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お互いに忘れましょう

「クコの実か。」

ベッドの上で、
寢る前に調べたその名前を目にして、
ふと呟いた。


2日前に泊まった旅館で食べた懐石料理の最後に、
水物(デザートてきなもの)として出てきた能登ミルク杏仁豆腐。


それを食べながらあなたが聞いてきた。
「この赤い実なんだっけ。聞けば思い出すはずなんだけど…!さくらんぼじゃないときこれだよね。」

そのときはなんだっけねって2人で頭を傾けながら、答えは出ず、
とりあえず美味しいねって笑った。


部屋でひとり、
「クコの実か。」
また呟きながら検索の画面を読んでいろいろ知った。


クコの実。

枸杞クコという植物になるその実は、
初夏から秋に、鋭いトゲの細い枝についた葉のわきに、淡紫色の小さな5弁花を数輪咲かせ、
晩秋に楕円形の小さな実がなり、紅く熟したものだ。

このように花を咲かせるということで、
調べている時にいくつかのサイトから何度か同じような花言葉が目に入ってきた。

クコの花言葉は「誠実」、
そして、「お互いに忘れましょう」。

“忘れる”?

少し珍しい花言葉に思えた。

どうやらこの「お互いに忘れましょう」という由來は、クコの持つ鋭いとげと、実の持つ薬効からだという。

たとえ鋭い棘で傷つけてしまっても、
栄養と薬効のある赤い実で癒してあげられる。

ということだろうか。

傷つけてしまっても、帳消しにできるから。

少し屁理屈のような、厚かましいような言い様にも感じた。


でももしかしたら、
これはかなり人間関係の中では必要な考え方なのかもしれないとも思った。



僕らはどれだけ真面目に生きようとしていても、
決してそこに棘を生まないとは言いきれない。

誰かを傷つけずに生きられる保証は無い。

僕の言葉にも棘があるのだろう。
そして意図せずともその言葉であなたを傷つけてしまうということはこれから先きっとあるのだろう。

それはお互いにとり同じように。


そしてそんな些細なことから、行き違いが生まれ、
喧嘩をすることがあるかもしれない。

そんな時に大事なのが“クコの実のような力”なのかもしれない。

傷つけ合ったお互いの関係を本質的に治すことができるのは、傷つけあってしまった彼ら自身なのだ。


与えてしまった傷をお互いにさらに深めてしまうのではなく。
傷を治し、その痛みをお互いに忘れられるように。


初めはどちらか片方が原因で起きてしまったいさかいであったとしたら、あなたが怒りをもつことは当然だ。

でも、そこで苦しめること、懲らしめてやることを目的とした時に両者の傷は深まる一方。

何も解決には向かわないのだろう。


傷を治し、その痛みをお互いに忘れられるようにどうするべきか。
そんなところに目を向けて歩み寄りたい。



「クコの実をお守りにしようか。」
そんなことを心の中で呟いた。


これから先もしも、
僕らがその棘でお互いを傷つけあってしまうことがあったら、まずは相手の感じた痛みから目を背けないこと。そして、その傷をさらに深めないこと。

しっかりと反省をしたら、
その後はクコの実が乗っかった杏仁豆腐を見つけに出かけよう。

そして、
傷つけてしまったことはしっかりと記憶に刻んだ上で忘れることなく、

「痛み」はずっと心に抱えていても苦しいだけだから、その痛みをお互いに吹き飛ばし忘れるくらい笑ったあなたの顔を探しにいこう。


そんなことを考えながら、
最後に、このクコの花がいくつかあるうちの僕の誕生花の一つであることも知り、

この杏仁豆腐との出会いにどこか運命を感じた。

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