度を部下に許さないのだ。本当に風変わりすぎる。
そして、この関係性を自分も心地よく感じているのが口惜しい。

提督!

声をかけたら面倒そうな声を返してくる提督へ、鷹の足についた手紙を渡す。その表情が徐々に嬉しさに変化していく。
しらっとぼけて誰っすかと聞いたら惚れた女とか言い出す始末。

提督…早い所ものにしちゃえよ、後になって後悔することになっても知らねえぞ?

恋愛に関してだけは意外と奥手な、しかし海の上では昼寝ばっかりでいいところ何にもないようで、いざという時は頼れる上司に、心の中で自分なりのエールを送った。

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