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黄金の波 華舞う日の出

極上ナゴヤカブキ3 『BENTEN the KID -御存知弁天小僧白波事始-』観劇に寄せて。

子供の頃、戦隊モノのヒーローが大好きでした。悪い奴らがやってきても「助けてー!」って呼ぶと必ず駆け付けてピンチを救ってくれるヒーロー達。目をキラキラさせて、そんなヒーロー達を何度も観ていた、遠き日の思い出。

ナゴヤ座の大人気演目『BENTEN the KID -御存知弁天小僧白波事始-』が再演という形で帰ってきた!ということで、2021年11月6日、7日に行われた舞台を観劇してまいりました。再演は、その演目があらゆる立場の人から愛されていた証だと思うのです。当時観ていた皆さまは、初演を思い返したり変化に気付きを得られる。初めて観劇する側は、やっと自分の目で観れる喜びと、画面越しに大好きになった世界に出会い直せる。何度でも新鮮な喜びを与えてくれる場所。今のナゴヤ座が魅せてくれたのはそのときの「再現」では終わらず、更に進化した舞台でした。

名古屋虎三郎さん(トラザさん)がインスタに書いてくれたこの記事がとても好きです。全員が主役、という捉え方。

メインキャラクターだけではない、個性豊かで魅力溢れる登場人物。懲らしめる対象となる悪がいて、悪さをすれば裁きを受ける、という構図がとても観やすい。視点をどこに向けるかによって、何が正義か正解か逆転してしまうこともある。一人一人のスピンオフ作品が観たくなるくらい。

広い舞台をフル活用したギミック、バッチバチの殺陣とアクション。視覚からも楽しませてくれて、笑顔にしてくれる。場面に合わせた照明も本当に美しかった。個人的には日本駄右衛門と赤星十三郎が対峙するところで、紫と赤が織り成す世界が大好きでした。

この演目を愛している皆さまが会いたかったあの人、聴きたかったあの台詞。また会えたね、やっと会えたね、という想いが溢れる空間でした。登場した瞬間に息を呑み、本当にいたんだ……!と胸が熱くなるあの時間。再演が与えてくれる醍醐味ですね。

名古屋山三郎さん演じる日本駄右衛門。圧倒的な存在感と飛び蹴りの滞空時間の長さや打点の高さ、袖からバク転で登場するアクロバティックな場面、四連飛び回し蹴りで起きた大きな拍手。弁天が大きな仕掛けに巻き込まれそうになった一場面、座長が手を伸ばして引き上げて助けてあげるのとても良き。座長の貫禄、さすがでございました。

名古屋山之助さん演じる弁天小僧菊之助。あの笑顔は、見る人の心を温めてくれる。日本駄右衛門との関係性、とても好き。日本駄右衛門(座長)と弁天(副座長)の対になった飛び蹴りも最高に好き。小僧だと揶揄われながらも、覚悟を決めて漢らしく首を差し出す場面も。タイトルロールの名に相応しい弁天小僧でした。

名古屋参駄右衛門さん演じる南郷力丸。人情溢れる十手持ちの親分。単純で真っ直ぐで、頼りになりそうでならなかったり。弁天を捕らえるのは自分だと張り切っているのに、いつも逃げられて、また追いかける。それがずっと続きますように、と願ってしまうような。十手を使った球返し(まぐれ)もアクロバティックでしたw

名古屋虎三郎さん演じる赤星十三郎。初めて日本駄右衛門と対峙する場面、お互い嫌いだと言い合いながらも刀を交えたらすぐに相手のことを理解して、日本駄右衛門のどストレートな口説きに心が動く様がめちゃくちゃ伝わる。魅せ場のひとつ、赤星の肩脱ぎで露わになった僧帽筋と三角筋、袋とじレベルの色気でした……。落ちている刀を拾う所作も綺麗。殺陣はもちろん、蹴り上げもキレッキレ。一匹狼の心が解けていく様子も、演目の中でとても大事なポイントでした。

名古屋虎之助さん演じる忠信。瓦版売りの相方から振られるアドリブ満載なキラーパスに、見事全力で応えてましたw 浜松屋の用心棒に襲われる場面では、突然のキレッキレアクション!回し蹴りを華麗にキメてからの「こわかった♡」という吉本的な展開も大爆笑。

名古屋参十坐さん演じる利平。瓦版売りの相方へ無茶振りしつつ、そんな相方を一番近くで見守っているコンビ愛を感じました。浜松屋の用心棒に襲われる場面ではひたすら叫びながら逃げ回ってたの微笑ましいw 誰よりも相方大好きなんだろうな、って場面もあり、2人で1人の忠信利平をバランス良く表現してくれていました。

名古屋参九郎さん演じる浜松屋幸兵衛。商人のときのニコニコ笑顔と、悪事を暴かれてからの豹変っぷりが怖い!浜松屋最終兵器が次々に登場するところでは自ら変身してしまったり、全員が総ツッコミする場面も見事な振りでしたw 悪事は裁かれ降参して終わる、という一連の流れを表現する上でのキーパーソン。丁稚との絡みも微笑ましく、浜松屋の日常を見てみたい!

名古屋参永已さん演じる用心棒・本間。クレイジーさが滲み出ていて、せっかちさや苛立ちを隠せない様子が貧乏ゆすりでも表現されてた!捕らえられている日本駄右衛門の唸りにうるさいと殴りかかったり傷を抉るところ。やべえ奴感がたまらなく伝わりました。

名古屋参十郎さん演じる用心棒・橋本。刀を持つときは唸るように相手に斬りかかっていくのに、相方と賭博をしていたときのはしゃぎっぷりのギャップ。用心棒コンビの対比が面白く、これもスピンオフを是非に……と願ってしまいます。

浜松屋の場面で登場したたくさんの演者さんも、舞台に彩りを与えてくれていました!見所がたくさんありすぎて目が足りない……と何度も思った舞台。一人一人の個性が見えて、少しずつ関係性が絡み合い、心を寄せていく5人組。我々はそのはじまりの目撃者になれたわけです。

赤星役の虎三郎さんは同時期に別のカンパニーでの舞台も控えており、スケジュール的に今回のBENTENへの出演を諦めようか、という選択肢があったそうです。でも後悔しないように、という仲間の後押しや各所の関係者さまのご協力もあり、どちらにも出演するという決断をしてくれました。稽古も準備も同時進行になるけど、その決断をしてくださったおかげでたくさんの人が赤星十三郎に出会えたので、虎三郎さんの本気の役者魂に胸を打たれました。一期一会の舞台を大切にしてくれる想いに感謝でいっぱいです。ナゴヤ座の好きなところの一つですが、外部での舞台に出演する一座がいると、がんばれー!いってらっしゃい!とみんなが応援して背中を押して見送っているんです。そういう温かい空気が、日頃のナゴヤ座の雰囲気に繋がっているんですね。

さて、『BENTEN the KID』初演の映像は、ナゴヤ座YouTubeチャンネルで無料公開中です!

常に一番を更新してくれるナゴヤ座、こちらの期待値もどんどん上がる中、更にその期待値を超えてきてくれて、感性を刺激してくれます。

ブログタイトルは『こがねのなみ はなまうひので』。
二幕ラスト、小判に見立てた黄金の華を客席に降らせる場面で、大きな拍手の雨の中、キラキラと黄金色に輝く華が波のように見えてとてもとても綺麗でした。そんな黄金の波の中、弁天の大好きな朝日が昇る、まさに絶景。5人組の名乗り口上も極上でした。一人一人の口上を聴きながら、涙が止まらなかった。

冒頭に書いた遠き日の記憶に戻りますが、ピンチのときに必ず助けにきてくれるヒーロー達。目をキラキラさせて観ていたステージ、ドキドキワクワクする時間をくれて、笑顔にしてくれる。私にとってのナゴヤ座は、あの頃憧れたヒーローだ。そんな令和のヒーロー達にまた会いに行こう。膝の上にある黄金のオヒネリを握りしめて。

舞台の世界ではご縁の巡り合わせがとても大きいと思うので、今回この演目の再演に繋がったイベントに心からの感謝を。素敵な時間をいただき、ありがとうございました!

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