もうダメかもしれない。(上)
何度もつぶやいた言葉。今の『ダメかも』だって、無数の「ダメ」に混ぜられ溶けてゆく。私が死を迎える頃には(かなり先だろうけど)口癖の一つに数えられるだろう。私の取り扱い説明書があったら、注意書きに添えられるんじゃないかな?
わかってるの。ダメじゃないって。
ダメだって思いたいだけ、それで安心出来るって言うのかな? 別の言葉では置き換えられない雰囲気を纏ってるの。
そりゃ最初の頃は本当に「ダメ」って思って、感じて呟いてたハズなんだけどね。
いつからだろう。
緊迫感から少しずつ距離を取って、大丈夫のエリアに引かれた白線の内側から、はみ出さない。
それが成長で、それが大人になる事だって思い込んでた。
年金が貰えなくなるとか、日本が貧しくなってるだとか。
そんなニュースが流れて来るけど、スワイプしてタップなんてしない。そうすると目に入らなくなるって事ぐらい知ってるよ。アルゴリズムでしょ?(アルゴリズム体操ってなかったっけ? 何か関係あるのかな?)
私が何かしたって未来は変わらない。
なんとなく、少し良い方向に向かっていくの。今までがそうだったし、これからもそう。ノストラダムスだってやってこなかったでしょ?
みんなと同じ目標を立てて、みんなが欲しがる物を手に入れようと努力して、みんなが喜ぶモノを私も喜ぶ。それが白線の内側なんだ。
aiが仕事を奪うって話を聞いたの。
緊張感がまるで無い、荒唐無稽な話。もう寓話って思ってるよ。
そりゃいつか『そう』なるかも知れないけど、今慌てる必要なんかまるでないの。白線の内側では時間がゆっくり進むんだから。革新とか変革とか無縁の世界。誰も得をしないし、誰も損をしない。
安心して、こうつぶやくの
「ダメかも知れない」
そうやって毎日を繰り返して、今日も電車を待っている。時刻表なんか見る事もなくなった。地元にいる頃は数件の電話番号と最寄り駅の時刻表は暗記してたの。どっちも覚えとかないと不便だったから。まだ全員がスマホ持ってなかったし、電車も1本乗り遅れると大ダメージだったから。
今と都会はすごいよ。
電車なんて息つく暇がないぐらいやってくるし、ラインで誰にだって繋がれる。
子供の頃の田舎には戻れないかな。
「白線の内側にお下がりください」
わかってる。これが白線でこっちが内側。
そんな私でも少しは自己主張も必要なんだ。
出しゃばらず、凹み過ぎない、適度な自己主張。アプリで読んだ漫画にヒントがあったの。
落語って、知ってる?
漫画ならわかりやすいし、なんとなくピンと来たの。
昔の話なんだけど、そこがいいの。何も無い時代(江戸とか?)だから、純愛って感じで。何て話なのか忘れちゃったけど、ちょうどいいんだ。
古典が好きって、私にピッタリな趣味じゃない?
YouTubeで見てみたけど、おじいちゃんがやってるから、いまいちわからないけど、その「わからない感じ」を趣味にしてるって、ちょっと特別。
少しドキドキしながら、落語で検索するの。
若い人も落語やってて、知らない話も沢山あって、「へー!」って思うこともあってさ。
寄席? 行ってみようかなって思うけど、一人で行く勇気はないんだ。SNSでは落語好きな人達が集まってるから、恐る恐る絡んでみようかとも思うんだけど、それはまだいいや。
昼休み、同僚にChatGPTって教えて貰ったけど、何が面白いのかわからなかったよ。きっと私とランチしたい口実なんだろうけど、それならもう少し面白い話すればいいのに。半七のウブな所とかお花ちゃんの積極的な所とかさ(これは落語ね)。
AIなんだそうな。
せっかく教えて貰ったから少し調べたら、アニメの画像だらけ。
推しの子ってアニメの主人公? がアイって名前でAIだからみたい。
ChatGPTよりアニメの方が面白いよ。全部観ちゃったよ(1.5倍速でね)。二期が待ち遠しいなぁ。
健康にも気を使うから、サプリ飲んでるの。アマゾンで新しいサプリ探してたら
「落語家の華麗なるITライフ」って本が出てきてね。
何でだろう?何でだろう?ななな何でだろう〜って振り付きで口ずさんじゃったよ。
運命の出会いなんてないよ。アルゴリズムだからね。最近落語を観てて、AIを調べたから。
「華麗なる」って所が気になったから、ポチってみたの。全く期待なんかしてないけど、評価は4.9とかなり高い。待って、これだけで判断しちゃダメ。書き込まれたのは11件。かなり少ない。自作自演の可能性だってあるでしょ。そこは冷静に判断するの。
竹書房だって。ポプテピピックが確かそうだったような?
今日も時間通りに出社して(ちょっと遅刻しそうだったから、早足だったけど)、引き継ぎがあるって急に言われてね。新しい事を覚えなくちゃいけないんだ。かなり憂鬱。こうやって責任重大な任務をさせられるの。給料がそんなに上がる訳でも無いのにね。給料上げなくていいから今のままで良くない?
帰宅したらポストに入ってた。
「落語家の華麗なるITライフ」
そういやポチったんだ。忘れてたよ。寝る前にフェイスマスクしながら読んでみるか。明日の支度も完璧に終えて、準備完了。本を手に取った時、鏡に己の姿が写る。毛玉だらけのパジャマに暮らす以上の負荷をかけてない身体、その上フェイスマスクだ。こりゃ誰にも見せれん。
最初のページをめくった。読書なんて何年ぶりだろう。資格取る時に読んだ教科書をカウントしなけりゃ、高校以来? 中学?
まさか小学校? 考えるのはよそう。
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